第48話 【ファルとノアと、静かな午後】
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アルシェリアの昼下がり。
穏やかな陽差しが村を包み、どこからか子どもたちの笑い声が聞こえる。
畑では小さな作物が風に揺れ、花壇では蝶が舞う、、そんな、静かな午後。
そんな日向のベンチに、ふたつの影が並んでいた。
ひとりは、記録者ノア。ピンク色の髪が光を反射して、まるで桜の花びらのよう。
もうひとりは、元拒絶者、現観測者のファル。
無表情で背筋を伸ばしたまま、ぎこちなく座っている。
「……ねぇ、ファル?、、今、なにを考えてました?」
「んー?“ベンチに長時間座ると尻が平らになる”という情報が脳内に浮かんでるよ」
「……あははっ、なんですかそれ。ちょっと面白い」
「事実に基づいて言ってるんだけどなぁ〜」
「ふふ、それでも面白いですよ。そういうところ、好きです」
「んっ?……“好き”?」
「はい、“お友達として”」
ファルは首を傾げた。
「“友達”という概念を、僕はまだ完全には理解していないな」
「うふふ、じゃあ、一緒に理解していきましょうか?」
ノアは、手帳を閉じて微笑んだ。
◇ ◇ ◇
ノアはゆっくりと立ち上がり、魔法で小さなテーブルとティーセットを呼び出す。
ラベンダーとカモミールの香りが広がった。
「ファル、こういうの飲んだことあります?」
「えー!あるよハーブティーでしょ?過去の経験では、アルカリ性の液体として分類していたけど…」
「えっ、なんか化学っぽい……!」
「でも、今それは“心を落ち着かせる飲み物”と再分類してるけどね〜☆」
ノアはくすくすと笑った。
「だんだん、ファルも生物らしくなってきてますね~」
ファルは不思議そうにノアを見つめた。
「ノア、、“自分らしい”とは、どういう意味なのかなぁ??」
「うーん、そうですねぇ……。何かを“自分の言葉で考えたり感じたりできる”ってこと、かも?」
「あはは……じゃあ!僕はまだまだ発展途上だね☆」
「うふふ、そのぶん、伸びしろがありますよ。将来が楽しみですね♪」
ふたりの間に、温かな風が吹いた。
◇ ◇ ◇
しばらく、静かにふたりでお茶を飲んでいると、、
ノアがふと思い出したように言う。
「ファルって、最近“好きなこと”とかできました?」
「好きかぁ……?“焼きたてのパンの匂い”は、心拍数が安定するような気がするけど…」
「わぁ!それは立派な“好きなもの”ですよ!」
「あと……ディアボラの失敗を見ると、少しだけ、くすぐったい感情になるね〜」
「それ、“笑う”ってやつかもです」
「……あれが“笑い”? 僕はただ、口元が緩んでいるだけだと思うんだけどなぁ」
「それで充分、笑ってるんですよ」
ノアは、そっとファルの手に触れた。
「ほら、あったかいですね」
「……」
ファルは、じっとその手を見つめる。
「ノア、、僕は、拒絶の兵器として作られたんだよ。
あたたかさ”なんて不要な設計だよ…」
「でも、ここには、アルシェリアには必要です。
あたたかさも、優しさも、あなた自身も」
「あははっ!……それじゃあ、やっぱり僕は“ここ”にいてもいいんだね☆」
「もちろん!」
ファルの目が、ほんの少しだけ潤んだように見えたのは、光の加減だけではなかった。
◇ ◇ ◇
ノアが鞄から、木製の箱を取り出した。
「実は今日、ファルに渡したいものがあったんです」
「僕に?」
中には、小さな花のブローチが入っていた。
精巧に作られた、アルシェリアで咲く“白星花、しらほしそう”の形。
「これは……?」
「“自分の居場所を見つけた人”に贈られるんですよ。 この村の最近流行ってる、ちょっとした習慣です」
「僕は……ちゃんとした“居場所”を、見つけたのかな?」
「はい。ファルは、ここにいます。だから」
ノアは、そっとそのブローチをファルの胸元につけた。
ファルは、胸に手を当てる。
「ふふっ!……温かいね☆」
ノアはにっこり笑った。
「ふふ、よかった♪」
◇ ◇ ◇
そのころ、遠くからディアボラの大声が響いてきた。
「ノア~~!ファル~~!おやつにあたしの胸の形の“魔界爆乳ぷりん”できたから食べに来なさ~~い!!」
ノアは笑った。
「あっ、ちょうど甘いものが欲しいタイミング!」
ファルは静かに立ち上がる。
「……“魔界爆乳”という語が、なんだか不安だけど……ノアが一緒なら、みんなのところに行けそうかな」
「うふふ、じゃあ行きましょう
“笑う門にはプリンが来る”ですよ」
ファルは、首を傾げて笑い歩き出す。
「あははっ!それは……また、記録対象になる言葉ってやつだね〜☆」
「はい。名言、言っちゃいました。記録しておきます」
ふたりは並んで、にぎやかな食堂へ向かって歩いていった。
◇ ◇ ◇
ノアはこっそり記録ノートを開いて、そっと書き込む。
《“ファル、心のあたたかさを知る日”》
《花言葉•あなたに居場所を》
そして、ページの隅に、もうひとつ。
《“ふたりの距離、現在•45cm”、、、
縮まる予感あり》
その横でミルが静かに本を閉じ、微笑む。
「なぁ〜に、イチャイチャしてんだか☆
でも……いずれ、ファルもさ“孤独な兵器”ではなく、“誰かと生きる人”になるんだろうねぇ…」
アルシェリアの空は、今日もやさしい風が吹いていた。
続