甘い霊薬
その凄惨な光景は、彼女がこれまで目にした中で最も悍ましいものだった。彼女はただ、呆然と立ち尽くした。ブラントは傷だらけの女性をそっと床に降ろし、その姿を見た瞬間、彼の全身を吐き気を催すほどの激しい吐き気が襲った。ジェナはぞっとしながらも、彼が便座に立ち、その血を便器に流し込もうとしたのだろうと悟った。便器の縁には、血の輪が忌まわしい跡を残していた。
「頼む、ジェナ…」
血に汚れた顔で、ブラントは悔恨の念に満ちた表情で懇願した。
彼女は震える足に無理やり落ち着きを取り戻させ、踵を返してその場を後にした。今すぐにも走り出したかったが、あえてゆっくりと歩き、彼をその破壊された空間に一人残した。
「ジェナ!」
彼女が戻ってきたとき、マイクは衝撃と戸惑いを浮かべた顔で彼女に呼びかけた。「ブラントは…?」
壁際までふらふらと戻りながら、ジェナはつぶやくように言った。「彼、殺したのよ、マイク。レストルームの中で…」
「なんてことだ…。そうなるべきだったとでもいうのか?いや、また一人…」マイクはそう言って、血走った目を細めた。その顔色は蒼白になり、唇は青みを帯び、指先がけいれんした。「ジェナ…君に話さなきゃならないことがある…」
彼女は身構えたが、彼の死人のようにやつれた顔を見て、すべてを悟った。
「あなたまで…?」
マイクはか細い声で答えた。「ジェナ、僕はもうすぐ死ぬんだ。僕は決して人を殺したり、血を飲んだりすることはなかった。そんなこと、できないんだ。だから、僕は長くは生きられない…」
しかし、どうして?なぜ?
「ブラントと同じように、僕も生きるためには血が必要なんだ。彼はもう一人殺した。そしてまた、きっと同じことを繰り返すだろう。」
ジェナはためらうことなく左腕の袖をまくり、彼に差し出した。「ここから取って。あなたを死なせたりしないから。」
「ジェナ、僕は…」
マイクはよろめき、その瞳は飢餓の光でぎらついていた。「誰も見ないように、座ろう…」
二人は体を寄せ合い、身をかがめるようにして簡易ベッドの上に座り込んだ。マイクは切羽詰まった様子で彼女の腕にひざまずいた。彼の歯が彼女の肉に食い込み、甘美な霊薬たる血が吸い出される間、ジェナは息を詰めていた。
「マイク、無理しないで…」と彼女は言った。
血が彼の口元を伝うのを見て、その行為は不思議なほど個人的なものに感じられた。めまいが襲ってきた。彼女は人生でこれほど大量の血を失ったことはなかった。
「マイク…」
彼は身を引いて立ち上がった。彼女の腕からは血が勢いよく流れ出ていた。もう少し考えて行動すればよかったと後悔したが、マイクは応急処置キットを取り出して彼女の傷を手早く手当てしてくれた。
「ありがとう、ジェナ。」彼は言った。「僕たちはもう、ここを去らなきゃならない。」
「どこへ?」
「どこでもいい。今夜、包囲網が完成する前に、一緒に兵器庫から逃げ出そう。」
レストルームの方から悲鳴が聞こえた。「ブラントが見つかった!」マイクは呻くように言った。
「いや、見つかるつもりだったのかも。」
「ジェナ、もしここにいたら、僕たちは二人とも死ぬ。僕がゾンビだとしても、一緒に行ってくれ!きっと乗り越えられる…君の血で僕は生きていけるんだ!身動きが取れなくなる前に、ここを出なきゃ…」
彼女は決意を込めて答えた。「ええ、行きましょう。私も一緒に行くわ。」
土砂降りの雨が降り注ぎ、アメリカ軍の塹壕は泥濘の沼と化していた。ゴーディとプレスリーが水浸しの穴の中で身を潜めている間、唯一聞こえるのは、ヘルメットに滴る雨の音だけだった。北の方角、濃い霧の向こうには、平坦な地面が広がり、その先には目に見えないゾンビの陣地があった。
「これはおかしい!」プレスリーが叫んだ。「こんな中で、僕たちは戦えない!」
ゴーディはしっかりと銃を構えたまま答えた。「ここでは戦える。パッシェンデールやヒュルトゲンの森では、もっとひどい状況で戦ったんだ。」
「諸君、我々は上の通りを偵察する。」ルーカス・ハム少佐が言った。「パターソン、デラニー、そしてイグナティオ、準備しろ。」
「いや、僕たちは行けない…」プレスリーは顔面蒼白になった。ハム、プレスリー、ゴーディ、パターソン、デラニー、イグナティオ、そして4人の兵士、合計10名がこの任務のために集まった。塹壕の向こうには、未知の恐怖が待ち構えていた。
