第52話・【童話全修 その1】
「ここが、ミニブタの家なのニャ?」
「ええ、依頼書によるとそうだけど、これはちょっと……」
――依頼書 case No.3 三男の救出。依頼主はミニブタの長男。
「家というより、迷宮ニャ……」
ベルノの言う通りだ。目の前にある建物は、どこからどう見ても家と呼べるものではなかった。
多分最初はシンプルなレンガ造りの家だったはず。それが増改築を繰り返し、ベルノの言う通り今や不格好な迷宮と化していた。まあ、例によってメルヘン感満載のフワっとしたお城ではあるが。
「アイツは、三男のドイルは、なにかに憑りつかれて……ひきこもってしまったのです」
と証言するのは、ミニブタ長男のアーサー。依頼主である。三男のドイルは勝手にレンガを積み、壁を作り、奥へ奥へともぐってって行ったそうだ。
「私や次男のコナンが声をかけても怯えるだけで、もう手に負えなくなってしまって。力ずくでもいいので、なんとかお願いします」
「力ずく、ですか……」
建物を破壊して無理矢理に連れだすだけなら、颯太だけですぐにでも可能だと思う。でも鈴姫さんは、それでは解決しないと考えていた。
「まずは、ドイルがひきこもった理由を聞きに行きましょう」
と、ベルノを抱きかかえると、依頼主の意向を無視してさっさと迷宮へ足を踏み入れてしまった。当然、裏方と雑用係のクロ子とグレ子も続く。
きっと彼女は、否応無しに力で解決する事が嫌いなのだろう。
……これは思ったより時間がかかりそうだぞ、と。
迷宮の中はかなり埃っぽく、一歩ごとにボフッと舞い上がる。所々レンガが崩れ、外観からは想像できない乱雑さだった。
「掃除とか全然してなさそうだね」
本当に、こんな所に住んでいるのだろうか?
「ここは左ニャ」
「ベルノ、わかるのか?」
分かれ道にさしかかった時、ベルノは耳を数回、左右にパタパタさせた。猫の耳や鼻は、人間の数倍の力を持つと聞いた事がある。
そのあともベルノは、耳をフリフリ鼻をスンスンさせて、正しいと思われるルートを示していった。
「こっちから美味しい匂いがするニャ」
「美味しい匂いって?」
「野菜串ニャ」
「プレーリードッグさんの?」
コクリ、とうなずくベルノ。確かにあの香ばしい匂いだが、僕の鼻には微かに感じる程度で、方向なんてまったくわからなかった。
「ってか、なんで奥からそんな匂いがするんだろ?」
こんな複雑な場所にデリバリーなんてできないだろうし、ドイルはずっとひきこもっているのだから、市場で売ってる料理があるなんて明らかにおかしい。
この状況は、なにか事件性があるのではないか? もしかしたら、ドイルがひきこもった原因に関係しているのではないか?
……と、この時までは勝手に思っていました。
◇
「え〜、なんでそうなるんだよ」
ベルノの案内でドイルの部屋にたどり着いてみると、そこには段ボールの空き箱が散乱していた。
「……でもまあ、納得だよね」
と、ひと言もらしたのは颯太。彼の目の前にある箱には、大手通販サイト Nyamazonのロゴが踊っている。ほかにもPIZZA CATやBoober Eatsの空き袋などが散らばり、まさしく”The ひきこもり“の部屋だった。
そこは意外なほど物がそろっていて、家電やゲーム機、本や作りかけのプラモまでもが、所狭しと積まれていた。
「おまいら〜、なにしに来たブ?」
部屋の中央にいたのは一匹のミニブタ。バカでかい音量のテレビから目を離さず、寝転がったまま野菜串を口に運んでいた。
他には誰もいないし、どうやら彼がドイルで間違いなさそうだ。突然訪問した僕らに驚きもしなかったのは、迷宮内の防犯カメラで監視していたからだろう。
「えっと、突然ごめんなさい。私は探偵助手の鈴姫。あなたがドイルさん?」
「……」
テレビの音で聞こえないのだろうか? それとも意図的に無視しているのか。鈴姫さんはミニブタの近くに行き、声を張り上げた。
「あの、ドイルさん!?」
「うるさ……」
その瞬間、ドイルは鈴姫さんを凝視したまま石のように固まった。手に持つ野菜串から濃厚なタレがトロリと垂れる。
「…………ブ」
「あの、ドイルさんですよね?」
ドイルはハッと我に帰ると慌ててテレビのボリュームを下げた。居住いを正し、垂れ下がっている前髪を指先でクルクルと巻いて耳にかけると、手アイロンでシャツのシワを必死に取っていた。
「……ソウデブー」
顔を真っ赤にしてうつむき、聞き取れないくらいの小声で返事をするドイル。最初は単なる人見知りかもと思ったけど、どうやら彼は、鈴姫さんの問いかけにだけ反応しているようだった。
「あ、お、お、お、お茶……ドウゾブー」
「あら、ありがとうございます」
ニコっと笑いかける鈴姫さん。妙に落ち着きがない颯太。そして――。
「長靴を履いた猫耳幼女、ベルノですニャ!!」
「あの、ベルノさん? そこ、名乗りのタイミングじゃないから……」
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※全修 アニメ業界の隠語として使われる。「全て修正する、オールリテイク」という意味。




