第53話・【童話全修 その2】
「ところで、ここにあるNyamazonやBoober Eatsはどうやって持ってきたのニャ?」
「……」
……ドイルは無言のままそっぽを向いた。ベルノの問いかけは完全に無視する態度だ。
「ニャ~……」
「あの、ドイルさん」
「はいブ♡」
「えっと、NyamazonやBoober ……」
「宅配BOXブ!」
鈴姫さんには、食い気味に返事をするドイル。彼が指し示す方を見ると、部屋の隅に受け取り用の大きなドアがあった。宅急便で言う、120サイズくらいの箱は楽に通りそうな大きさだ。
「ドイルさん、そこから外にでられるの?」
「でられないブ!」
「じゃあ、外からは?」
「入れないブ。荷物はボクちんがモニターで確認してからドアのロックを外すブ。完璧な構造ブ。ボクちんが設計したんだブ! 誰か入って来ても開けないブ!」
ドイルは、いきなり早口で説明を始めた。少し照れながら、それでも自慢気に。オタク気質と思えなくもないけど、でもきっとそれは、今までの孤独を埋めるためのものだったのかもしれない。
……なんとなくだけど、僕にはそう思えた。
「じゃあ、ドイルさんは外に全然でないのですか?」
「……わからないブ」
「え?」
「玄関からここに来れた人は初めてブ。ボクちんでも道がわからないのに……」
それってもしかして……彼はひきこもりじゃなくて、単にでられないだけなのか? 迷宮を増設し、防犯カメラを設置し、奥へ奥へと入り込んで自らを監禁してしまった、と。
「鈴姫ちゃん♡は、どうやってここに来れたブ?」
「ベルノ探偵のおかげなのニャ!」
と、ベルノは親指でビシっと自分を指差し、ドヤって見せる……が、その瞬間、またもやそっぽを向いて無視するドイル。
その時、ベルノのしっぽが、ひゅん……ひゅん……と左右に動き始めた。
猫は犬と違って、ご機嫌斜めでしっぽをブンブン振る。それを『喜んでいる』と勘違いして手を伸ばす人がいるが、直後に鋭い猫爪のえじきになるのは、火を見るより明らかだ。
「あいつ……殴っていいかニャ?」
「駄目です、ベルノさん」
「いや、いいと思う」
「颯太もあおらないで~」
颯太も相当イライラしているのご見て取れる。あからさまな態度も原因だが、それよりもドイルが『鈴姫ちゃん♡』と、なれなれしく呼んだ事が気に入らないらしい。
「ドイルさん。それじゃあ、私たちと一緒にでましょうか」
「……いやだブ」
「なんでですの? 私も一緒ですよ?」
確かにここは、衣食住が過不足なく揃っているし、通販も充実している。他人の目を気にする事なく悠々自適な生活ができるこの環境は、ドイルにとってはよほど魅力的な生活なのかもしれない。
……ならばこのままそっとしておくべきか? その方が彼にとって幸せなのか?
しかしドイルのひと言は、そんな僕の考えをはるかに超えてきた。
「ボクちん……兄ちゃんに命を狙われているブ」
「……え、マジ?」
思わず声にでてしまった。ドイルが迷宮を作ったのは、兄弟から逃げる為だったのか。
「お兄さんってどちらのです?」
「わからないブ……」
「それなら勘違いって事も」
「それはないブ。ボクちんの家の前にトゲトゲのついた落とし穴があったり、ボクちんの食べ物にだけ毒が入っていたり、ボクちんのイスに電気が流れていたり、ボクちんの大事な限定美少女フィギアを取り上げられたりしたブ!」
最後のは違うと思うが……。
「勘違いなんて、絶対、絶対ないブ!!!」
かなり強い口調で否定するドイル。今言った事は、最期以外どれも『勘違い』で済まされない内容ばかりなのは確かだ。でも……
「だから鈴姫ちゃん♡、ここでボクちんと一緒に暮らすブ」
……なんでそうなる。
僕は颯太と顔を見合わせてしまった。さすがに、どう転んでも鈴姫さんが承諾するはずがないからだ。ましてや僕らはこの世界の住人ではない。ミッションをクリアしたら、あの廃墟部屋に戻るのだから。
葵さんなら勢いで返事して、あとで適当にはぐらかすとかやりそうだけど。
「あら、いいですよ」
――え?
「ちょ、鈴姫さん?」
「なんでしょう?」
「いや、『なんでしょう』じゃなくて、なにを言っているの。颯太が固まってるじゃん」
……固まっているどころか魂が抜けてるぞ。
「颯ちん、口からエクトプラズムがでてるニャ~!」
「ベルノ、楽しそうに言わないの!」
鈴姫さんは、いったいなにを考えているのだろうか?




