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大三元字一色チョンボ

作者: 稀Jr.

南三局で、箱には7000点しか残っていない。子に振り込む位ならば大丈夫そうだが、親マンを自摸られれば終わりだ。東場から廻してついてきたが、相手が悪い。ひょっとして3人で組んでいるのかもしれない。ふらっと入った雀荘であり、2人面子が足りないところに俺が入り、その後にすぐにもう一人が来た。嵌められたと一瞬思ったが、特に合図があったようには見えない。

流れは悪くはない。悪くはないのだが、何故か対面に自摸られる。誰かに振り込んだわけではないが、下家、上家、対面、下家、上家、と自摸られ続けて現状にいたる。点数的にはギリギリだが、飛ばなければダメージは少ない。しかし、上がらなければ焼き鳥になってしまうし、これは頂けない。払いも大きくなってしまう。さて、どうするか。


おれは手牌を見た。


中中中   發發發東東東西南


既に大三元が確定である。あとは字一色を目指すだけだ。点数的には大三元で十分だし、役満さえ上がれば、十分浮いておつりが付くところだろう。しかし、そこでやめてしまっては麻雀師の名が廃る。いや、俺は麻雀師ではないが、麻雀を愛する者だ。いや愛するというのは大袈裟かもしれないので、「麻雀放浪記」阿佐田哲也の姿が大好きだ。特に、流転の章が極めつけである。連荘流局=一飜でも役満相当という特殊なルールであるが、緊張感が半端ではない。確率で打ち続ける麻雀とは異なる一発勝負の味わいがそこにある。自摸る牌には命が宿っているという。流れもあれば、人生もある。外での敗北も、ここの雀卓の上では何するものぞ、である。一瞬の河の流れを読み、相手の思考を掬い取る。そう、麻雀は心理戦である。プロは牌を聴牌した状態にはしない。麻雀ゲームとは違うのだ。だから、だから自摸るときに、こんな風に差し替えることができる。


中中中   發發發東東東西南 北


捨て牌はこれだ。



中中中北   發發發東東東西


北を中に入れて、南を河に捨てる。あたかも、差し込んだように見える牌ではあるが、待ちは変わってない。大三元確定を崩さずに字一色を狙うにはこれしかない。差し込みつつ南を捨てるのだ。南、南といえば、あだち充の「タッチ」だったか。南を捨てるなんてとんでもないような気もするが、そういうストーリーだったろうか、あまり覚えていない。双子が出て来たはずだから、ちょうど頭にあたる筈だ。頭になるのだから、南は捨てなければならない。おれは、西で待つのが好きだ。西シャーで待つ。斜めに待つことによって、それは哭きの竜を思い出させる。お前さんの銀が鳴いているぜ、だったろうか。いや、銀は鳴かないか。泣くならばホトトギスの方だろうか。


ひと巡りして俺の番になった。


中中中北   發發發東東東西 南


くッ。これは不味った。やっぱり南は捨ててはいけないらしい。南を捨ててしまったのが間違いだ。双子の片方が居なくなってしまったストーリーを俺は思い出した。確か、誰だ、達彦だったか、冬彦だったか、元彦だったか、そんな名前な筈だ。すかした顔でいつまでもいるからこんなことになってしまうのだ。一体、内部告発だか告白だか告解だかなんだかわからないが、それは法律違反じゃないか。消費者庁よりも上ってのはどういうことだ?え?いや、そういう話ではない。おれは南を捨てた。いや南に捨てられたのだろうか。ここは、ひとつ、南を残すべきか。


西


中中中發發發   南東東東


流れに逆らってはいけない。ここは、ひとつ、南を保持しておこう。斜に構えるのはやめだ。もっと素直になろう。この氷河期の時代に、相互に憎み合って蹴落とし合っても何もいいことはない。麻雀でもwin-winの関係でいこうじゃないか。そういえば、とあるエロ漫画家が「朝っぱらから、ウィンウィンの関係が」というセリフを吐いていたが。いやそういう話ではないのだ。ゼロサムゲームではいけない。麻雀でも何かを発展させて協力して、素晴らしい上がりを作るのがいいんじゃないだろうか。だから、おれは、南を自模る。なんとしても、もう一度、南を引くんだ。達彦だか元彦だか冬彦だか忘れてしまったが、おれが元彦の代わりになってやる。きっと、絶対だ。


中中中發發發   南東東東 西


なんてこった、ついてない。西を引いてしまった。にしむくさむらいで、西を引いてしまった。まるでうるう年のようじゃないか。四年に一回の失敗かもしれない。いや、違う、もっとレアケースだ。400年に一回の失敗だ。うるう年の計算を year % 4 == 0 && (year % 100 != 0) だけしてしまったようなときのものだ。何故だ、何故に今日は 2000年なんだ。いや、ひょっとしたら 2400 年かもしれない。平年だったと思ったらうるう年の気分だ。3月1日の締め切りでギリギリに卒論の提出だと思ったら、2月29日の気分だ。なんてラッキーなんだろう。いや、ラッキーなのか。そうか、ここで西が来るのもラッキーかもしれない。災いも、巨大なものであれば、俺にとっては幸運かもしれない。万に一つの不運は、逆転してしまえば万に一つのラッキーデーなのだ。今日のラッキーカラーはなんだピンクなのか黒なのか。赤い牌はおれには不運なのか。西の牌は赤くないから大丈夫だろう。鳥さんが来ても焼き鳥にはならない。ここは、ひとつ、西を捨てて南待ちだ。


西


中中中發發發   南東東東


そして、手を入れ替えておこう。


中中中發發發東東東   南


ふふふ、君たち、この牌がわかるかね。ちょっと離れたこの牌だ。さあ、君たち推理したまえ。俺の河からこの牌が何なのか推理できるかな。河だけを見てもよくわからない。俺の表情を見ろ。麻雀は心理戦だ。心理戦と同じく、確率の計算でもある。ここで、俺が南を自模る確率はどれくらいあるだろうか。南を捨ててしまったのだから、対面に当たることはできない。しかし、おれは信じる。再び、南を、南をこの手に掴むのだ。俺が、南を掴めば、きっと、きっと、きっと。


「自摸!」


中中中發發發東東東   南南


ふふふ、とうとうやった、俺は、俺の南を掴んだぞ。


「はい、少牌でチョンボですね。8000点払いで、箱テン」


【完】


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