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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第十五話「黒木くんも、さわりたい?」

本日二本更新。一本目。


 街へと入る際は緊張はあった。


 だがそれは杞憂に終わった。


 門の周りにいた衛兵たちは、僕たちに軽く視線を向けるだけで、身分証明をする必要もなく素通りすることができた。


 そんな衛兵の一人に声をかける。


 藤田さんは怯えるように僕の後ろに隠れている。


「魔物の素材を換金したい。換金場所はどこだ」


 威圧的にそう尋ねた。


 衛兵は一瞬、僕の殺気立った声と雰囲気に顔をひきつらせる。


「あ、ああ。魔石ならここからも見えるあの赤い屋根、その向かいにあるのが換金所だ。蛙の看板がかかってる。その店のばあさんに言えばいい」


 衛兵はそう答えた。


 僕は衛兵に一瞥もくれず、換金所へと向かった。


 藤田さんは、まるで糸の切れた人形のように僕から離れようとせず付き従っていた。


 換金所に入る。


 中には冒険者が使うような装備品や雑貨などが所狭しと並んでいた。


 背に括り付けていた袋を外す。


 正面にあったカウンターにそれをドンと置き、中から魔石を含む素材を店主と思われるおばあさんに見せた。


「ほお……」


 特にあの大きなボアの魔石と牙には驚かれたが、指を二本立てた後、金貨を二〇枚カウンターに置き僕の顔を窺っていた。


「まあ、これでいいわ」


 内心ドキドキしながらそう言って金貨を手に取る。


「ばあさん、安全で風呂付の宿の場所を知りたい。あと、これで何泊できる?あー、これもくれ」


 横柄にそう尋ねながら、近くの棚にあった鉄の籠手を取るとカウンターに置く。


 籠手を買ったのは見た目が良く心が動いたというのものあるが、自身の横柄な態度への謝罪の意味もあった。


 多少苛立ちを見せたおばあさんだったが、宿の場所とそこなら金貨一枚、100,000$で二日泊まれること、籠手は48,000$だと教えてくれた。


 金貨一枚を出すと、大きめの銀貨が五枚、小さめの銀貨が二枚戻ってきた。


 大きめの銀貨は金貨の十分の一、ファンタジー小説でいう所の大銀貨というところなのだろう。


 小さめの銀貨はその十分の一といったことなのだと考えながら、おばあさんの顔色を窺った。


 苛立ちが消えたように見えたおばあさんに、「ついでに」と近くの安い食堂の場所を聞くと、さっき教えてくれた宿の一階は食堂になっていると教えられた。


「近くの食堂の倍くらいの値段だけどね。あんた達なら余裕なんだろ?」


「まあな」


 僕はそう返し、その換金所を後にした。


「あの、黒木くん」


 藤田さんが遠慮がちに僕の服の裾を引いた。


 その声は蚊の鳴くようだ。


「うるせえ。さっさとついてこい!」


 僕は振り返ることを我慢し、彼女を無視するように足早に目的地に向かう。


 宿の食堂は高級感漂う雰囲気であった。


 夕食時ということもあり賑わっている。


 周囲を窺ってみるが、道中で見かけた人たちよりは少し身なりの良い感じの客が多いように見えた。


 やはり風呂付は高級宿、ということなのだろう。


 僕は一番奥の角の席へと座った。


 藤田さんはおずおずと向かいに座るが、その表情は憔悴しているように見える。


「おい、さっさと何か注文しろ」


 僕はメニューを叩きつけるようにテーブルに置いた。


 その音が周囲に響き、周りの視線を集めていた。


「は、はい……」


 藤田さんは怯えたようにメニューを手に取った。


 僕もメニューをちらりと確認すると、どう見ても日本語に見えるメニューには、コースメニューで20,000$と書いてあった。


 大銀貨でコースメニュー、その他も単品で3,000$前後のものが並んでいる。


 半分程度の金額で考えれば、大体の価値は日本円と一緒なのだろうと考える。


 所詮は神が作ったゲームの世界だ。


 そんなもんだろうと結論付けた。


「まずそうな飯だな。お前はしっかり食え!」


 僕は金貨を一枚、テーブルに置いた。


 もちろん食欲など微塵もなく、食べる必要はないが、食べることで心が休まるのだと理解している。


 だから藤田さんには好きに食べてほしかった。


 僕は、不安が湧き出ては消え、何も喉を通る気がしなかった。


 藤田さんは戸惑うが、すぐに安堵したような顔を見せた。


「ありがとうございます」


 彼女はローストオークとサラダセットという肉とパン、サラダのセット料理、2,500$のものを注文していた。


 僕の目の前に置かれた水を一口だけ口にした。