「ぐずぐずするな、さあ、行け。」ハムはつぶやいた。彼はゴーディを見た。彼の目には、誰もが感じているのと同じ恐怖が宿っていた。
10人は泥だらけの塹壕の縁をよじ登り、大隊の機関銃に援護されながら、霧に包まれた無人地帯へ這い進んだ。
「何か見えるか?」濃い霧のカーテンの中、プレスリーが尋ねた。
「警戒しろ、低く這え。」ハムが忠告した。一人の兵士が向きを変え、慎重に前進した。
彼はつぶやいた。「何か、あそこにいる…」
「ジャックス、何が見える?」ハムが促した。
彼の口が開いたその瞬間、一発の銃弾がジャックスの肩を貫き、心臓を抉り、腕から飛び出した。彼が崩れ落ちると、ハムは叫んだ。「後退だ!下がれ!」
足元で銃声が鳴り響き、不吉な血を求める咆哮が響き渡った。イグナティオが首を掴んで倒れ、二人の兵士が銃弾と矢の集中砲火に震えた。「逃げろ!」ハムが叫んだ。
「プレスリー!戻るんだ!」
ゴーディは叫びながら、身をかがめて安全な場所へと急いだ。大胆不敵にも、プレスリーはベルトから手榴弾を掴み、銃口の閃光に向かって投げつけた。
爆発が空気を引き裂き、銃声は一瞬止んだ。プレスリーはハムとゴーディと共に走り戻った。二人は驚きと誇らしさを込めてその姿を見ていた。
再び銃撃が始まった。ゴーディは耳を撃たれ、プレスリーは背中を撃たれた。
「プレスリー!」
ゴーディは友が倒れるのを見て、嗚咽した。道路に血の筋が残っていた。彼はひざまずき、プレスリーの細い体を持ち上げ、胸に抱きかかえ、線路に向かってよろよろと進んだ。
「ゴーディ!そいつから離れろ!」ハムが叫んだ。
「待ってくれ!」ゴーディは荒い息を吐いた。近くにはマイロ・パティソンが喉に矢を受けて横たわっていた。彼はまだ生きていたが、発作と出血で急速に衰弱していた。
ゴーディは溝に転がり込み、泥の中にそっと着地した。プレスリーの傷口はあまりにも大きく、内臓がはみ出していた。無傷だったハムは身を乗り出した。
「よくやった、兵士。」彼は言った。
「ジョン…」プレスリーはつぶやいた。「ここで死なせないでくれ。僕は死にたくないんだ。」
「大丈夫だ、ダニー、僕と一緒にいてくれ。」ゴーディは言葉を詰まらせた。衛生兵たちが彼の内臓を押し戻したが、プレスリーの脚はすでに力なく、背骨は切断されていた。
「恋人に会いたい…家族に会いたい…」
「ここにいろ、ダニー…目を開けているんだ。」
衛生兵たちが処置をする間、プレスリーの大きく開かれた目は曇り空を見つめていた。ゴーディは彼の手を握りしめて痛みを和らげようとした。
「ジョン…いつか、また会えるだろうな。」プレスリーはつぶやいた。
「ああ、また会おうな、ダン。」ゴーディはそうささやき、涙をこらえながら彼の手に力を込めた。
プレスリーはかすかに微笑み、ウインクをしながら付け加えた。「色々と、ありがとうな。」
21歳で、ダニエル・プレスリーは神と和解し、塹壕の血まみれの泥の中に消えていった。
9月25日の早朝、ゾンビが全ての脱出路を封鎖する直前に、マイクとジェナは兵器庫を後にした。列車の線路が鬱蒼とした森を切り裂くように伸び、彼らの避難場所であるハッケンサック川へと続いていた。郊外の南東に位置するその場所を目指して、二人は歩みを進めた。
彼らの出発はほとんど話題にならなかった。当初、軍隊の出口は封鎖されていたが、一週間が経った今、ゾンビが接近し、早期攻撃を仕掛けてきたため、軍は兵力を失いつつあった。
「怖い?」
ナイフと拳銃、数日分の食料だけを携え、人けのない住宅地をこっそり進みながら、マイクが尋ねた。
「ええ、少し…」ジェナは答えた。
「この空き家から食料を調達できる。」彼は言った。
ジェナは辺りの静寂を感じていた。かつてここは、家族が暮らし、愛し合い、犬を散歩させ、子供たちを学校に送り出し、星空の下でキスを交わした賑やかな場所だった。今、家々の窓は虚ろな目をしているように見え、この一帯は完全に放棄されたかのようだった。野良犬も、略奪者も見当たらなかった。カトリーナは、この荒廃した光景の隣ではまだましに見えた。
かつて生命に満ちていた歩道で、彼女は立ち止まり、ただつぶやいた。「悲しいわね…」二人は闇に包まれていた。夜がすべてを支配していた。
「さあ、ジェナ。」
マイクがそう促した。彼らは手を繋いだまま歩き続けた。二人の魂が、この敵対的な世界に立ち向かっていた。