第42話・【没落令嬢のダンジョン生配信 その12】
「なんか凄いのがいますね……」
「これは退屈している暇がなさそうっす」
丁度その時、ショーンとコネリーがリレーピックを設置し終わって追いついて来た。戦闘直前に到着するとはいいタイミングだ。
「あら、二人とも主役みたいな登場ね。……なんかムカつくわぁ」
「そんなご無体な~」
と、葵さんに軽口を返しながらも、盾を構えて最前列にでるショーン。さすが若手随一の戦士だ。
「これ、特別報酬でますか?」
コネリーはセルケトの右側からうしろに回り込み、挟み撃ちの体勢をとった。なんだかんだで優秀な二人だ。このパーティーに選抜して本当によかったと思う。
「来るで、気ぃつけ――」
ナロー執事長の言葉が終わるよりも早く、振り上げられた巨大な尾が彼に襲いかかった。咄嗟に地面を蹴り、セルケトの左側に転がり込む執事長。直後、彼がいた場所に毒針のついた尾が叩きつけられた。
ギィィィン――!!
まるで金属同士がぶつかり合ったような、高質量のカン高い音を響かせて、鉱石の地面を砕いてえぐった。セルケトの甲殻は相当な硬度があるのだろう。
「なかなかに素早いでありんすなぁ」
先端の鋭い針からは白濁した液体が漏れでて、ぽたり、ぽたりと地面を濡らす。
「こいつは毒持ちや。みんな、尾っぽの攻撃に気をつけるんやで!」
「あら、あちきの御居処がそんなに魅力かえ?」
「やかましいわ!」
外骨格同士がこすれあい、ギィィ……ギィィ……と音をたてて動く巨大なサソリ。そしてその上、二階の窓ほどの高さから見下ろしてくる人間の上半身。
――普通に戦ったら、どうやっても攻撃が届かないだろう。
実際、ショーンもコネリーも攻めあぐね、セルケトの注意を引く事しかできないでいる。葵さんも殴り主体だし、今ここで動けるのは、魔法を使える僕かイノリさんくらいだろう。
「ならば、やはりこの手しかないか……」
僕は腰から水の入った皮袋を手に取り、その場に中身をぶちまけた。これで水を生成する手間が省け、いつでも水魔法が使えるようになる。
僕の転移者としての力は、魔法操作に分配されているらしい。【バイキング・オブ・カリビアン】で30メートルもあるクラーケンを水で包めたのも、その力があっての事だ。
水袋に入っていたのはジュース1本分くらいの水。そのわずかな水量でもできる効果的な作戦がある。
「お嬢、なんや企んどるな?」
僕はナロー執事長にニヤリと笑ってみせ、小さな水弾をセルケトの頭部めがけて撃ちだした。なんのひねりもなく、ただ真っ直ぐに。
セルケトは、避けるまでもないと判断したのだろう。無造作にサソリの腕を振り上げ、水弾を弾き飛ばした。
――しかしこれは作戦通り。
僕は飛び散った水を操作し、すぐさまセルケトの顔を水で包み込んだ。これなら少量の水で事足りる。
「なるほど、窒息狙いやな」
「生き物である以上、一番効果のある戦術でしょ?」
「……ですがミナミお嬢様」
イノリさんがメガネをクイッと上げる。これは、なにか重要な情報を口にするときのクセだ。
「サソリは、体側部の気門で呼吸をするのです」
「へ……?」
「ザックリ言うと、腹部の器官で呼吸しているので、頭を水で覆っても倒せませんわ」
「……マジ?」
「ええ、大マジです」
「早く言ってよ、もう」
そのナントカって呼吸器官がどこにあるかもわからないし、こいつを倒す方法を考える時間もないし……
「そうだ!!」
僕はインキャを捕まえると、カメラに向けて視聴者のみんなに頼んだ。
「みんな、手を貸して! セルケトの倒し方キボンヌ!!」
「ああ、その手がありましたか。他力本願の極み! さすがミナミお嬢様ですわ」
「イノリさん、それ、褒めてないでしょ」
とりあえず、どんな小さい情報でもいい。”三人寄れば文殊の知恵“と言うじゃないか。みんなの知力が集まれば、きっと倒すヒントになるはず。
僕は期待してコメント欄に目を落とした。するとそこには――。
〔まず、服を脱ぎます〕
〔教えねぇよ〕
〔キボンヌってなに?〕
〔ニートどもに頼るとかもうだめぽ〕
〔ggrks〕
……文殊さん、いませんでした。
「キボンヌとかggrksとか、今の若い人には通用しないらしいですわ」
「この世界も令和と変わらないのか」
セルケトの巨大なハサミが襲い来る。ショーンは盾で防ぎ、その隙にナロー執事長が剣を打ちつけるが、堅固な甲殻にアッサリと弾かれてしまった。葵さんの拳もコネリーの一撃も同様だ。
僕の水魔法もイノリさんの雷魔法も、かろうじてセルケトの人間部分には届くが、決定打には程遠い。
「仕方ないわね……」
葵さんはうしろに下がり、『大人しくしているのよ』と、自身の肩からベルノを降ろした。『ニャ!』と短く返事をして、その場に香箱座りをするベルノ。
「ミナミナ、肩借りるよ」
「え??」
――葵さんは突然走りだし、僕の肩に足をかけて飛んだ。
攻撃が届かないのなら、届くところに行けばいい。シンプルかつ合理的な考えだ。葵さんには転移者補正がかかっているし、この世界なら身体能力は相当高い。
しかし、それでも届かなかった。僕を踏み台にしても、地上4メートルの高さにあるセルケトの人間部分に手が触れるかどうかだった。
「痛ったあぁ!」
突然、僕の腰のあたりにするどい痛みが走った。一瞬なにが起きたかわからなかった。その痛みは肩へと昇り、そして、葵さんに向けて飛んだ。
「ベ、ベルノ?」
ベルノはそのまま葵さんの背中を走り、彼女の『ぎゃ~~~~』と言う悲鳴と共に、セルケトの背中へと飛び乗った。
……ベルノ、帰ったら爪切りな。
ベルノは爪を立て、ガリガリと音をたてながらセルケトの背中を走る。みんなの視線が、そしてインキャのカメラがベルノを追った。
セルケトは完全にベルノを見失ったようだ。甲殻が硬い分、どこを走っているか感じる事ができないのだろう。そして、人間部分の肩に飛び乗ったベルノは、その鋭い爪で絶世の美女さんの左目を引っ掻いた。
奇しくも、葵さんと同じトーンで「ギャ~~~~」と叫ぶセルケト。それは、額から頬にかけて伸びる四本の爪痕が、確実に攻撃が効いている証明でもあった。
「ベルノさんが!」
イノリさんが叫ぶ。セルケトの顔を引っ掻いた勢いのまま空中に飛びだしたベルノ。家の二階から飛び降りるようなものとは言っても、この硬い岩場では怪我をするかもしれない。
僕もイノリさんも、そして葵さんもベルノの落下地点に走った。落ちる前に掴もうと必死だった。そして……
「……もう、なんでそうなるのよ~」
「ベルノさん、素敵ですわ!」
僕らの心配なんてどこ吹く風。ベルノは空中でくるりと一回転すると、猫耳幼女の姿に変身し、スタッと地面に降り立った。
「ふう。また、つまらぬものを斬ってしまったですニャ……」
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(注)御居処-おいど-
「尻」を意味する言葉。京都弁や大阪弁、近畿地方の方言として使われている。
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