第27話・キラキラのプレッシャー
「あ、葵ちん、これ」
と、要はショルダーバッグから、一足の靴を取りだした。
ラメの入った、ショッキングピンクのパンプス。つま先は『これでもか!』ってくらい尖り、ギラギラテカテカした質感が、必要以上にチープさを演出している。
ファッションに疎い僕から見ても、ちょっとそれはセンスないだろ……とツッコミを禁じ得ないデザインだ。
案の定、葵さんは眉間にしわを寄せて食ってかかろうとしたが、要は人差し指を口に当てて静寂をうながした。そして――
「これ、ベルっちが選んでくれたんスよ」
……特大級の殺し文句だった。
一瞬動きが止まり、なにも言えなくなる葵さん。目の前のちっこかわいい娘が選んでくれたなんて言われたら、誰一人として文句なんて言えないだろう。
僕も颯太も鈴姫さんも、『ベルノの気持ちを無下にするのか?』『こんな小さい子が選んでくれた物にクレームをつけられるのか?』と無言のプレッシャーをかけた。
「絶対絶対、葵ちんに似合う色ニャ!」
そしてダメ押しはベルノのキラキラしたまなざし。まぶしいくらいの純真無垢な目で見つめられた葵さんは、なすすべもなく完敗したようだ。
「あ……ありがとね、ベルノちゃん」
葵さんがベルノの頭をなでると、猫耳幼女は、これ以上ないくらいの笑顔で『ふにゃぁ~』っと微笑んでいた。
「似合うかしら……」
「バッチリですニャ!」
葵さんの足にえげつなく輝くショッキングピンクのパンプス。尖ったつま先はもはや凶器だ。
脇で見ている僕ら三人はなにも言えなかった。いや、『なにか言ったら危険』と、見て見ぬふりをしていた。
しかし――。
「似合ってるッスよ!」
空気を読まずにフォローを入れる要。
その時僕らは見た。葵さんのこめかみがピクピク動き、背中に隠した拳がプルプルと震えていた事を。
そんな彼女の心情を知ってか知らずか、要は言葉を続けた。
「そうそう、スゲー魔法覚えて来たっスよ! これで食料問題も解決っス!」
このひと言に、みんな身を乗りだした。もちろん僕もだ。颯太が手に入れたマジックバッグがあるとは言っても、タイミング次第では食料確保が難しい場面もあるだろう。
だから、要の言う通り本当に食料問題が解決できたのならこの上ない朗報と言える。期待の視線が彼に集まり、言葉を待った。
……だが、要の口からでたのは、予想外のひと言だった。
「無限にマシュマロを生成できる魔法っス!」
「要、あんたさ……」
葵さんは、怒りと呆れとあきらめが混ざったような表情と声で、静かに語りかけた。
「ただのうぇいバカだと思っていたけど、真正のバカだったのね」
「葵ちん辛辣っス。でも、好物っスよね、マシュマロ」
「なんでそんな事を知ってんのよ……って!」
そこまで言って葵さんはなにかを察し、隣にいる幼馴染を見た。その瞬間、そっぽを向いて肩を震わせる鈴姫さん。
「まったくもう……さっさとだしなさいよ」
「うっス!」
チョコレートまではいかなくても、低脂肪・低カロリーでコラーゲンも摂れるから、緊急時の食料として優秀な部類だと、母に教わった事がある。
ただ、『食べ過ぎるとメチャ太る』とも言っていた。……まあ、それは当たり前の話だけど。
「あ、大きさはどうします? 小指サイズから葵ちんの足のサイズまでだせるっスよ」
無言のまま指を一本立てる葵さん。
「あ、了解っス。中指サイズっスね!」
……なんか違うぞ。そう思いながらも、僕らは見て見ぬふりをした。
♢
「ねえ、ベルノちゃん、この絵って誰なの?」
マシュマロを頬張る葵さんを横目に、鈴姫さんはベルノに問いかける。
「ベルノのネネなのニャ!」
「ネネって?」
「ネネはネネなのニャ〜」
よほど座り心地がよいのだろうか、ベルノはまたもや葵さんの膝に乗って、一緒にマシュマロをモキュモキュと頬張りはじめた。
「えっと、じゃあ、こっちは?」
「バカティラノとプチとルカですニャ!」
「馬鹿ティラノ……って、恐竜のティラノサウルス?」
「うん。ベルノの家族ニャ」
恐竜が家族って……ベルノは猫娘だし、どんな意味で言っているのだろうか。なんか、特殊なファンタジー世界な感じがする。
「あ、そっか……」
「どうしたの? 水瀬くん」
「ここにある本の中に、ベルノの世界があるはずなんだ」
そう考えた理由は二つ。
要たちが行った、【不思議の国のアリとキリギリス】の本までもがここにある事から、転移先はこの本の山から選ばれていると考えられる。
もう一つは、異世界ミッションの内容。『ベルノの世界を探す』をゲームとして成立させるには、その対象が転移できる場所である事。
「どこの誰が首謀者か知らないけど、わざわざこんなところに閉じ込めてスゴロクをやらせるくらいだ。ゲームを成り立たせるには、この場で解決できないミッションは提示しないと思う」
……そして、”そいつ“はどこかで僕らを見ているのだろうか。見えないところにカメラを仕掛けているのかもしれない。
「だから、この本の山から、ベルノやネネって名前がでてくるものを探せば……」
「ベルノの帰る世界がわかるって事っスね」
ポンッと納得する要。これにはみんなも納得してくれたようだ。ただ……探しだしたところで、その世界に行く方法はわからないけど。
「あ、水音っち。コマが催促してるっスよ」
相変わらず、丸くなったり長くなったりしている。自分の顔ながらムカつく事この上ない。
「じゃ、本の調査はみんなにまかせるね」
「手分けして読んでおくっス」
要からショルダーバッグを受け取り、ルーレットを回した。ジジジ……と、こすれる音がして止まり、コマがブルブルと動きだす。
「じゃ、行ってくる」
………………
「あれ?」
あの黒い空間がちょっと苦手で構えていたのに、いつまでたっても転移が始まらない。
肩透かしを食らった気分になり、僕のコマが止まったマスを見てみると、そこには『特別ルール』の文字が浮かび上がっていた。
「なんだろう、これ……」
「ミナミナ、今度はなにやったの?」
「もう、『今度は』ってなんですか。ひと聞き悪いなぁ」
——ピコンッ!
僕のスマホにメッセージの着信があった。開いてみると、そこにはまたもや意外な文言が……
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次の異世界は二人で協力してミッションをクリアしてください。
① 薬師寺 要
② 徳川 颯太
③④ 神楽代 葵
⑤⑥ 雪代 鈴姫
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「なんで私と鈴姫だけ確率高いのよ」
「レディファースト、かな?」
葵さんがジッと見てくる。『絶対に3と4をだすな!』と圧を受けながら、僕はルーレットに手を伸ばした。
マーフィーの法則と言う話がある。「こうなって欲しくない」とか「どうせ、こうなるんだろうな」とわずかでも思うと、その考えが現実になってしまうって理論。トーストを落とすとバターを塗った面が下になるってアレだ。
そして、マーフィーさんの干渉でルーレットは④で止まり、その瞬間、僕と葵さん、そしてベルノは、めまいのする黒い空間に包まれていった。
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