表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/56

第十二話「くそっ、神の野郎、余計なことを!」


 木々が疎らに生える森の中を、僕はひたすらに北へと向かっていた。


 足元の草を踏みしめる感触。


 湿った土の匂い。


 どこからか聞こえる鳥のさえずり。


 それらが現実であることを主張してくるが、僕の感覚はどこか麻痺していた。


 ただ足を動かす機械になったかのように、無心で走る。


 怒りは消えない。


 だがそれ以上に、冷静になってきたことで生じる不安と恐怖、それらを打ち消すように無心で走る。


 時折、草むらから飛び出してくる角ウサギや巨大ネズミは、もはや敵ではなかった。


 鬼竜一号を一閃させるだけで、彼らは光の粒子となって消えていく。


 斬撃スキルの熟練度も上がっているのだろう。


 手応えすら感じさせない単純作業に、僕は自分の強さを再確認すると同時に、命を奪うことへの慣れに寒気を覚えた。


 太陽が頭上に昇りかけた頃だった。


 突如、脳内に無機質なアナウンスが響き渡った。


『スキル:ログアウトが一週間の連続使用ボーナスによりレベルアップしました』


「は?」


 僕は足を止め、思わず声を出した。


 一週間。


 そうか、今日で七日目だ。


 あの部屋に引きこもっていた頃は、曜日の感覚などとうに失っていたが、この世界に来てからは一日一日が長すぎて、日付の感覚が鋭敏になっていたらしい。


 僕は操られるようにステータス画面を開いた。


『スキル:ログアウト・Lv2』


 レベルの数字が1から2に変わっている。


 詳細をタップすると、説明文が更新されていた。


『ログアウト・Lv2:毎日20分間、元の世界に帰還する。外部音声の聴取が可能』


「20分?たったそれだけかよ!」


 僕は舌打ちをしながら毒づいた。


 10分が20分になったところで、何ができるというのだ。


 劇的な変化ではない。


 だが、説明文の後半部分に目が止まる。


『外部音声の聴取が可能』


 今まではこちらの世界から戻った際、部屋の外の音は遮断されていた。


 姉ちゃんの声は聞こえず、口の動きやメールでの対話をするしかなかった。


 それが聞こえるようになるのだ。


「悪くねえな」


 姉ちゃんの声が聞ける。


 それだけで、20分という短い時間が黄金のような価値を持つものに思えた。


 だが不安は尽きない。


 レベルが上がったということは、このスキルにはまだ先があるということだ。


 Lv3になればどうなる?


 Lv10になれば?


 もしかしたら、完全にあっちに帰還できる日が来るのかもしれない。


 そんな希望と、神の気まぐれに対する恐怖が入り混じる。


 僕は頭を振り雑念を追い払った。


 今は考えるな。


 今はただ進むしかない。


 再び歩き出して太陽が真上に昇り、森の中にも強い日差しが差し込むようになった正午。


 またしても脳内にアナウンスが響いた。


 今度は僕個人のスキルに関するものではない。


 全プレイヤーに向けた、神からの通達だった。


『明日より、一部の情報閲覧が開始されます。詳しくはステータス画面をご確認下さい』


「なっ!?」


 心臓が跳ねた。


 情報閲覧だと?


 僕は慌ててステータス画面を確認しようとしたが、まだ変化はない。


 明日より、ということは日付が変わった瞬間か、あるいは明日の朝か。


 全身から冷たい汗が噴き出した。


 そうだ、忘れていた。


 僕以外は、少なくとも僕のようなスキルが無ければ、ランキングはおろか、自身のポイントなどの情報すら見えない仕様だったはずだ。


 それが解禁される。


 どこまでの情報が見えるようになるんだ?


 自分の順位だけか?


 それとも、全員のランキング表が公開されるのか?


