第43話【ミルとノアの“図書館争奪戦”!?静けさを巡る女の戦い】
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、、朝のアルシェリア。
澄んだ空気と共に、村の中心にある【叡智の図書館】が、ゆるやかにその扉を開いた。
ギィィィ……
「ふふん。今日も一番乗り〜、っと♪」
扉を押し開け、軽やかに入ってきたのは、獣耳を揺らす賢族のモフモフ少女、、ミル。
村の知識担当であり、アルシェリアの博識番長とでも言うべき存在だ。
手に抱えているのは、分厚い魔導書。
彼女が近頃ハマっているのは、【失われた古代術式】の研究。古代魔法と現代魔法の礎となる理論体系を、いちから紐解くという壮大なプロジェクトに夢中なのだ。
「さて、今日は古代アニマル語の“共鳴印”について調べてみようかな……♪」
ミルは図書館の奥、いつもの窓際の席に座ると、魔導式のランプに火を灯し、静かにページをめくった。
パラリ……。
パラリ……。
、、、その至福の時間は、わずか2ページで終わりを告げた。
バァン!!
「ふぅ、本日も記録更新、開館から27秒で入館完了です」
吹き飛ぶような勢いで飛び込んできたのは、、
記録者•ノア。
ピンク色の長髪が空気を切り裂き、右手にはいつもの魔導ノート、左手には謎の機械装置。
満面の笑顔で、彼女はミルの静寂をぶち壊した。
「……はっ?はぁぁぁぁ??」
「おはようございます。ミル!今日もいい研究日和ですね。さて、今日は図書館の空間構造をちょっと拝借して、“次元の歪み”を再現してしまおうかと思います…!」
「……はぁぁぁ!? ちょ、ちょっと待ってノア!?
図書館ってさ静かに本を読む場所ですよね!?
そもそも空間構造をいじるって何をする気ですか!?」
「ミル…安心して。ちゃんと事前に“可能性の道筋”を20パターン書き出してきましたから!」
「んー?それ、一つも安心材料になってませんからね!?」
◇ ◇ ◇
【叡智の図書館】
、、それは、知識と静寂の殿堂。
だが今、その平穏は記録者ノアの“研究魂”により、戦場と化していた。
ミルは立ち上がり、ノアの腕を引っ張って入口まで戻そうとする。
「ノア!今日はどうしても集中したい日なんです!せめて午後からに、、、」
「午後?ダメです、ダメです。私、午前中の方がひらめきが来るタイプなんですよ」
「ちょっ!もうっ、聞いてませんよ!! それに“図書館で次元をいじくりながら実験する”って、正気の沙汰じゃないです!」
「いいえ!ミルは頭いいけど、ちょっと堅すぎます。
もっとこう、ふにゃふにゃっ〜っと、脳みそ柔らかくしないと新しく発見できないこともありますよ!」
「あーもうっ!私は“ふにゃふにゃ”じゃなくて“しっかり”を選びます!!」
◇ ◇ ◇
やがて、ドタバタの騒ぎを聞きつけて、ひとりの青年が図書館にやってくる。
「おーい、ふたりとも。朝っぱらからなに揉めてんだ?」
現れたのは、アルシェリアの創造主、、
レオルだ。
「レオル!!ちょっと聞いてよ!!ノアがまた図書館を実験場にしようとしてて、、、!」
「待ってレオル!私の話も聞いてほしい!ミルったら、“叡智”って言葉にこだわりすぎてて、ちょっと柔軟性がなさすぎます!」
「うーん……どっちも分かる気がするなぁ……」
レオルは顎に手を当て、少し考えてから、にっこりと微笑んだ。
「じゃあさ、今日は図書館を“二部制”にしようよ。
午前中はミルの静寂タイム、午後はノアの自由研究タイム。これでどうだ?」
「ううう……妥協案ですけど……レオルの提案なら、受け入れざる得ないんだけどさ、、」
「私の次元の研究は午前のが捗るのですか、、レオルの提案ならば仕方ないですね、、」
レオルは微笑み、、
「ふたりとも納得してくれて、ありがとう!」
こうしてまさかの“タイムシェア図書館”制度が誕生したのだった。
◇ ◇ ◇
、、、午後。
ミルの静かな研究時間が終わると、図書館内は一変する。
ノアが何やら小型スピーカーを持ち込み、軽快な音楽を流しながら、浮遊魔導球を展開。何やら空中に方陣を描いている。
「よしよし、次元座標、特異点99……。
ふふふ、今日は“逆位相空間”を可視化してみようっと!」
「ノアっ!? それ、絶対図書館でやっちゃダメなやつ!!」
遠くから、ミルの悲鳴が響く。
「大丈夫です。村外れに転送結界貼ってますし、エネルギー源も自家製です」
「そういう問題じゃありませんっ!!」
◇ ◇ ◇
一方、図書館の外では、、、
レオルが軒下のベンチに腰かけて、静かにココアをすすっていた。
隣には、ふきんを肩にかけたバンザイが座り、村人たちの朝食の片付けを終えていた。
「あははっ!村長!なんだかにぎやかになってきたな☆」
「あははっ!まっ、図書館がドッカンいかない限り、平和なもんだろ!」
ふたりは並んで笑い空を見上げる。
澄んだ青空。吹き抜ける風。遠くで聞こえる笑い声。
レオルはふっと目を細めて、呟いた。
「なぁ、バンザイ?……こんな日常が、また戻ってきたんだな」
「おうよ。ありがてぇことだよな!これも全部、“創造主レオル”様々ってな!」
「ふふっ!俺一人じゃ無理だって……
でも、ただいまアルシェリアって感じだよ!」
レオルが呟くと、夕暮れの光が図書館の窓ガラスを金色に染め上げる。
今日もまた、平和で賑やかな一日が、そっとページを閉じようとしていた。
続