第55話 【ノア、スローライフに馴染みすぎて“記録放棄”の危機!?】
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アルシェリアの夏、昼下がり。
蝉の鳴き声も、風鈴の音も、どこかのどかに響く村の片隅。
縁側には、麦茶とスイカ、そして、、、
「……ふあぁぁぁ~……今日も、平和ですねぇ……」
ぐでん、と日傘を差したノアが寝転んでいた。
手元の記録帳はパタリと閉じられ、足元では猫のミケがごろごろ。
あれほど几帳面だった彼女の手帳には、、
ここ数日の空白が続いていた。
「……昨日も、特に事件は起きず……平和で……平和で……今日も平和で、平和で……」
コクリ、コクリ。
「寝てるっ!!」
バンッと障子が開き、ミルが仁王立ちで登場。
「ノア!あなた観測者でしょう!?観測しなさい!!」
「……むにゃ、むにゃ、、観測ってなんでしたっけ……?」
「うぎゃぁぁぁ!もう末期ですねこれは!!」
◇ ◇ ◇
そのころ、レオルとルーナは畑で作業中。
「えっ?ノアが記録放棄してるって?」
「あぁ、ミルが“職務怠慢もいいとこ!”って大騒ぎしてたわよ」
レオルは苦笑い。
「まぁ、これだけ平和だと、書くことなくなってくるよなぁ……」
「いっそ、記録すべき出来事を“こちらから用意”するという手もあるわ…事件でも起こすか??」
「おいルーナ、それはちょっと物騒な発想だぞ?」
「“平和すぎる日々に刺激”という項目も、立派な観測対象だと思うんだけどなぁ…」
「いやいや!もっともらしく言うなよ!」
◇ ◇ ◇
一方その頃。
ノアは縁側で、ミルの説教を聞き流していた。
「あなたねぇ、記録者たる者が“記録は明日でいいや〜”なんて!
このままだと、観測者協会に“職務怠慢・スローライフ堕ち”って報告しますからね!」
「えぇ〜〜、そんなに“ピキ”んないでくださいよ〜、
でもミル……あたしもう、この村に骨を埋めてもいいって思ってるんですよぉ〜……」
「骨を埋めてもいいですけど、記録しないのはだめです!あなたは記録の世界から来た“特異観測者”なんですから!」
「え〜〜、じゃあいっそ観測記録を“詩”にしていいですか〜?
『今日もまた、猫がかわいい。猫を愛でたら世界が平和。これがすべてです』みたいな……」
「このっ!要約しすぎです!!」
ミルのチョップがノアの頭にゴチンと当たった。
そこへ、バンザイがひょっこり現れた。
「よう、騒がしいな。なんだ、ノアがサボってるのか?」
「サボってるんじゃありません、堕落してるんです」
「ふぅん。……じゃあ、ちょいと刺激でも与えるか」
「刺激?」ミルが眉をひそめた。
バンザイは笑って、「あははっ“記録者の危機”ってやつだな!」と笑って手を振った。
◇ ◇ ◇
その日、村に突如として現れたのは、、、
ドドン!
「超巨大フワフワスライム(おやつ味)!!」
「ちょっとぉ!?なにこれ!?なんで私の昼寝の時間に現れるんですかぁ!?」
「よっしゃあ☆ほらノア!これは記録のチャンスよ!しっかり観測して!」
「えぇ〜〜、スライムに感想文つけるのぉ〜〜?」
「当然だよ!しかもこれは“村を揺るがす事件”ですよ!!」
「……わかりました!ではっ!」
ノアはようやく手帳を広げ、ペンを走らせた。
『突如現れたフワフワスライム。バニラ味らしい。むしろおいしそう。
村人たちが“おかわり”を要求し、討伐という名のおやつタイムが始まった』
「これでどうですかー!」
「観測記録というかさ、、食レポだよね!?」
◇ ◇ ◇
夕方。事件(?)も収まり、再び縁側。
ノアはミルにお茶を淹れながら微笑んだ。
「……やっぱり、わたし、この村好きなんですよね。
でも、それをちゃんと“記録に残す”のも大事だなぁって、今日思いました」
「……ちゃんと記録できるなら、どうぞご自由に居てもらって構いませんよ」
「ふふ、やった~。じゃあ記録します。
“幸せな村の日常”ってね」
ノアは手帳を広げ、さらさらとペンを走らせる。
【今日もまた、平和で、優しくて、眠くて。
でも、、それを誰かに伝えたいって思える。
だから私は、記録者であることを、やめない】
ミルがそれをそっと一瞥すると、、
「ふふっ☆とってもいいです」
空に夕焼けが広がっていた。
スローライフに染まりながらも、、
彼女はまた一歩、“記録者”としての意味を深めていく。
続