 もし全員の情報が公開されたら……。


「俺のスキルも、バレるのか?」


 最悪の想像が脳裏をよぎる。


「まっ、バレたところで……、最強の俺様には関係ねーけどな!」


 虚勢をはるが内心は狼狽えている。


 ログアウトというチートスキル。


 斬撃という戦闘スキル。


 僕が毎日安全圏に逃げ、有用な譲歩を取得していることが、他の転生者にもバレてしまうかもしれない。


 いや、それよりも恐ろしいのは、僕の『位置情報』が公開されることだ。


 もし、僕がランキング上位に留まり、ヘイトを向けられていると知れ渡れば、他のプレイヤーから狙われる可能性がある。


 この世界は転移者にとってはデスゲームだ。


 他者を蹴落とし、ランキングを上げることが推奨されている節すらある。


「くそっ、神の野郎、余計なことを!」


 そのことに気付いた僕は憤りを感じ、鬼竜一号を近くの木に叩きつけた。


 だが、いくら憤っても状況は変わらない。


 僕にできることはない。


 ただこの理不尽なルールに従い、命懸けで足掻き続けるしかないのだ。


 不安を押し殺し、僕は足を速めた。


 悩んでいる時間はない。


 とにかく街へ。


 人がいる場所へ行けば、何かが変わるはずだ。


 その日の夕方。


 森の木々が極端に少なくなり、視界が開けた場所に出た。


 そこは数メートルほどの高さがある崖の上だった。


「み、見つけたぜ!」


 崖の下、広大な平原の先に、それはあった。


 夕日を背に、巨大な城を中心とした街が広がっていた。


 高い城壁に囲まれた、石造りの街並み。


 城の尖塔が空を突き刺し、街の中からは煙突の煙が立ち上っているのが見える。


 城塞都市バルド。


 間違いない。


 あれが僕の目指していた場所だ。


「ははっ、やっと、やっと着いた!」


 崖下にはまだ少し森が広がっているが、ゴールは目と鼻の先だ。


 一週間の野宿生活。


 泥と血にまみれた日々。


 それらが報われたような気がして、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。


 涙が出そうになるのを、僕はぐっと堪えた。


 泣くな。


 俺様は最強のヒールだ。


 街を見下ろし、不敵に笑うのがお似合いだ。


「待ってろよ、バルド。俺様が支配してやるからな」


 震える声で虚勢を吐き、僕は崖下へと降りる道を探し始めた。


 緩やかな斜面を見つけ、慎重に下っていく。


 日が落ち、辺りは急速に闇に包まれていった。


 気付けば、真っ暗な闇の中だった。


 崖の下へたどり着いた頃には、自分の手元すら見えないほどの暗闇になっていた。


 街の明かりが遠くに見えるが、その間の森は深淵のように黒い。


 このままでは進めない。


 そう思って目を凝らした時だった。


「いたっ!」


 じわりと、両目が熱く痛みを感じた。


 まるで目薬を差した直後のような、刺激の後の清涼感を感じる。


 数回瞬きをした後、僕の視界が変化した。


 暗闇のはずの森の中が、うっすらとモノクロームの映像として浮かび上がってきたのだ。


 木の輪郭、地面の凹凸、草の揺れ。


 それらがはっきりと認識できる。


「スキルか?」


 僕は直感した。


――――――


 名前:黒木竜也


 天賦:遊戯を極めし者(めっちゃゲーマー)


 スキル:ログアウト・Lv2 / 斬撃・Lv1 / 暗視・Lv1


――――――


 暗視。


 夜の森で目を凝らし続けた結果、新たなスキルを習得したのだ。


「へっ、俺様の才能が恐ろしいぜ」


 恐怖を紛らわすように軽口を叩き、僕は速度を上げて走り出した。


 視界が確保できればこっちのものだ。


 夜行性の魔物を避け、最短ルートで街を目指す。


 そして日付が変わった瞬間だった。


 視界の隅にあるステータスアイコンが点滅した。


 ログアウトのグレーアウトが解除され、鮮やかな緑色に戻る。


 それと同時に、メニュー画面に新たな項目が追加されていた。


 情報。


 シンプルすぎるそのボタンに、僕はごくりと喉を鳴らす。


 昼間のアナウンスにあったやつだ。


 一部の情報閲覧が開始されると言っていた。


 僕は立ち止まり、周囲を警戒しながら、震える指でそのボタンを押した。


 ウィンドウが開く。


 そこに表示されていたのは、二つの項目だけだった。


 現在のランキング順位と獲得ポイント履歴。


 それだけだ。


 他のプレイヤーの情報や、詳細なステータス、スキルの開示などは一切なかった。


「よ、よかった……、ぜ……」


 僕はその場に崩れ落ちそうになるほどの安堵を覚えた。


 自分の順位とポイント履歴が見えるようになっただけだ。


 これなら僕のチートがバレる心配はない。


 自身のランキングは8位のままだ。


 ポイント履歴には、今朝方見たばかりの『動画視聴ボーナス』『話題性ボーナス』といった項目の後に、今日の分の『魔物討伐』が新たに並んでいる。


 5匹ごとに1ポイントという僅かなポイント。


 それの眺めながら安堵のため息をつく。


 だが、すぐに気を引き締める。


 まだ七日目、いや、すでに八日目だ。


 今回はこれだけの情報開示だったが、今後はさらに情報が開示される可能性もある。


 スキルや所持アイテム、現在地などが公開される日が来るかもしれない。


 一抹の不安は消えない。


 神は、僕たちを争わせようとしている。


 今後はさらに情報の格差をなくし、転生者同士の競争を激化させようとしてくるかもしれない。


「上等だ。全部ひっくり返してやるよ!」


 僕は再び立ち上がり、止まっていた足を進めた。


 夜通し歩き続け、森を抜けた頃には、空が白み始めていた。




 明け方。


 朝霧の向こうに、巨大な影がそびえ立っている。


 城塞都市バルドの外壁。


 近くで見ると、その圧倒的な存在感に息を呑む。


 高さは十メートル以上あるだろうか。


 堅牢な石積みは、魔物などの侵入を許さない威圧感を放っていた。


 僕は木陰に身を隠し、門の様子を伺った。


 巨大な門が開かれ、大勢の人が出入りしている。


 荷馬車を引く商人、鎧を着た兵士、冒険者らしき風体の集団。


 活気がある。


 人の営みがある。


 その光景を見た瞬間、僕の中で張り詰めていた何かが、プツリと切れた。


 助かったんだ。


 もう、一人で怯えながら眠らなくていいんだ。


 安堵感が津波のように押し寄せ、全身の力が抜けていく。


 僕は近くの大木にへたり込んだ。


「へっ、俺様にかかれば、こんなもんよ……」


 最後まで虚勢を張ろうとしたが、言葉は続かなかった。


 視界が暗くなる。


 泥のような眠気が、意識を塗り潰していく。


 街に入る前に、少しだけ休もう。


 そう思ったのが最後だった。


 僕は完全に意識を失い、深い眠りへと落ちていった。


ブクマ、評価、励みになります。感想お気軽にお書きください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