肉切り包丁は時空を超えて
僕が心音ちゃんと結婚したのは心音ちゃんが高校を卒業した翌日。
あの日から20年、心音ちゃんの美貌とプロポーションは10代の頃から変わって無い。
だから彼女に不満など微塵も無いのだけど、心配な事がある。
数年前から心音ちゃんは小説を書き始めた。
可也有名な小説サイトに登録して小説を書き始めたのだけど、その頃から心音ちゃんが闇に包まれたように感じる時が時たまあるのだ。
パソコンで小説を書いていると思ったらボーと虚空を見つめ、ブツブツと独り言を呟いていたりする。
最初は小説の構成やセリフを考えてるのかな? って思ったんだけど、呟きを聞くとそうじゃ無いって気が付かされた。
ブツブツとこう呟いていたんだ。
「今、なんつった? コラ! バ○アだと? テメェ、ぶっ殺すぞ」
僕の可愛い心音ちゃんが、心音ちゃんにはそぐわない言葉を呟いていた。
あと、枕元に肉切り包丁が置かれている。
「何でこんな物騒な物を枕元に置いておくの?」って聞いたら、防犯の為って返事が返ってきたけど、返事を返した時の心音ちゃんの目が怪しく光っていたのを僕は見逃さなかった。
でも、心音ちゃんにベタ惚れの僕は、そう言われたら何も言い返せない。
そして今日、僕の隣で寝ていた心音ちゃんが突然上半身を起こすと肉切り包丁を掴み、「そこだ!」と言って壁に向けて肉切り包丁を投げる。
「え?」
壁に向けて投げられた肉切り包丁が壁の手前で忽然と消えた。
心音ちゃんは肉切り包丁を投げつけた壁とは逆側の壁の方へ手を伸ばし、逆側の壁の手前に忽然と現れ飛んできた肉切り包丁を掴む。
そして一言呟く。
「また、つまらぬ物を切ってしまった」
え? またって言った? つまらぬ物って何?
その事を質問しようと心音ちゃんに声を掛ける。
「つまらぬ物って何?」
「貴方が心配するような事じゃないわ、肉切り包丁を投げたお陰で胸のモヤモヤが晴れたから寝ましょ」
そう言って心音ちゃんは僕の口を封じるように僕にキスをすると、布団に潜り込んだ。
【アフォの祭典 主催者コロン様からの頂き物】
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2人の世界とは違う平行世界。
マンションの一室で男がパソコンに文字を打ち込みながら独り言を呟いている。
「此の女、BBAって言うと激怒するから違う言葉考えなくちゃならないんだよな、まったくBBAはB……」
男が不穏な言葉を呟いている途中、男の背後の虚空から突然肉切り包丁が現れ、男の首をチョンパした。
男の頭は首から転げ落ちパソコンの前に鎮座する。
鎮座した頭は、首から上が無くなった己を口をポカーンと開けて眺めるのであった。
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また違う平行世界。
無数の蝿が部屋の中を飛び回っている。
床には腐敗した、切り離された頭と身体が転がっていた。