第51話・童話全集?
「おかえりなさいませ」
ドアを開けると、そこにはうやうやしく礼をする初老の男性がいた。どうやらお世話係の爺やらしい。名前はルドウィン。
「ルド爺、仕事は来たかニャ?」
「ええ、ベルノお嬢様。調査依頼が三件来ております」
ルドウィンは依頼書をテーブルに一枚ずつ並べていった。
case No.1 お婆さんの捜索。依頼主は赤い猫耳フードの少女。
case No.2 誘拐された子供たちの捜索。依頼主は母ヤギ。
case No.3 ひきこもり三男の救出。依頼主はミニブタの長男。
これらひとつひとつが、なんとなく記憶のある内容だった。それは僕だけでなく、颯太や鈴姫さんも同様らしい。つまり僕ら三人ともが知っている物語だ。
「赤い猫耳フードの少女と言えば、童話の定番【赤猫ずきんちゃん】だよね」
「むう。それはダメなのニャ」
「ベルノ、どうしたの?」
「キャ……」
「キャ?」
「キャラがかぶってるニャ!!!」
そこですか。……まあ、確かに赤猫ずきんの物語で描かれる挿絵は、ベルノに近いものがあるけど。
「はいはい。落ち着こうね、ベルノ」
颯太は、荒ぶるベルノの頭をわしゃわしゃと撫でながら、にっこりと笑いかけた。体格のせいもあるのだろう、彼の笑顔には安心感を感じる事ができる。
ベルノはぷくっと膨らませていた頬をしぼませると、そのまま大人しく颯太の膝の上に座った。ガチムチ黒タイツの膝上に、長靴を履いた猫耳幼女。絵面はかなりシュールだ。
「この世界って、童話全集みたいな感じかな? ショートストーリーが沢山入っているやつ」
「うん、私も徳川くんと同じ意見。子供たちの捜索って、多分六匹のチビヤギちゃんだと思うし」
依頼書のふたつめは、鈴姫さんの言う【オオカミと七匹のチビヤギ】で間違いがないだろう。
これはかなりいい感じの始まり方だと思う。依頼内容からも、どの物語かの想像がつくのが大きい。ひとつめとふたつめの黒幕はオオカミだから、居場所を探し当てれば解決するはず。
「みっつめだけが、ちょっと意味不明だね。【三匹のミニブタ】の物語に、ひきこもり三男の救出なんてエピソードはなかったはず」
「ふっふっふっ……全て解決して修正すればいいのニャ! 童話全修なのニャ!」
腰に手をあててドヤるベルノ。どこからでてくる自信かわからないけど、この屈託のない前向きさは学ぶべき姿勢だ。
「じゃあ、まずはすぐに終わりそうな『ひきこもり三男ブタ』を解決しつつ、オオカミの情報を聞き込みしましょう」
♢
三匹のミニブタたちの家は、探偵事務所から街を挟んだ反対側にある。僕らは街で情報収集をしつつ、依頼現場に向かう事にした。
「みなさん可愛いですね~」
鈴姫さんが思わず『可愛い』と言ってしまったのは、この街の人々が獣人だったからだ。
獣人って言い方をすると、ファンタジー世界のモンスターみたいだけど、今目の前にいるのはそれとまったく違う。むしろ、動物が人間のように立って歩いていると言った方が近い。
そして半々くらいの割合で人間がいて共存している。更には町並みも、絵本にでて来るような建物ばかりでメルヘン満載。さすが、童話の世界だ。
「みんな、もふもふさんだねぇ……」
「なごむニャ~」
……ベルノ、君だってもふもふ族だろ。
市場通りは普通に人通りが多く、一般的な露店街と言った感じだった。レンガ造りの建物は色の統一がされていて、整然と美しい。
パンの焼ける香りや、焦がしたバーベキューソースを絡めた野菜串の香りが、これでもかと腹の虫を刺激してくる。
もしこれが単なる旅行だったらどんなに素晴らしいか。いや、むしろ今回は異世界もふもふ旅行みたいなものだから、心から楽しむべきだとは思う。思うけど……
「クロ子とグレ子じゃあな」
「……うん」
恥ずかしすぎて、僕も颯太も鈴姫さんのうしろで小さくなっていた。よくよく考えてみれば、颯太の隣で目立たなくなる僕の方がまだマシなのかもしれない。
「お嬢ちゃんたち、この辺りで聞くよりも、通り向こうのカジノ周辺の方が情報得られると思うぜ」
聞き込みを始めた僕らに助言をしてくれたのは、野菜串を売っているプレーリードッグのおっちゃんだった。見た目じゃ判断つかないけど、話し口調でなんとなくおっちゃんだ。
「カジノなんてあるのですか」
「ああ。あの辺りはゴロツキも多いが、その分裏の情報が手に入りやすい」
餅は餅屋、蛇の道は蛇。昔からよく言われるパターンか。多少危険でもそのルートが近道なのだろう。
「なあに、そこの強そうな黒い兄ちゃんがいれば、うかつに手をだしてくる輩もいないだろうよ」
このひと言で、颯太は気合が入ったようだ。今まで鈴姫さんのうしろで小さくなっていた彼が、今はフンスと鼻息も荒く、先導して歩いていた。
……僕は相変わらず陰に潜んでいます。
カジノ周辺は、うわさ通りガラの悪い奴らが多かった。泥酔している者、路地で賭け事をしている者、パンツ一丁で転がっている者と様々だ。
「でも、見た目はもふもふ可愛いんだよな」
なんと言うか……必至で背伸びをして大人ぶる小学生のような感じに似ている。
そしてプレーリードッグのおっちゃんの言う通り、ガチムチ黒子の威圧は効果絶大。おかげで情報収集はスムーズに運び、僕らはそのままミニブタの家へと足を向けた。