 泥のような味がするなと感じた。


「まっず!」


 周りの客が僕を睨んでいる。


 僕らを値踏みするような視線が向けられる。


 僕は胃がキリキリと痛むのを感じながら、椅子に浅く腰掛け、背もたれに身を任せながらそれらを睨みつけた。


 藤田さんが嬉しそうにパンにかぶりつく。


 その姿を見て、さらに心が締め付けられた。


 胃の奥から何かがこみ上げてくるような息苦しさが、僕の喉を塞ぐ。


「おい、食いながら話せ。お前は、み、美織は何をどうしてああなったんだ?」


 僕は、戸惑いながらも藤田さんを美織と呼び、冷たい言葉を浴びせながら状況を確認する。


 心の中で深く謝罪しながら。


 藤田さんは震える声で話し始めた。


「はい。私は。森に飛ばされて、怖くてずっと隠れていました」


 彼女は小さい声でそう答えた。


 僕と同じように森へ飛ばされ、恐怖に震えていたのだろう。


「お腹も減らないし、数日間は耐えてたんだけど……」


「それで、さっさと話せ!」


 僕は冷たく急かす。


「ご、ごめんなさい!でも、もう不安で、もう無理だと思って、明るい方を目指して森を出ようと彷徨って……、ううっ」


 藤田さんは下を向き目を袖で擦っていた。


 その様子に僕も限界を迎えそうだった。


 恐怖に震えやっと助かったと思ったのに、僕にこんな態度で下僕と言われ……、今にも床に土下座をしてしまいそうだった。


 だが、弱音を吐くことは許されない。


「それで?」


「もう少しで森から出られると思ったところで、うっ、その、大きな魔物、オークって魔物に襲われて、そこをあの男の護衛に助けられて、そのまま連れてこられました」


 藤田さんはテーブルの上に置いた手をぎゅっと握りしめる。


「そして、あの、えっと、黒木くんが、助けてくれたんです!本当に、本当にありがとうございます!」


 不意に投げかけられたお礼の言葉に心が揺れる。


「ふん。そうかよ」


 顔を伏せそう返すが、安堵が広がり心が軽くなった気がした。


「おかげで、あの男に何度か体を触られただけで済みました」


 彼女はそう言って、僕を見た。


 頬を赤く染めている。


「え?」


 僕は言葉を失った。体が触られただけで済んだ、という言葉の裏にある恐怖を想像する。


 僕が助けなければ、やっぱりそういうことになっていたのだと。


 やはり助けて良かったのだと。


「黒木くんも、さわりたい?」


 藤田さんはさらに顔を赤くして、そう聞いてきた。


 彼女は、それを僕が望めば、それも下僕の務めだと受け入れるのだろうか。


 そんな事を考えてしまった自分に嫌気がさした。


 これじゃあの男と同じじゃないと。


「何言ってんだ!そんな貧相な体、さわるわきゃねーだろ!」


 僕は怒鳴るように言った。


 周囲の視線がさらに鋭くなるが、構わなかった。


「俺様はもっと豊満なお姉様がいいんだよ!わかったらさっさと飯くって寝ろ!」


 罵倒するような言葉を浴びせる。


 藤田さんは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに無表情に戻り、また食事を食べ始めた。


 それでいい。


 僕に向ける感情は嫌悪だけで良いのだ。


 食事を早々に終わらせ、僕は宿の受付に向かった。


 金貨が一枚で部屋を二つ取る。


 従業員の男性が隣り合わせの部屋まで案内してくれた。


「お前はこっちだ」


 僕は藤田さんに鍵を渡すと、乱暴に部屋へと突き飛ばすようにドンと押す。


「え、でも」


「貧相な体は見たくねぇって言ったろ?さっさと一人で寝ろ!」


 僕はそう怒鳴りつけ、彼女の背中をさらに乱暴に押しドアを閉めた。


 周囲の客室のドアが、僕の怒鳴り声に反応して少し開くのが見えた。


 そして自分の部屋に入ると、すぐに不安が限界に達しトイレへと駆けこんだ。


 震えが止まらない。


 手のひらに汗がにじむ。


 体が、心が、鉛のように重い。


 もちろん尿意などはない。


 ただ、どうしようもなく落ち着かない。


 外界から遮断された空間が、今、僕には必要だったのだ。


 便座にまたがりうつむいた。


 僕の弱気な表情が隠せるように。


 そんな僕の視界に文字が表示された。


『神フラッシュ発動中・音声と映像が遮断されます』


 僕は思わず目を見開き顔を上げる。


 これなら弱音を吐いても誰にも聞かれない。神から与えた唯一の救いの時。


 僕は安堵と絶望が入り混じったまま、声に出して弱音を吐き出した。


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