表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【異世界スゴロク】止まったマスで転移する呪いの冒険譚 ~ゴールしなければ生き残れない~  作者: 幸運な黒猫
廃墟の洋館

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/28

第1話・五つのコマ

 僕、水瀬(みなせ)水音(みなと)が廃墟に魅了されたのは、両親の影響が大きい。物心ついた頃には、家中に廃墟の写真や本が溢れていた。おそらく、他の家の子が『ピーターパン』や『ごんぎつね』の読み聞かせをしてもらっているとき、僕は九龍城や軍艦島の写真を眺めていたのだろう。


 そう、僕にとって廃墟写真集は、絵本であり知育教材だったのだ。


 今年の初め頃だったと思う。廃墟好きが集まるwebサイト・Ruins CLUB(ルインズ クラブ)で『オフ会を兼ねて廃墟散策をしよう』って提案があった。

 僕はいつも掲示板を眺めるだけだったから、これに即飛びついた。初めての廃墟散策に同じ趣味の仲間と行けるなんて、参加しない理由なんてない。


 しかし……


「これで、全員なのかな?」


 当日、集合場所であるY県のK駅に集まったのは、僕を含む男性3人と女性2人の計5人だけだった。


 正直、少し残念な気持ちはあったけれど、せっかく来たのだから楽しまなきゃ損だと、気持ちを切り替える事にした。


 このあと、駅から廃村に近い停留所まで、バスで移動する。ガタガタと歌う窓から、木々の間を抜けてきた緑の熱風が吹き込み、ギラギラした陽の光が床に木陰を踊らせていた。


 自己紹介や雑談をしながらおんぼろバスに揺られ、廃墟最寄りの停留所で降りた。そこから未舗装の峠道を一時間も歩かされるとは思わなかったけど、みんな汗だくになりながら、なんとか昼前には目的地の廃村に到着した。


 ちなみにこの辺りは電波が届いておらず、スマホは圏外だ。写真や動画は撮れるので特に問題はないけど、それでも隔離された感じがしてちょっとだけ不安になってしまう。


「あの、昨日ネットで見つけたところに行ってみたいのですが……」


 と、提案してきたのは鈴姫(べる)さんだった。


 彼女の情報によると、少し離れたところにポツンと二階建ての洋館があるらしい。かなり奥まった場所にあるせいでなかなか見つけられず、情報自体が貴重なのだそうだ。


 もちろん全会一致。こんなレアなワクワクを前にして、惹かれないはずがない。軽く昼食をとって、すぐにでも移動しよう。





「ここ、だよね」

「凄い……迫力がありますね」


 何十年も放置された建物は、当然、外装がボロボロだ。それでも、ところどころに残るくすんだベージュ色が、遠い日の建物の姿を(しの)ばせる。


 エントランスも階段もホコリが積もっていて、歩くたびに舞い上がり、窓から差し込む光に白く漂っていた。


「わかっていると思うけど、単独行動はしないように。必ず二人以上で動きましょう」


 これは廃墟散策の基本だった。例えば”床が抜けた“等のトラブルが発生した時に、一人では対処できない事があるからだ。そういった緊急時を想定して、お互い視界に入る位置での行動が原則とされている。


 ましてやここはスマホの電波が全く届かないエリア。注意はし過ぎるくらいがいい。


 そして、男性陣と女性陣に別れて散策を始めて数分がたった頃だ。


「——ねぇ、みんな来て」


 二階から(あおい)さんの声が聞こえてきた。『突然どうしたのだろう?』と、僕ら三人は慌てて階段を駆け上がった。


「二人とも大丈夫っスか?」

「――なにかあったの?」

「なにかあったって言うか、コレがあった」


 と、部屋の中を指差す葵さん。


 二十畳ほどの部屋には四台の壊れたベッドが等間隔に並び、隅に本棚と机が置かれていた。木の板を張り合わせた壁はささくれていて、ところどころ黒ずんでいる。


 これだけなら特に珍しくもないのだが、()()()()()()()()()()()()()


「なんでこんな所にボードゲームがあるのかな?」

「あの、葵さん? 僕に聞いてわかると思います?」

「だよね~……」


 誰にも理由はわからないだろう。なぜ部屋の中央にスゴロクが置いてあるのかなんて。それもわりと最近の、サイコロの代わりにルーレットを回して進めるタイプの物だった。


「誰かが遊んでいたんスかね」

「そんな訳ないと思うけど……」


 僕は、(かなめ)の言葉を完全に否定しきれなかった。明らかに誰かが置いたとしか思えないからだ。廊下も階段も部屋もホコリだらけなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ——しかし、そんな事よりも、もっと不可解な点がある。


 それは、スゴロクのスタート地点に五つのコマが並んでいる事だ。ちょうど今いる人数と同じだが、不思議なのは数ではなく、その形状だった。


「このコマってさ、()()()()()()()()()()()?」

「あ、水音(みな)っちもそう思うっスか? オレもなんかそんな気がしていたんスよ」


 ディフォルメされた二頭身にもかかわらず、それぞれ僕ら五人の顔や髪型、体格や着ている服までそのまま再現しているような形をしている。


「このルーレットを回せってことっスかね」

「いや、触ったらだめだよ」


 廃墟散策のルールだ。自然に朽ちた、人の手が入らない環境こそ廃墟の前提。だから、そこにある物を動かしたりするのは厳禁なのだ。


「大丈夫、わかっているっスよ~」


 とはいえ、廃墟散策のルールは一般的に知られたものではない。だから要みたいに、「このくらい平気っしょ!」と軽く考えるのも無理はないのかもしれない。


「か~ら~の~」


 と、ふざけながらルーレットを回す要。その瞬間、ルーレットがギィッと不気味な音を立てた。


「廃墟の物に触ったらダメって」

「でもこれ、あとから誰かが置いたんスよね? 廃墟の物じゃな——」


「え……薬師寺くん⁉」

「ちょっと、なに?」


 鈴姫さんと葵さんの驚く声に顔を上げると、要の姿が目の前から消えていた。声どころか本人までいなくなったのだ。

 一体なにが起きているのか、思考が追いつかず呆然としていると、颯太の緊迫した声が響く。


「みんな、こっちを!」


 振り返ると、そこは一面の壁だった。たった今入ってきた部屋の入り口が消え、すべて壁に変わっている。


「これ……颯太(そうた)、なにがあったんだよ」

「わからないよ……薬師寺くんが消えたと思ったら、いつの間にか壁になっていたんだ」


 目の前の不可解な現象に誰もが言葉を失い凍りつく中、しん……と静まった部屋に、なにかが擦れる音が聞こえて来た。


 それはスゴロクの盤面を、ズズズ……と動くコマの音。ディフォルメされた要が、意思を持ったかのように進む音だった。

ご覧いただきありがとうございます。


本作はネオページにて契約作品として執筆している作品です。2025/9/7現在で27話まで進んでいます。よろしければそちらにも遊びにいらしてください^^サイト登録&♡や応援ボタンををポチっとお願いします(●´ω`●)


作風が気に入って頂けましたら、この”あとがき”の下にある☆☆☆☆☆をポチっと押していただけるとありがたいです(下にずんどこスクロールお願いします!)

ブックマークも是非是非よろしくお願いします。


今後とも続けてご覧いただけると幸いです! 


©2025 幸運な黒猫 All Rights Reserved. 無断転載・引用禁止。

著作権は作者に帰属しています。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