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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第十三話「お前、弱っちーからそんなことになるんだよ!」


 体に熱を感じる。


 眠っていた僕の意識を覚醒し、ガバリと体を起こす。


 深い眠りから浮上した意識は、すぐにここが城塞都市バルドの巨大な外壁のそばにある木陰だと理解した。


「ちっ、俺様としたことが……」


 頭をガシガシと掻く仕草で俺様ロールを試みるが、内心はドキドキしていた。


 時刻は夕方。


 人通りも多いと予想され、一日のうちで最も警戒すべき時間帯の一つだったが、幸いにも何事もなく僕は無防備な状態での意識の寸断から生還することができた。


「くそっ、情けねえ」


 僕は自分自身を罵った。


 街の手前で気を抜くとは。


 疲労のせいで全身が鉛のように重いが、ここで時間を潰すわけにはいかないなと起き上がり歩き始める。


 門が開いているうちに街に入ろう。


 僕は鬼竜一号を腰に提げひと呼吸おくと、再び俺様の仮面を被り直した。


 不安を打ち消すための最強の虚勢。


 これだけが僕を支える唯一の盾だった。


「ふん、まあ寝ていようが、俺様を傷付けることのできる魔物なんて、このあたりにはいねーけどな!」


 軽口を叩きながら巨大な門へと向かって足を速める。


 門周辺は朝方見た時とは打って変わって、荷を運び込む者などでごった返していた。


 人々の話し声、馬車の車輪が石畳を軋ませる音、鉄の鎧の音。


 すべてが懐かしい日常の音だった。


 胸が高鳴る。


 もうすぐ、人間らしい生活に戻れる。


 思わずそう考えてしまった時、活気に満ちた人々の流れの端で、気分を害する光景が僕の目に入る。


 一人の女性が背後から大柄な男に小突かれながら歩いていた。


 その女性の薄汚れた身なりは、見覚えのある制服のような服だった。


「藤田?」


 その表情を目視できる位置まで来た時、僕は足を止めた。


 彼女は、僕の元クラスメイトである藤田美織だった。


 大人しくて目立たないタイプの子だった。


 彼女の目は虚ろで地面を見つめ、ポニーテールの髪は乱れ、顔には土と涙の跡がこびりついている。


 そして、彼女の背後に立つ男は、丸みをおびた大柄、つまりは肥満体と表現する方が適切だろう体系をしていた。


 下品な笑顔を浮かべ、いかにも悪辣そうな雰囲気を漂わせている。


 その男が、苛立ち紛れに藤田の背中を突き飛ばすように押していた。


「早く行け、トロトロすんじゃねぇ!」


 藤田はびくっと肩を震わせただけ。


 まるで魂を抜かれたかのように、ただ押し出されるように足を進めている。


 僕は心の中で葛藤する。


 関わるな。


 足枷になる。


 面倒事に首を突っ込むな。


 だが同時に、別の感情が激しく渦巻いていた。


 同じ故郷から、同じ教室から、この理不尽な世界に転移させられた、同じ転生者である元クラスメイト。


 見知ったその存在を。


「おらそこ、邪魔なんだよ!」


 気付けば僕は、その男に近づきそう叫んでいた。


 手には鬼竜一号をしっかり握りしめ、込み上げる不安を打ち消した。


「おい、そこのブタ!」


 僕の唐突な大声に、周囲の喧騒が一瞬遠のいた。


 大柄な男は不機嫌そうに振り返った。


 男の顔は脂ぎっていて、額には汗が滲んでいる。


 すでに両脇にいた護衛と思われる男たちは僕を警戒するよう前に出ていた。


「あぁ?なんだテメェは。今忙しいんだ、引っ込んでろ!」


 男は僕を一瞥し、すぐに藤田へ視線を戻して蹴りを入れる。


 藤田が小さく呻いた。


「お前っ……、俺様を無視すんじゃねー!」


 殺意にも似た怒りが全身を駆け巡った瞬間、藤田の視線が僕を捉えた。


「黒木、君……」


 その虚ろな目からは、堰を切ったように涙が溢れ出した。


 声は震え、僕の名前を呼んだだけ。


 次の言葉が出てこなかった。


 男は僕の言葉を遮り、藤田の腕を乱暴に掴んだ。


「お前、この女の知り合いか?」


 男は下卑た笑いを浮かべた。


「いい時に来たな。聞いて驚けよ、この女、森で魔物に襲われて死にかけていたんだぜ。それをこの俺様が保護してやったんだ!」


「それで?」


 僕は冷たく言い放った。


「それで?つまりはこいつは俺のモノってことだ。命を助けてやったんだから、俺がどうしようと勝手だろ?わかったら、お前みたいなひょろいガキはさっさと帰れ!」


 その男の言葉に、入り口のそばに待機している衛兵たちは無関心を装い、通行人たちは見て見ぬふりをした。


