第35話・【没落令嬢のダンジョン生配信 その5】
ダンジョン配信の準備を始めてから三日が過ぎ、必要な物が大体揃い、行くメンバーの選出も終わった。
「イノリさん、配信機材は?」
「準備バッチリです。解像度は中レベルですが、とにかく丈夫な物を提供していただきました」
購入しました。ではなく、”提供してもらった“ってのがミソだ。そもそも、1億Gの負債を抱えた没落貴族が高額な機材を買えるはずがないのだから。
しかし、そこはさすがのイノリさん。彼女は準備二日目の朝に、ハッピースリーピーこと葵さんが、配信のための機材一式を探していると噂を流した。
するとあら不思議。その日の午後には機材提供を名乗りでる領民がわらわらと沸いてきた。食料や武器防具、揚げ句の果てには花束やビキニアーマーまで届く始末。
「こんなに貰って大丈夫なのかな?」
「問題ありません。機材提供者へのテスト配信で、ビキニアーマーのハッピさんに投げキッスでもしてもらえば十分でしょう」
……発想がエグいなぁ。この人、メイド長よりも軍師向きじゃないのか?
「一般向けのテスト配信はミナミお嬢様で十分ですわ!」
「だから言い方ぁ……」
「有料枠と無料枠で差をつけるのは当然です。あと、投げ銭も受けつける設定にしておきます。上限なしで」
「大丈夫かなぁ。そういうのってクレーム来ない?」
「そんなものは一蹴すればいいのです。それに無理矢理徴収するのではありません、税金ではないので。みんな公平に自己責任ですわ」
う~ん……自己責任、便利な言葉だ。
「お嬢、出発はいつにするので?」
あわただしく準備をしている僕らが気になったのだろう、ナロー執事長が『手伝おうか?』と声をかけてきた。
「明日の午前中を考えています。午後にはダンジョン入り口に着くように」
「よっしゃ、ほならワイも準備しておくさかい。よろしゅうたのんまっさ」
「えっ、執事長も行く気なの?」
「なんや、ワイが一緒じゃアカンのかいな」
ダンジョン配信に行くメンバーは、魔術師の僕とアタッカーの葵さん、タンク役としてショーンとコネリー。配信機材の管理をしてもらうイノリさんの五人だ。彼女には雷魔法による戦闘サポートもしてもらう。
ここにもう一人、オールマイティーに動ける執事長が加わってくれるのは非常にありがたいけど……
「執事長まで行ってしまったら、館の管理はどうなるのかな~と」
「1億Gの負債やで? 館がなくなるって時に管理もなにもあらへんがな」
もっともな話だ。館にいたところでなにも変わらないのだから。それに、葵さんはじめ、メイドや兵士にも武術訓練をするくらいなのだから、その実力は疑いようがない。
「連れて行かない理由はない、か」
♢
――翌日の昼過ぎ。
僕らはダンジョンの入り口近くの集落にいた。このダンジョンは発見されてからまだ日が浅く、まだまだ探索されていないエリアだらけだ。それ故、一攫千金を狙うパーティーが非常に多い。
そしてこの場所には、そんな冒険者狙いの簡易的な宿屋や食事処、武器防具のリペアを行う鍛冶屋等が建っている。もちろんポーション等を扱う道具屋もだ。
ここはダンジョン探索を行うパーティーの為の、言わばスタート地点と言える場所。
「ねえ、あのパーティーはもしかして……」
「え、ヤバい、ヤバいって!」
「きゃー! 本物よ!」
欠けている備品がないかを確認して、すぐにも突入しようと思って寄ったのだが……。足を踏み入れた途端、とんでもない数の冒険者や見物人に取り囲まれてしまった。
これは、機材提供者への特別配信で、葵さんに『ボクの活躍は、キミだけに観てほしいな』なんて言わせたのが原因だった。このひと言に踊らされたミーハーたちが、この集落に集まってしまったのだ。
それでもまあ、見つかってしまったのなら仕方がない。名乗りを上げておこう。
そう、僕たちこそあの話題沸騰中の、ミナミお嬢様とそのい……
「「「「「ハッピースリーピーとその一行!!!」」」」」
…………ぐすんっ
「仕方ありません……」
と、備品バッグをゴソゴソとあさり始めるイノリさん。
「なにをするのです?」
「この状況、稼ぐチャンスだと思いませんか?」
「え、稼ぐって……」
イノリさんは、白いマント状の外套に文字を書き始めた。そして葵さんの横で大きく広げてミーハーたちに見せる。
〔女性100名限定! ハッピースリーピーのハグ&チェキ 3000G〕
これが高いのか安いのかわからない、価値の基準は人それぞれなのだから。それでもイノリさんが布を広げた瞬間から、あっと言う間に列ができ上がっていた。
「はいはい、順番は守るんやで~。マナー悪いとハッピはんに嫌われるで~」
なんの示し合わせもしていないのに、列の管理を始めるナロー執事長。
「コラそこ、男はダメや。女性限定て書いてあるやろ!」
「あたい女ですわ~」
「アホちゃうか。そないなゴツイ女がおるかいな。ほれ、さっさと去ね!」
ここまでテキパキとやられては口のだしようがない。『キャー、いい匂い!』『もうお風呂入んな~い!』そんな黄色い声を聞き流しながら、僕はショーンとコネリーをともなって、喫茶店っぽいバラックのイスに腰掛けた。
……とりあえず風呂は入れ。頭から入れ。
運ばれてきたフレーバーティーを飲みながら、膝の上のベルノを撫でる。要は『ベルっちが活躍してくれたんスよ』と言っていたけど、この世界ではずっと猫のままだ。
「でもまあ、今幼女に戻られても困るからなあ……」
「あの、お嬢さん、猫を連れて行って大丈夫なのでしょうか?」
そうは言いながらも、ショーンはベルノをみて顔がほころんでいた。きっと、『邪魔だ』ではなく『心配だ』と言いたいのだろう。
「ああ、大丈夫。この子は猫に見えて猫じゃないから」
「は?」
「だよね、ベルノ」
キョトンとするショーンに、『ニャ―』と手を上げて返事をするベルノ。
「もしかしたら君らより強いかもしれないよ?」
「いやいや、揶揄わないで下さいよ。いくらなんでも子猫になんて負けたら兵士やめますよ」
と、爽やかに笑うショーン。なんかこれもフラグっぽいけど、命に係わるものじゃなさそうなのでとりあえずスルーしておこう。
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