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【異世界スゴロク】止まったマスで転移する呪いの冒険譚 ~ゴールしなければ生き残れない~  作者: 幸運な黒猫
中身のない本

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52/63

第48話・ジュラ……

 きゅ〜〜〜〜〜〜…………


 ベルノの腹が可愛く鳴いた。考えてみれば、ダンジョンの休憩所で食事をとってからなにも食べていない。空腹を感じるのも当然だろう。


「ふにゃ〜。お腹空いたニャ~」

「マシュマロだすっスよ」

「あ、まって。いいものがあるんだ」


 僕は【没落令嬢】の世界から持ち帰った焼き菓子を、マジックバッグから取りだした。


「今までに食べた事のない、超美味いお菓子があったから持ってきたよ」


 ()()()と同じ(てつ)は踏まない。中身のわからない箱を慌てて持ち帰ったりしないように、今度はあらかじめ保管しておいた食料だ。


「周りがサクサクしていて中はしっとり。一口食べるとアーモンドとバターの風味が口いっぱいに広がってね、それで……」


 この”未知の激うま焼き菓子“には、みんなも感動する事間違いないだろう。僕は、一口食べた時の感動をできるだけ伝えようと、頭の中から必至で語彙をかき集めた。


「え~と、ミナミナ? これ、ガレット・デ・((注))ロワだと思うんだけど」

「うん……そうだね」


 と、よくわからない名前を口にする(あおい)さんと鈴姫(べる)さん。


「ガレット・で……?」

「ガレット・デ・ロワ。たまにローストアーモンドが入っているんだけど、どうだった?」

「……入ってました」


 まさか、すでに存在しているお菓子だったとは。


「あ、オレもガレット好物っス!」

「自分も好きですね」


 (かなめ)颯太(そうた)まで。もしかして知らないのは僕だけだったの?


 ……マジで?


「自分、実は高校時代にケーキ屋でバイトしてて」


 と、恥ずかしそうに頭をかく颯太。


「え~、徳川(とくがわ)くんが?」

「颯太には似合わないわね」


 和気あいあいな雰囲気に、一人置いて行かれた気分だ。『未知の激うま』とか言っていた自分が恥ずかしい。


「もう、なんでみんな知ってんだよ」


 そんな僕の”ばつの悪さ“なんて気にする事なく、口いっぱいにガレット・なんとかを頬張るベルノ。僕の膝をよじ登り、ちょこんと座ってキラキラとしたまなざしを向けてきた。


 そのものすごく幸せそうな表情は、見ているこちらも笑顔になってしまう。……なんかもう、それだけで救われた気分だった。


「ところで、ベルノの世界について、なにかわかった?」


 僕の手元には、【ジュラシック・テイル】と書かれた本がある。しかし、その中身はまっさらの白紙。


 これがベルノの世界なのか、それとも可能性の一部なのか、はたまた無関係なのか。さらにはどうやってこの世界に行くのか、なにもかもまったくわからなかった。


「タイトルから、恐竜がでてくると()()()()本は四冊に絞れたんだけど」


 颯太(そうた)は、机の上にあった本を手に取ると、一冊ずつタイトルがわかるように並べた。


()()()()、か。そうするとやっぱり?」

「うん、白紙だった」


 これで中身のない本が五冊。タイトルだけが書かれた、真っ白な装丁の本だ。……あやしいなんてもんじゃない。


「この【ジュラシック・パンク】は、もともと映画だよね?」

「——それ観たよ?」


 僕のひと言に反応したのは、意外にも葵さんだった。


「遺伝子操作で現代によみがえった恐竜たちが暴走して、テーマパーク内をガンガン破壊しまくるの」


 主人公は売れないパンクロッカーだが、魂のシャウトで恐竜たちを鎮め、暴れる恐竜にはヘッドバンギングをブチかます、現代ファンタジー物語だそうだ。


「あまりよく覚えてないけど、少なくともベルノはでてなかった。もちろんネネって人も」


 他には、【ジュラサン】【君はジュラノサウルス】【ジュラ紀ダイナ荘の日常】とある。僕はその三冊に【ジュラシック・テイル】を並べて置いた。


「そうすると、【ジュラシック・パンク】をのぞいたこの四冊が有力候補か」

「あとはどうやってその世界に行くかだけど……」

「あ、話の途中でゴメン。そろそろ行かないとマズそう」


 催促するコマを見ながら、颯太は食べかけのガレット・デ・ロワを口の中に押し込んだ。


「ちょっと待って。さっきの冒険で紫のポーションを半分使ったから、残りの量を確認しといて」

「うん、わかった」

「ちなみに、猛毒でも2~3滴で大丈夫そうだったから、飲み過ぎない方がいいと思う」


 間違っても、『口いっぱいに含むと大変な事になるから!』などとは言えない。


「あれ、使ったっけ?」


 と、首をかしげる葵さん。


 ……使いましたよ。ええ、使いましたとも。どこでとか、どうやってとかはとても言えませんが。






――――――――――――――――――――――――――――

(注)ガレット・デ・ロワ 水音が知らないだけで有名なお菓子。

 パイ生地の中にアーモンドクリームが入っていてサクサク甘くて美味い。中には「フェーブ」と呼ばれる小さな人形がひとつ入っていて、それがでてきた人は王冠をかぶり、その日一日王様や女王様として祝福を受けるという、イベント要素がある。元々はキリスト教の祝日を祝う為のお菓子。

 日本ではアーモンドの粒をひとつ入れて、人形の代わりにしている場合が多い。衛生面と、食べ物の中には食べ物を入れるという日本人的配慮が垣間見える。(やり始めたのが日本かどうかは不明だが)

 ※作中では、”あえて“異世界でもアーモンドを入れている設定にしています。



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