 この世界ではそれが『ルール』なのだろう。


 力ある者が弱者を所有する。


 僕の心臓は激しく脈打っていた。


 足が今にも震え出しそうだった。


 だが、その男への怒りが、僕を突き動かす原動力となった。


「へー、そいつは面白いね話だ」


 僕はニヤリと笑ってみせた。


「テメェ、何笑ってんだ!お前、何様のつもり!」


「俺様だよ」


 僕は一歩前に出る。


「お前の言葉に従えば、俺様がその女を、お前みてーなブタ野郎から守ったら好きにしても良いってことだよな!」


「なん―――」


 男が反論する言葉を言い終える前に、僕は鬼竜一号を地面に叩きつける。


 地面が大きく抉れはじけ飛んだ石畳が飛び散った。


 それに反応するように、二人の護衛が剣を抜き放った。


 呆気にとられた男の太い腹をつま先で軽く蹴る。


 男は小さく呻くと蹲る。


「この、不届き者め!」


 剣先が僕の顔めがけて振り下ろされるが……、遅すぎる。


 僕の瞳には剣の軌道がスローモーションのように見えていた。


 僕は鬼竜一号を二度動かすと、金属音と共に二人の持つ剣先が宙を舞う。


 折れた剣の先端は、蹲る男のそばに弧を描いて落ち、石畳に弾かれる方に跳ねた。


 男は絶叫した。


 恐怖と激痛、そして屈辱がない交ぜになったような悲鳴だった。


「ひ、ひぃ!な、なんだこいつは!ば、化け物!」


 男は屈んだままの体制でその場を後退る。


「解放しろ」


 僕が低い声で言うと、男は目玉を血走らせながら叫んだ。


「わ、わかった!この女はやる!もう要らねぇ!」


 男は立ち上がり、そんな捨て台詞を残して僕に背を向ける。


「テメェら、何やってんだ!早くこいよ!このクソ役立たずどもがっ!」


 男は護衛たちに八つ当たりしながら門をくぐり、街の中へと消えていった。


 周囲の通行人は、一瞬の静寂の後、何事もなかったかのように再び歩き出す。


 誰も助けようとはしなかったが、誰も僕を咎めようともしなかった。


 その様子を確認する中、僕の耳にか細い声が届いた。


「黒木、くん……」


 藤田は震える体を抱きしめるように僕に駆け寄ってきた。


 その目は、恐怖から解放された安堵と、僕への深い依存で満たされているように見えた。


「ありがとう……、助けてくれて、本当に……、ありがとう……」


 細い腕が僕の服の袖を掴む。


 すがりつくような彼女の手に、僕は全身の筋肉が強張るのを感じた。


 ついさっき振り切ったはずの激しい葛藤が、再びやってくる。


 この世界で一人になる恐怖は、僕が一番よく知っている。


 見知った顔の元クラスメイト。


 彼女を突き放すべきではないのは分かっている。


 だが、彼女という存在は足枷になる。


 この世界は自分の命は自分で守らなくてはいけない過酷な世界。


 藤田に対し恋愛感情などは欠片も持っていなかった。


 ただ、故郷を同じくする者への、捨てきれない同情心が疼き、どうしてもその手を振り払うことができなかった。


 ならば……。


 彼女が僕に従わなければいけない状況を作りあげよう。


 きっと彼女は僕を嫌うだろう。


 彼女の命を僕は守り、鍛え上げる。


 そして、時が来れば彼女は、自分の意思で僕から離れていくだろう。


 僕はそんな思いで藤田の手を払う。


「おい、泣くな」


 僕は心を鬼にして声を張り上げた。


 内臓を切り裂くような痛みを感じながら、声の震えを必死に堪えた。


「お前、弱っちーからそんなことになるんだよ!この世界で女一人で生き残れるとでも思ったか?」


 藤田は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。


 僕は、顔に冷たい笑みを貼り付けた。


「いいかよく聞け。今日からお前は俺様の下僕だ!」


 僕の言葉は、門を通る人々のざわめきの中でも、藤田の心臓に直接突き刺さるように響いたはずだ。


「俺の命令には絶対に従え。食うも寝るも、進むも止まるも、全て俺様の許可が必要だ。分かったな!」


 心の中で深く謝罪しながら、僕は彼女の目を見据え、強くそう言い放った。


 藤田は僕の言葉を聞いても、怯えるどころか、むしろ安堵したように見えた。


 彼女は泣きながら、大きく、そして深く頷いた。


「は、はい……、黒木、様……」


 僕は元クラスメイトとの再会を果たした。


 そして、僕は最強の悪役(ヒール)、竜也様として、最初の下僕(庇護対象)を手に入れたのだ。


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