第25話・ちっこい葵さん
――僕らは勘違いをしていたようだ。
「結界は地面にあるんじゃなくて、この部屋を包むように張られているみたいだね」
颯太が投げたウィスキーボトルは、空中で消えて部屋の反対の壁から飛びだしてきた。下に落ちた物は天井から降ってくる。この事から察するに、真上になにかを投げたら、床からでてくるのだろう。
「でも、なんでそんな面倒な事するんだろ? 上や横になんて逃げられないのに」
窓から逃げて、地面につかないようにジャンプしたとしても数メートルが限界。なにかハシゴみたいなものを使っても大差はないだろう。
……だけど僕のこの考え方は、固定観念が強かったらしい。
「どこかに、空飛ぶ魔法とかあるんかじゃないスか?」
だから、僕の考えが及ばなかった要のこのひと言には、ザクっと盲点を突かれた気がした。
「あ、そうか……浮遊魔法を封じるためならすじが通るね」
異世界には魔法が存在するのだから、どこかに浮遊魔法があってもおかしくはない。しかしこれに対して、葵さんはひとつの疑問を投げかけて来た。
「でもさ、だったらなんで、魔法を持ち帰れるなんて仕様にしているのかな? 最初から『魔法が使えるのは異世界のみです』とでもしておけば済む話じゃない?」
これももっともな話だ。要の直感も葵さんの考察も、どちらも本質を突いている意見だと思う。
「えっと、上手く言えないんだけどさ……」
ただ、僕にはそれ以上の裏があるような気がしてならなかった。
「僕らが魔法を持ち帰る事を前提とした、なにかがあるんじゃないかな?」
「なにかって、なに?」
「そこまではわからないって。なにか、としか……」
「ミナミナさ、もうちょっと頭使ってから口にだそうよ」
立てた片膝に頬杖をついて、『ふう』と呆れて見せる葵さん。……ホント容赦ない。
「しょげてる可愛らしい葵さんがなつかしいよ」
「ん? なにか言った?」
「いえ、空耳だと思います」
……あぶないあぶない、思わず口にでてしまった。
「それに、アイテムや魔法を持ち帰れなかったら、餓死したり熱中症で苦しんでいたんじゃない?」
「まあ、そうよね。ミナミナの水や颯太の氷がなかったら、相当ヤバかったし」
こんな場所に閉じ込めておきながら、殺すのが目的ではない、僕らを”生かす為の処置“とでも言うべきか。
でも、だったらなぜ、あんな危険だらけの冒険をさせるのだろう? 僕の場合は、物語を知っていたから回避できた部分が多々あるけど、知らないで動いたら、本当に死んでいる場面がいくつもあった。
ここにいる理由が、ますますわからなくなってきた。いったい、なにをさせたいのだろうか……
――カチリッ
「あ、雪平さんだ」
と、魔法陣を見ながら、嬉しそうに反応する颯太。隠しているつもりだろうけど、僕や要、葵さんには、彼の甘酸っぱい感情はバレバレだった。
緑の光の粒があつまり、鈴姫さんが帰還。しかしそこにいたのは一人ではなく、彼女は、フードを被った子供の手を握っていた。
それを見た瞬間、石のように固まる颯太。
「これが、〔幼女+1〕?」
「えっとね、そうだけどそうじゃなくて……みんな、驚かないでね」
鈴姫さんが子供のフードを脱がすと、そこにあったのは、あまりに見慣れた顔だった。
「え……」
「そんな事あるっスか……」
全員に衝撃が走った。それはもう、まさに、『うそでしょ……』だった。
「なんで、ちっこい葵さんがいるの?」
亜麻色の髪にクリクリとした目、さわり心地のよさそうなぷにぷにほっぺ。まさしく彼女をそのまま幼くした、ちっこい葵さんだった。
……そして、なぜか猫耳しっぽつきだ。
「う……ん……眠いニャ」
呆気にとられるみんなの視線を気にする事もなく、猫耳幼女は葵さんの顔を見ると、その膝にちょこんと座った。親とでも思っているのだろうか。
チョーカーについている鈴をチリンと鳴らし、猫耳幼女は、葵さんの膝の上で丸くなった。
「メチャクチャかわいいっスね~」
「うん、かわいい……じゃなくて。雪平さん、これは、えっと、だ、だ、だ、誰の子供?」
ほわんとした表情の要と、なんだか焦っている颯太。
「私にもよくわからないんだけど、奴隷商人から助けたらなつかれちゃって」
鈴姫さんが転移した異世界は、タイムマシンが存在するSFの世界だったらしい。課せられたミッションは、月面に作られたコロニーに潜む、時空犯罪者の逮捕。
鈴姫さんが転移した直後、手をつないできた幼女がいたそうだ。話を聞くと、その子は”違う時代から誘拐されてきた“と判明する。
調べを進めるとみえてくる首謀者。それは、表向きは児童養護施設の館長。その裏の顔は、タイムマシンを使っていろんな時代から子供をさらって来る、奴隷商会のボスだった。
鈴姫さんは、時空警察と共に囚われていた子供たちを解放する。しかし、その中にひとりだけ親も時代も判明しない子供がいた。
それがこの猫耳幼女。
誘拐された上に両親が不明。そして葵さんにそっくりな顔。鈴姫さんは放っておけずにつれてきてしまったそうだ。
「でも、この先どうするの?」
膝の上の猫耳幼女を、そっとなでる葵さん。そこだけ見ると、ちょっと年の離れた仲のよい姉妹だ。
——ピコンッ!
その時、鈴姫さんのスマホに着信があった。
「え、これって……」
内容を確認した鈴姫さんは、みんなに見えるようにスマホを床に置いた。
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【異世界間クエスト発生】
猫耳幼女の世界を探しだし、親元へ届けろ。
達成報酬 :6マス進む
非達成ペナルティ:それまでに入手した資金・アイテム・スキル・魔法の没収
※ 達成報酬・ペナルティ共に、全てのプレイヤーが対象
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「あのさ~。転移する世界って選べないのに、探せって言われても運頼みしかないよね」
……いや、違う。
確かに葵さんの言う通りだけど、運まかせなミッションなんて、ゲームとして成立するはずがない。だとすると、なにか転移先の世界を指定できる方法があるのかもしれない。
もしそうだとしたら、比較的安全な世界を選んでゴールを目指す事が可能になる。
……これは、調べてみる価値がありそうだ。
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