第31話・【没落令嬢のダンジョン生配信 その1】
一夜明けて。モンスター討伐へ向う行軍の途中、全体休憩をとっている時だ。
「おい、ショーン。なんだよその恰好は」
僕がみんなから少し離れて座っていると、ショーンの友人、コネリーが話しかけて来た。
「あ、うん。ちょっと風邪ひいちゃって、移したらマズいと思ってさ」
「う〜ん、それでみんなから離れているのはわかるけどさ……」
僕の仕事は、ショーンのふりをして今日を乗り切る事。それと言うのも、昨日彼が『モンスター討伐が終わったら結婚するんだ』などと、王道な死亡フラグを立ててくれたせいだった。
「なんでフルフェイスマスクなんだ?」
「これは魔法でコーティングされていて、ウィルスを拡散せずに閉じ込めてくれるんだぜ」
……もちろんでたらめだ。
「しかし、こんなタイミングで風邪なんてなぁ。って……そうか!」
コネリーはニヤリと高角を上げると僕の隣に座り、男子高校生のようなノリで肩を組んで来た。
「昨夜はどうだったんだよ」
「どうって?」
「お嬢さんに呼びだされたまま、宿舎に帰って来なかったじゃないか」
「あ〜〜、まあ、それね……」
「で、やったの?」
……は???
「婚約者には内緒にしとくからよ。どうだった? 具合よかったか? くぅ、オレもあやかりてぇ〜」
いつの時代も男の下ネタ好きは変わらないらしい。しかしコネリーよ、時と場合を選べ。今は怖い人がいるんだぞ、と。
案の定、突然うしろからガッと襟首をつかまれたコネリー。そのまま無理矢理立たされ、木の幹に叩きつけられた。直後、シュッと風を切る音をなびかせ、ショッキングピンクの尖ったヒールが、ショーンの鼻をかすめて止まった。
「あんた、誰に向かってそんな口聞いてんのさ」
葵さんは左足を蹴り上げたまま、微動だにしなかった。彼の目と鼻の先にあるのは、ヒールの先端。えげつないショッキングピンクのヒールだ。彼女はこの戦場ともいえる場所に、普段通りの黒タキシードにパンプスで参加していた。
片足を上げた姿勢のまま動きを止めるのは、よほど体幹がしっかりしていないとできない芸当らしい。元々、葵さんの身体能力はかなり高く、加えて鈴姫と共同生活を始める時に、自衛のためにとキックボクシングを始めたそうだ。
廃墟部屋で、要の後頭部に飛んで来た瓶を蹴り飛ばせたのは、その格闘技の経験が活きたのだと思う。今にして思えば、自己紹介の時に言っていた『保護者兼護衛』と言う言葉は、本気だったのだとわかる。
「誰って……ショ、ショーンだろ」
「はあ? ふざけてるとこのまま目を突き刺すよ?」
「あ、葵さ……じゃなくてハッピさん。手加減をしましょうね」
さらには転移者補正とでもいえばよいのか、葵さんの身体能力にボーナスが加算されていた。ゲーム的に表現すると、筋力や体力が上がった近接ガチ殴り系ファイターってところだろう。
僕の場合は、そのボーナスが主に魔法能力に振られていたようだ。バイキング・オブ・カリビアンで精密な水魔法操作ができたのはそのせいだったらしい。
「ちょ、なにを……ショーン、助けてくれ。おい、ショーンってば」
これ以上騒がれると、他の人に気づかれてしまう。僕は仕方なく、フェイスガードを上げて顔を見せる事にした。
「え、お嬢さん!? なんでこんなとこに……いや、えっ、ショーンは……なんでっ!?」
「ショーンはミナミお嬢様の命令で特別な任務についている。もちろん領主様も周知だ」
もちろんこれは嘘だ。領主である父親も、なに一つ知らない。
「ま、それはそれとして。コネリー、アンタさ……お嬢様に向かって『やった』だの『具合がよかった』だの言ってくれちゃったよね」
「いや、その……」
「どうしよっか。見聞きしたもの全て、領主様に報告しなきゃならないんだけど」
それにしても、よくこんなデマカセの脅しがポンポンとでてくるものだ。葵さんって、詐欺師かヤクザの素質があるんじゃないか?
「あ、そうそう。最近、拷問部屋の床が渇いてさみしいって言ってたな」
その瞬間、コネリーの顔色が真っ青になった。先ほどまでとは違う恐怖を、葵さんの言葉から感じ取ったようだ。
「お、お願いしますよ~。この事は内密に……」
と、コネリーは慌ててポケットから、くしゃくしゃの紙幣を葵さんに手渡した。
「あのさ。そこにお嬢様がいるのに、なんで賄賂が通用すると思ってんの?」
完全に顔色を失うコネリー。彼としては、賄賂なんてつもりはなく、友人同士で『昼飯おごるからさ~』くらいの感覚だったと思う。葵さんは、それをわかっていて、あえて”賄賂“と話を大きくしたのだろう。
「えっと、オレはどうすれば……」
「今日のモンスター討伐、必死でお嬢様をお守りする事。ただし自身も絶対に死なない事」
と言いながら、賄賂を自分のポケットにしまう葵さん。……あ、返さないのね。
「どう? この約束守れる?」
「はい……お守りします。そして死にません!」
そもそも、僕と葵さんがモンスター討伐に参加しているのは、父親が『一番の武功を挙げたものを娘の婿にする』なんて口走ったからだ。
どうしようかと悩んでいたところ、葵さんはニヤリと笑いながら『ならばミナミナ本人が一番の武功あげればいいじゃん』と言いだした。最初は抵抗があったけど、よくよく考えてみれば、最も説得力がある方法だと思い、作戦決行となった。
僕はショーンのふりをして参加し、葵さんとコネリーのサポートで武功を上げる。そのために、強引な手を使って彼をこちら側に引き入れた。葵さん一人では、どうしても手が足りなかったからだ。
そして戦いが終わったら正体を明かして、婚姻を無効にする。さらには、それでショーンのフラグを折ることができるから、まさしく一石二鳥だ。
――ガンガンガンガンッ
突然、鎧や盾を叩き鳴らす音が響いた。この音は休憩終わりの合図ではない。
「先遣隊がモンスターに遭遇した。全員、戦闘準備、急げ!」
隊長の声が響き、あたりは騒然となった。
「ハッピ、コネリー、二人とも、遅れないように!」
「え~、ミナミお嬢様気合入ってんじゃん」
……当たり前です。僕の貞操の危機なのですから!
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