第45話・【没落令嬢のダンジョン生配信 その15】
セルケトを倒したあとの空洞の現状はかなりひどいものだった。焼け焦げた有機的なニオイが充満し、無機質でボコボコの足元が一面に広がっていた。
重く、硬いモンスターが暴れまわり、地面をえぐって石片を飛び散らせた跡だ。とりわけ一番大きいのは、セルケトの最初の一撃で陥没した、直径5メートル位の穴だった。
「葵ちん、ここ、殴るニャ!」
綺麗に削られた、ひときわ大きなすり鉢状のくぼみ。ベルノはその中心で鼻をスンスンと鳴らしながら『ここを殴れ』という。
「ここ? でいいの?」
ベルノはコクリとうなづく。
意味がわからずに、言われるがまま地面を殴りつける葵さん。それでも1発目でなにか手応えがあったのだろうか、一瞬なにかを考えるような顔を見せると、同じところを連打し始めた。
しばらくすると、ピシッピシッと地面にひびが走り、その隙間からじんわりとお湯がにじみでてきた。
「え、まさか……」
それはやがて大きなくぼみに溜まり、ほわほわと湯気を立てる。これはどうみても温泉だ。理屈はわからないけど、ダンジョンの中に温泉が湧いたんだ。
そこで素早く行動に移ったはイノリさんだった。メガネを白く曇らせながら、お湯に手を入れ、指先をこすりあわせる。ニオイをかいでひとなめし、味を確かめた。
「多分これは、ラジウム温泉ですわ」
「ラジウム?」
「ええ。免疫力や自然治癒力が高まる、冒険者にはうってつけの泉質です。これは……ダンジョン温泉として収益化できそうですね。早速ギルドに連絡して、運営権を取得いたします」
普通に考えたら、ギルドが管理するダンジョンで沸いた温泉を、いち冒険者グループが運営権を取るなんて事はできないと思う。
しかし彼女は、『この温泉はセルケトが掘りあてた温泉なので、セルケトの所有物であり、ゆえに討伐報酬に含まれる』と理論展開し、無理矢理ギルドマスターを説き伏せてしまった。
ちなみに、イノリさんがギルドに連絡を入れる時に、『休憩に入ります』と理由づけをしてインキャは切っておいた。こんな力技交渉を流す訳にはいかないのだから。
「ダンジョン探索帰りの冒険者に寄ってもらう事で、口コミが広がるでしょう。それに、『三層の安全が確保されたら一般開放する』と宣伝しておけば、かなりの集客が見込めますわ。浅い階層でラッキーでしたね。あと、連動して二層の休憩所をダンジョン食堂にする提案もしてみます。もちろんこちらも”いっちょ噛み“しますわ」
「オーガーのいた部屋をマッサージルームにするとかどう?」
「お嬢様、それ、いただきですわ!」
……冗談で言ったのに。
判断が早い上に行動も早い。そしてよくも悪くも計算高い。こんな有能な人がいるのに、なんで家が没落してしまったのだろう。……はなはだ疑問だ。
◇
カポ〜〜〜ン……
「あ〜、生き返るわぁ〜」
「ふニャ〜〜〜」
そして今、ダンジョン温泉は、第一号の顧客を迎えていた。葵さんとベルノだ。イノリさんが、ギルドとの約束を取りつけると、すぐさま動いたのが葵さんだった。
彼女はショーンとコネリーを手伝わせて石を積み、温泉の周りに壁を作り始めた。
「壁、ですか?」
「なんでそんな事をするんすか?」
「そんなの、温泉に入るために決まっているじゃない」
決め手は、『このクッサイのを洗い流すの!』のひと言だ。
彼らはどうしようかと悩んだ挙句、僕をじ~っと見て、答えを求めてきた。原因が誰にあるのか葵さん意外には明白だ。僕は彼らにコッソリと、両手を合わせてお願いのジェスチャーで答えた。
「……なん、ですか。この状況は」
これには、あとから追いついて来た微笑みの暴風団もあ然としていた。ダンジョンの部屋に積み上げた石で壁が作られ、その脇にショーンとコネリーがイギリスの近衛兵のごとく立ってたからだ。
微動だにしないのではなく、できないのだろう。振り向いたりなんてしたら即爆殺されてしまうのだから。
「すでにギルマスには承諾を頂き、我々、ミナミお嬢様とその一行で管理・運営する事になりました」
「ほんでな、セルケトがおった部屋の宝は、ワイらが回収しといたで」
「は、はあ……」
先手を打って説明するイノリさんとナロー執事長。一応すべてに筋が通っている以上、微笑みの暴風団のスティーブ団長もなにも言えないようだ。
「えっと、アナキンの四人は部屋のすみに転がっています」
「あ……ご協力、感謝します」
他パーティーにモンスターをなすりつけて逃げる行為は、ダンジョン内における相互協力の精神に反する。特に命にかかわるあの状況では、悪質とみなされても仕方がないだろう。アナキンを縛って連れて行けば、ギルドに対しても面目が立つと思う。
――チャリンッ!
