第28話・男と女
「ミナミナぁ~。なんで私なのよ!」
「僕のせいじゃないですって。マーフィーさんに言って下さい」
「……誰よそれぇ」
僕と葵さんは異世界へ転移した。めまいのする黒い空間を抜けた先には、ファンタジー世界の洋風の館があった。閉じられた門の向こう、遥か先にポツンと見える建物は、かなり格式の高い貴族屋敷を連想させる。
「まったくもう。……それにしても無駄に広い庭ね。金ピカの噴水も趣味悪いし。きっと成金よ成金!」
「葵さん、声が大きいですって……」
どこで誰が聞いているのかわからないのだから、もうちょっと警戒心を持ってほしい。
「あ、そういえばベルノはどこにいったのかな……」
「ミャ〜」
足元の鳴き声に目を向けると、尻尾の先だけ焦げ茶色した真っ白な子猫がいた。ピンっと立てた耳のうしろを僕の足にこすりつけて、一生懸命にマーキングしている。
……短い手足でもそもそと動く仕草がなんとも可愛い。
「って、まさか……ベルノか?」
「ニャ!!」
「うん、この目はベルノちゃんに間違いないわ」
そう言われると、そう見えなくもない。僕が白猫の目をじっと見ていると、バサリ……と音をたてて足元に本が落ちてきた。豪華に装飾された堅い表紙の本だ。
ページをパラパラとめくると、そこには司令内容が書かれていた。
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プレイヤー:ミナセ ミナト
:ウタシロ アオイ
ルーレットナンバー:4
ギフト:炎魔法
所持金:2640G (+2000)
~ミッション一覧~
死亡フラグを回避し、没落した家名を再興せよ。
プレイヤー属性(希望の属性をタッチしてください)
没落令嬢:
執事[炎魔法付与]:
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⑦冒険をやめて元の世界にもどる。これを選択した場合、全てのプレイヤーは3マス戻る。
※ルーレット使用後は選択不可。
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「今回はルーレットじゃないのか」
「ミッション一覧と言いながら一つしかないわね」
「他のページは……白紙だし、今回はそれしか選べないって感じですね」
……あれ? そう言えば、なんで今回は本なんだろ?
「葵さん、最初の世界に行った時、今みたいになにか落ちて来なかった?」
「えっとね……なんだっけ、こんなやつ」
と、言ってクネクネと踊り始める葵さん。
「……はい?」
「え~、わからないかなぁ、もう。こう言うのだって。ほれほれ」
「すみません、タコ踊りにしか見えないのですが」
「ひっど。ミナミナ最低!」
え~……。
「細い木の棒をヒモでつないだ巻物みたいなやつでさ……」
「あ、南京玉簾ですか?」
「そう、それそれ、南京の玉! それに似てるやつ」
なるほど。言い方がちょっとアレだけど、やっと意味がわかった。
「多分それ、木簡ですね」
「正解! ミナミナに5ポイント!」
……はあ、疲れる。
【バイキング・オブ・カリビアン】の時は羊皮紙だった。あの時代に最も流通している紙だ。平安時代では木の細い板をヒモでまとめた木簡、そして今回はしっかりと製本された書籍。
最初に落ちて来る指令書は、その異世界の文化レベルを表しているのかもしれない。未来に行ったらタブレットでも落ちてきそうだ。
「じゃ、あとはこのプレイヤー属性ってのがなにかを調べて……」
……
「……あれ?」
……
「ちょっと葵さん、なんで執事の所に葵さんの名前が入ってるの?」
「なんでって、タッチしたら名前が登録されたに決まってるじゃない」
「そうじゃなくて。令嬢と執事ですよ? 葵さんは女で僕は男ですよ?」
「あたり前でしょ。ミナミナ、頭大丈夫?」
わかってて執事を選んでるのか、葵さんは。もしかして、なにか考えでもあるのだろうか?
「普通この組み合わせなら、葵さんが令嬢でしょ」
「ミナミナ古~い。今はそんな事にこだわる時代じゃないわよ」
「いやいや、こだわるでしょ」
「じゃあさ、もし一緒に来たのが要や颯太だったらどうするの?」
確かにそのケースだと、どうやっても男が令嬢になるけど。要はともかく、颯太のゴツイ体格でお嬢様は無理がありすぎる。
……って、想像してしまったじゃないか。
「それに私はお嬢様なんてガラじゃないし。だいたい死亡フラグがついてるとかありえないから」
「もう、それが本音でしょ。とにかく、僕が執事やりますので」
「あ、それ一度登録したらキャンセルできないらしいよ」
「はあ???」
そもそも筆記具もなければ消しゴムもない。名前をこすっても消えないし、さわったら名前が記載されるとか、これ、どういうシステムなんだよ。
「マジで名前が消えないじゃん……」
「だからそう言ってるじゃない。お嬢様」
「その呼び方やめてくださいって」
「それにさ……」
と、僕を指差す葵さん。なんか口元が緩んで、必死に笑いをこらえているように見える。
「えっ……ちょっとまって!」
いつの間にか、白のフリフリレースがついた浅葱色のドレスを着ている僕。妙な重さを感じて頭に手をやると、爆発的に増えた髪の毛が、縦ロールの金髪ドリルヘアになっていた。
「ないでしょ、これは」
「似合うじゃない……ぷっ」
と、顔を上げると、いつの間にか葵さんまで黒のタキシードになっている。見た目だけなら宝塚も真っ青の、眉目秀麗な男装の麗人だ。さすがにパンプスだけは、ベルノのアレだけど。
「マジ……かよ……」
葵さんは、ひょいっとベルノを僕に抱かせると、大きな門を押し開いた。
「さ、行きましょうか。ミナミお嬢様」
「もう、かんべんしてよぉ~」
(注)文章の表現上、『紙』と書きましたが、実際は読んで字のごとく『羊の皮を使った紙のような物』です。
本作はネオページにて契約作品として展開しています。
編集部の意向で、宣伝のために転載していますが、内容は同一です。
その為、ネオページからは15話程度遅れています。
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