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【異世界スゴロク】止まったマスで転移する呪いの冒険譚 ~ゴールしなければ生き残れない~  作者: 幸運な黒猫
【童話全修】

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第54話・【童話全修 その3】

 鈴姫(べる)さんは『準備してからまた来ますね』と、ドイルの部屋をあとにした。彼女がなにを考えているのか(たず)ねてみたけど、イタズラっぽく笑うだけで、さっぱりわからなかった。


「うるさい家だったニャ……」


 ベルノはベルノで、耳がよく聞こえる分大変だったのだろう。迷宮(ラビリンス)を出てからも、ずっと耳を伏せたりパタパタさせていた。


「普通、あの音量で3分クッキングなんて観ないよな」

「まだ耳がキーーンですニャ〜〜」


 事務所に戻ると、ルドウィンさんが紅茶と焼き菓子をだしてくれた。『丁度、焼きあがったところです』と言いながらテーブルの上に置かれたパイ。それは……


「チャーシューアップ((注))ルパイでございます」

「チャ、チャーシュー……」


 なんと言うか……名前を聞くだけで、ものすごく不安になってしまった。チャーシューとリンゴが合うイメージなんてまったくないのだから。


 それでも、僕らが帰るタイミングを計って焼いてくれたと思うと、手をつけないのも申し訳ないと思う。思うけど、先入観が邪魔をしてなかなか手がだせない。


「これ、美味しいニャ!」


 鈴姫さんや颯太(そうた)までもが躊躇している中、最初に食べたのはベルノだった。ジュースを片手に口いっぱいに頬ばり、とても幸せそうな顔を見せる。


「ありがとうございます。ささ、皆さんも」


 ニコリと笑うルドウィン。その誠実そうな笑顔を向けられては、誰も断る事ができないだろう。


 僕は覚悟を決めて、口の中に入れた。


「あ……」


 チャーシューに染み込んだ甘辛いタレが、リンゴの甘さとシナモンの風味を引き立たせる。これはスイカに塩をかけたり、メロンに生ハムをのせるようなものか。


「これはなんとも意外な……」


 名前にちょっと引いてしまったけど、かなり美味い焼き菓子だ。気づけば鈴姫さんも颯太も無言で口に運んでいた。これは葵さんたちにも持って行ってあげなければ。



「それで、私たちが聞いた内容なんだけど……」


 パイを食べ終わり、最初に口を開いたのは鈴姫さんだった。ここからはミッション達成のための打ち合わせだ。


 彼女の言う『私たち』とは鈴姫さんと颯太(そうた)の事。カジノ周辺での情報収集は二手に分かれて行ったから、これから情報のすり合わせをしなければならない。


「この辺りでは見かけないオオカミが、ここ数日で何度か目撃されているみたいなの」

「それって、灰色オオカミの事?」

「そう、それ」


 依頼書では『失踪したお婆さん』とあったけど、【赤猫ずきんちゃん】物語ではオオカミの仕業だった。そして、【オオカミと七匹のチビヤギ】で6匹のチビヤギを誘拐したのもオオカミ。


 つまり、case No.1とNo.2は同一犯の可能性がある。これはみんなの共通認識だった。さらには【三匹のミニブタ】も、家を建てた理由はオオカミから身を守る為。


 今回の依頼は、すべてにオオカミが関わっている。


「偶然なのか必然なのか、それとも、誰かに仕組まれているのか」

「そうよね。ルドウィンさんはどう思います?」

「そうですね……」


 コトリ、とティーポットをテーブルの上に置くと、彼はゆっくりと落ち着いた口調で話し始めた。


「あまり形式に囚われると、見えるはずのものが見えなくなりますぞ」

「見えるはずのもの……」


 ルドウィンがニカッと笑うと、顔中のシワが深さを増した。そのひとつひとつが彼の人生を物語り、言葉に重みを持たせていた。


「それに、オオカミは変装の名人だと聞きます。魔法で姿を変えるそうですよ」

「変装じゃなくて、変身か。厄介ですね」

「ええ。変身の場合は、姿かたち、それこそ身長や体重まで元の姿とは変わってしまいますからね」


 変装なら、体格や身長はそのままだけど、変身となると話は別だ。完全に別人に化ける事ができてしまう。


 犯人かもしれないのに……変身できるってずるいだろ。






――――――――――――――――――――――――――――

(注)料理レシピサイトにも掲載されている、現存する焼き菓子です。

54話を執筆している2025年11月現在、某ゲームのキャラクターが銃撃の際に、「チャーシューアップルパイ!」と叫んだ事から知名度が爆上がりしました。

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