「え?」
――チャリチャリチャリチャリ……チャリン!
インキャは切ったはずなのに、投げ銭の音が聞こえてきた。なにが起こっているかわからず周囲を見渡すと、ショーンが目配せでなにかを訴えていた。
――チャチャチャチャリン、チャリチャリン!
「イノリさん……なにやってんの」
「お湯をくんでいるのですが?」
「なんで今、じゃなくて! インキャ止めて!」
「このお湯を、”ハッピースリーピーと猫耳幼女がはいったお湯“として売りだすのですわ! それには、実際に入っている映像証拠がありませんと……」
商魂たくましすぎるだろ。絶え間なく投げ銭が入ってくる音からして、購入希望者が多いのはわかるけど……
「ドリル様の湯も売りだしましょうか?」
「そうじゃなくてーーーー!」
僕は手元にあった大きめの布を手に取ると、服を着たまま温泉に飛び込んだ。ほわ~~んとしていた葵さんとベルノは、インキャで配信されているなんてわかっていない。
――チャチャチャチャリンチャリチャリチャリン!
「ハッピースリーピーと猫耳幼女とドリル様の湯。新発売ですわ!」
「宣伝すな!」
僕は二人に布をかぶせ、カメラから映らないように身体を包み込んだ。一瞬、葵さんの殺気を感じたが、彼女はすぐに状況を理解したようだ。
「ミナミナ、なんなのよこれ!」
「僕に言わないで下さいよ」
――チャチャチャチャリンチャリチャリチャリン!!!!
恐怖すら感じる勢いで投げ銭が入ってくる音がする。文字にしたら”チャリチャリ“だけで小説の5~6ページが埋まる勢いだ。
僕はカメラをふさごうと、インキャの前に魔法でお湯の壁を作った。
――しかし。
インキャは、熱量や魔法に反応して自動的に被写体を変えるようにプログラミングされてて、木や壁などの障害物があると勝手に回り込んで撮影する優れものだ。
当然、冷めたお湯の壁なんて回避してくる。温泉に浸かっている人の方が熱量があるのだから。
――チャチャチャチャリンチャリチャリチャリン!!!!
――ピコンッ!
「え、まさか……」
あわててスマホを取りだして画面を確認すると、[MISSION COMPLETE] の文字が躍っていた。
……マジか、これで1億G稼いだなんて、スケベ野郎ども万歳だな。
だからと言って配信に映す訳にはいかない。僕はすぐに[元の世界へ戻りますか?]の[YES]を押した。ミッションをクリアしたのだから、このまま消えても問題ないだろうから。
早く転移してくれ。そう思っていると、僕の視界にナロー執事長が入って来た。
「あんじょう気張りや~、大・将」
「ボスって……お前やっぱり糸目のカシラか。いったい何者な――」
言葉をさえぎるように周囲が暗くなって、目の前から薄緑の光が流れて来た。軽いめまいにくらくらしながら闇と光に包まれていく中で、うっすらと糸目のカシラの声が聞こえてきた。
「また、会いまひょ。ミナミナはん」
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