第39話・【没落令嬢のダンジョン生配信 その9】
全力疾走して僕らが現場に着くと、そこで暴れていたのは、巨大なオーガーだった。
「なんや~、大人と子供やな」
アナキンの筋肉バカリーダーも2メートルを超す巨漢だが、オーガーはそんな彼と比較にならないほど大きかった。ナロー執事長の言う通り、まさしく大人と子供だ。
巨大なこん棒を振り回す膂力、筋骨隆々の褐色の肌、ベテランパーティーでも手こずる強敵だ。
亜人間に属するモンスターだが、人と話せる知能はない。いや、話す必要がない、と言うべきか。……人間をはじめ大抵の生き物は、ヤツらのエサでしかないのだから。
「おいてめーら。見てねぇで手伝いやがれ! それがルールだろが!」
オーガーを見上げたまま”がなりたてる”アナキンのリーダー。視線を外したら危険だと、直感的に感じているのだろう。
彼の言う通り、ダンジョン内でモンスターに遭遇したら、共闘が基本とされる。ただし、ドロップ品の分配問題が発生するので、実際は最初に戦いだしたパーティーが占有するのが常だった。
「あら、ミナミお嬢様に向かって『泣いてすぐに帰る』とか『ガキのお遊び』とか言ったのはどちら様でしたっけ? そんな相手に助けを求めるだなんて、なんて恥知らずなのでしょう」
……イノリさん煽りすぎです。
「ほんで、あんさんら救援要請だすんかいな」
単独パーティーで討伐ができないと判断した時は、救援要請をだす事で共闘の依頼となる。ただしこの場合は、ドロップ品の公平分配が義務となってしまう。
その為、意地でも救援要請をださずに半壊し、だした時にはすでに手遅れと言うケースも少なくないらしい。
「ねえ、勝手に助けに入ったらダメなの?」
「ま、ダメやないけどな。あとで確実にもめるで」
ほとんどの場合、依頼なしで助けに入るパーティーはないそうだ。救援要請がでていないのでドロップ品を受け取る権利がないし、なにより、助けに入るパーティーにも大きなリスクがあるのだから。
命の危険や武器・防具の消耗がある中で、わざわざ”無償のボランティア“をするのは賢明ではない。
……当たり前の話だった。
そして彼らも例にもれず、いつまでも救援要請をださずに一人倒れ二人倒れていく事になる。
それでも、僕の目的は彼らを救う事にある。倒れられては困るんだ。仕方がなく、無償で救援に入ろうとしたその時……
「――救援を要請する!」
驚いたことに、アナキンのリーダーが「救援要請」を口にした。
直後、オーガーとアナキンの間に割り込んだのは、微笑みの暴風団の重戦士だった。プレートメイルを着込んだ彼は、剣で盾を叩き、モンスターの視線をひきつける。
ガンガンガンと響く音につられオーガーが視線を向けた瞬間、重戦士のうしろに控えていた魔術師が、光炸裂の魔法を使った。
それは強烈な光を発し、オーガーの神経を苛立たせた。不快な音と険悪な光。オーガーは重戦士に向き直って咆哮を上げる。『俺の獲物はお前だ!』とでも言いた気だ。
うしろに回り込んだ弓士が、オーガーの足を狙って矢を放った。横には剣を構えたリーダーのスティーブが、いつでも攻撃を仕掛けられるように構えている。
盾役がガッチリとモンスターのヘイトをとり、横やうしろからアタッカーが仕掛ける。これが微笑みの暴風団の基本戦術だった。
「すご……勉強になるな」
「ミナミお嬢様、観ている場合ではありませんよ」
……そうでした。
「よし、僕らも攻撃参加を」
「――いえ、ミナミさん」
と、僕らの威勢を削いだのは、微笑みの暴風団リーダーのスティーブだった。
「ここは我らに任せて先に行って下さい」
彼はそう言いながら、剣で洞窟の奥を示した。視線を向けると、そこにはさっさと逃げを決め込んだアナキンがいた。
「うわ、汚ねぇ……」
「彼らが『救援要請』を口にしたのは、このためだったのですね」
「と言うと?」
「こちらに敵対心をとらせ、その隙に自分たちは奥に進もうって魂胆だったのでしょう」
本当にやり方が汚い。登録者が少ないのも当然なのだろう。ただ、僕はどこか引っかかるものを感じた。もしこれを狙ってやったのだとしたら、彼らは見た目に反して、意外と狡猾なタイプなのかもしれない。
「急いでください。オーガーは雑食です。ほとんどの場合、生き物であれば格上相手でも襲いかかります。そのオーガーを手懐けて護衛に使うモンスターがいるとしたら、種族はなんだと思いますか?」
格上、つまり明らかに自分より強い相手でも捕食を試みるのか。恐怖心がないのかはわからないが、まるでヤンキーがプロの格闘家に喧嘩を売るようなものだ。
そうなると行きつくのは、オーガーよりも強くて、その上食べられない相手と言う事になる。
「ん~、堅いとか毒があるとか?」
「そやな。あとは、精霊とかアンデッドの可能性もあるで。」
「ええ、いずれにしても、アナキンではとても太刀打ちできないでしょう。我々もこいつを倒したらすぐに追いかけますので、早く。なんとしても止めてください!」
♢
「ショーン、コネリー。すまないけど、交代でリレーピックを打っていってくれ」
僕らは2グループに分かれて動く事にした。先行するのは僕と葵さん、ナロー執事長とイノリさんだ。ショーンとコネリーはリレーピックを打ちながら、僕らを追尾している。
戦力が分散するとしても、とりあえずは配信が繋がる環境は確保しておくべきだろう。それを見て微笑みの暴風団や、もしかしたら雷光の一撃もこちらに来てくれるかもしれない。
アナキンみたいに、その場のルールを守らない人が数名いるだけでも、秩序は壊れ始めてしまう。そしてそれを見た人が真似をして、もしくは破っていいんだとでも思って、さらに混沌と化してしまう。
だからルールってのは、各々の裁量とは言ってもきちんと守らないとダメなんだ。先人の経験からくる、安全への施策なのだから。
「ほんっと、迷惑な奴らだよな。無謀すぎなんだって」
「狡すっ辛いわね、タマキンの連中って」
「ハッピさん……アナキンです」
……わざと言ってません?
「タマキンのくせにやっている事は玉無しですね。どこに落としたのでしょう?」
「イ、イノリさん。少し抑えましょうよ」
……やはりわざと言っているよね? 二人とも、わかってやってるよね?
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