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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第十話「じゃあな、姉貴!次は街から中継してやるよ!」


 あの死闘から二日が過ぎた。


 僕はまだ、森の中を彷徨っている。


 相変わらず鬱蒼とした木々に囲まれた世界だが、景色は少しずつ変化を見せていた。


 天を覆うような巨木が減り、差し込む陽の光が増えてきたのだ。


 魔物の気配も、森の深部に比べれば落ち着いているように感じる。


「ふん、雑魚しかいねえな!」


 僕は茂みから飛び出してきた鹿のような魔物を、相棒の鬼竜一号の一撃で沈めた。


 手にした鬼竜一号は、風を切る音と共に獲物の首を捉えていた。


 かつては重く感じたこの相棒も、今ではしっかりと僕の手に馴染んでいた。


 むしろ、軽すぎて物足りなさすら感じる。


 今の僕ならもっと鋭く、もっと重い一撃を繰り出せるはずだという贅沢な渇望が湧いてくる。


 それほどまでに僕のステータスは向上しているのだと感じた。


 それでも、あの大きなボアとの戦いの後、近くの大木に刻まれた巨大な爪痕を見つけた時は正直震え上がった。


 その抉れた大きな爪痕を見て、巨大な熊のような魔物なのかもしれないなと考えた。


 間違いなく、あの猪よりも凶悪な何かがいる。


 その恐怖が、僕をさらに慎重にさせ、同時に強くさせた。


 幸いにも、その熊的な何かとは遭遇せずに済んでいる。


 だが、死にかけたことは一度や二度ではない。


 昨晩のことだ。


 意識を失わないように大木の根元に身を隠し、浅い眠りを繰り返していた時だった。


 ガサリという音に反応して目を開けた瞬間、巨大な影が僕に突っ込んできた。


 ボアだった。


 とっさに鬼竜一号を盾にしたが、凄まじい衝撃が加わり背中を強く大木に打ち付け、一瞬だが呼吸が止まった。


 咄嗟に大きく息を吸い込み、肺の中の空気が強制的に排出させる。


 あと数秒、受け止めるのが遅かったらその牙で串刺しにされていたかもしれない。


 もちろんあの巨大なボアではなかったが、闇の中での戦いは困難だった。


 音を頼りに必死に相棒を振り回し、何とかそれを撃退したが、冷や汗が止まらなかった。


 この森に安息の地などないのだと、骨の髄まで理解させられた夜だった。


 そんな極限状態の中で、唯一の救いとなっているのが「ログアウト」の時間だ。


 ここ二日間、僕は朝方に必ずログアウトを行っていた。


 一〇分間だけの、日常への帰還。


 今日の朝もそうだった。


 ログアウトを発動した数秒後、視界が切り替わりあの薄汚れた部屋に戻る。


 腐臭は相変わらずだが、それが逆に僕を安心させた。


 そして、ドアの向こうの気配。


「姉ちゃん」


 僕が小声で呟くと、すぐに反応があった。


『竜ちゃん、おはよう』


 姉ちゃんのその口がそう言っている。


 すぐにスマホを操作した姉ちゃんからメッセージが届く。


 今日も姉ちゃんはスマホで僕の配信を見ながらイヤホンで俺の声を聞いている。


 僕があっちにいる間も、何ともなしに発した独り言や、虚勢を張った叫び声をリアルタイムで聞かれているころに恥ずかしさを感じるが、僕のためにそうしてくれていることに嬉しさを感じる。


「姉貴、起きてたのかよ」


 僕は言いなれない口調でそう言うと、背を向けPCの前に座る。


「今日も俺様は絶好調だぜ。街へとたどり着くまで、森の魔物どもを根絶やしにしてやる」


『見てたよ。昨日の夜、危なかったね。怪我はない?』


 すぐにスマホが震える。


 音声で返事ができない姉ちゃんは、こうして文字で僕に言葉を伝えてくる。


 僕の「俺様ロール」な声を聴きながら、心配のメッセージを送ってくれる。


 なんとも奇妙で非日常的なコミュニケーションだ。


 だが、これだけが僕が人間であることを繋ぎ止めてくれる命綱だった。


「昨日の豚もすり傷程度、俺様の頑丈な体はびくともしなかったぜ!」


 僕は独り言のように強がって見せるが、脇腹がまだズキズキと痛む。


 PCの画面を操作しマップ情報を確認する。


 掲示板の情報と、自分の移動距離を照らし合わせる。


「よし、近づいてるな」


 画面上の現在地からさらに北へ。


 森の切れ目の先に、街のアイコンらしきものが確認できた。


 城塞都市バルド。


 それが僕が目指している街の名前らしい。


「よし!森で寝るのは今日で最後、明日には布団で寝られそうだぜ!」


 その事実に、張り詰めていた糸が少しだけ緩むのを感じた。


 やっと屋根のある場所で眠れるかもしれない。


 人の作る食事が食えるかもしれない。


 素材を売れば、多少の装備を整えることができるだろう。


 何より、人との関りを持てるのが待ち遠しかった。


『あと少し。頑張れ竜也。でも無理しないでね。街に着いたら、美味しいもの食べてよね』


 メッセージが届く。


 その優しさにまた涙が出そうになるのを堪える。


「街に行ったら一番高い酒と肉を食らってやるぜ!楽しみだ!」


 そう言いながら、右手を上げ親指を立てる。


 そして、ログアウトの一〇分は瞬く間に過ぎていく。


『ログアウト時間終了』


 無機質なアナウンスが響く。


「じゃあな、姉貴!次は街から中継してやるよ!」


 僕は姉ちゃんの方を向き、二度目となるサムズアップをしてみせた。


『行ってらっしゃい!』


 姉ちゃんの口がそう動いたのを確認した後、僕の視界が見慣れた森へと戻った。


「ふぅ」


 森の冷気が、熱くなった頭を冷やしてくれる。


 僕は鬼竜一号を肩に担ぐようにしながら、北を目指して走り出した。




 それから数時間。


 太陽が傾き森の中が薄暗くなり始めていた。


 六日目の終わりが近づいている。


 木々はさらに疎らとなり、地面も腐葉土から硬い土へと変わってきていた。


 街が近い証拠だ。


 だが油断はできない。


 街の近くには、他の転生者もいるはずだ。


 マップ上では、数人のプレイヤーが街の周辺に点在しているのが確認できていた。


 彼らが敵か味方かは分からない。


 ゆえに俺様ロールを崩すわけにはいかない。


 もし舐められたら、その瞬間に狩られるかもしれないのだ。


 僕は大木の根元、人目につかない場所を選んで腰を下ろした。


 集めた枯れ葉を体にかける。


 少しでも体温を逃がさないようにするためと、カモフラージュのためでもあった。


「明日は遂に街か……」


 小さく呟く。


 期待と不安が入り混じる。


 この世界は街に入れば安全が保障されるわけではない。


 むしろ僕を知る元クラスメイトとの人間関係という新たな、むしろ厄介な戦場が待っている。


「へっ、どこのどいつだろうが、俺様の踏み台にしてやんよ」


 目を瞑り意識を鎮める。


 眠ってはいけない。


 いつものように意識の半分を覚醒させたまま体を休める。


 周囲の物音に耳を澄ませる。


 風の音。


 虫の声。


 遠くで何かが折れる音。


 すべてを情報として処理しながら、僕は長い夜を待ち受けた。


 明日の朝、太陽が昇れば、新しいステージが始まるのだ。


 最強の悪役として、華々しく街へ乗り込んでやる。


 そう固く心に誓い、僕は鬼竜一号を抱きしめた夜の闇に溶け込んだ。


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