第37話 【星の下、焚き火と祝杯】
戦いは終わった。
魔界の厄災も、過去の因縁も、未来の残滓さえ、、
いまはただ、静かに夜に溶けていた。
アルシェリアの広場に灯る焚き火と、無数の提灯の明かり。
レオルの創造とバンザイが用意した宴会場には、笑い声と香ばしい料理の匂いが立ち込めていた。
「……ねぇレオル。夢みたいだね。
またこんなにいろんな人が、こうやって集まってるのって☆」
ミルが微笑みながら、静かに言った。
横に座るレオルは、魔界の火酒をひと口。
「これは夢じゃないさ。、、俺たちで、俺たちの力で現実に戻したんだ」
その言葉に、ミルの耳がピクリと揺れ、にっこりと微笑んだ。
魔族の一団が到着したのは、ちょうどその頃だった。
「あーはっはっは 祝勝会だよ〜♡ 魔族も人間も関係なしに呑んで食って踊りなさーい!!」
ディアボラがいつものテンションで魔族たちを迎え入れる。
グロリアは鼻で笑いながらも、酒瓶を片手にどっしり座る。
「……こ、こういうの、悪くない……私ディア姉の隣♡」
リリムがぽつりと呟き、そっとディアボラの横に座った。
そしてイシュ=ヴァルトは皆を見渡し、そして一礼した。
「レオル……改めて、、魔界や世界を救ってくれたこと感謝申し上げる!」
「あははっ!なんだよあらたまっちゃって!礼なんていらないさ。魔族にも世界中にも、笑っててほしいからな!それに俺ひとりじゃ勝ててないって!」
リリムはもじもじとしながら「レオ兄…」と小さく頷いた。
その瞳は、ほんのり潤んでいた。
そこに、湯気を立てながら運ばれる、豪華な料理の数々。
「おらおらおら!!食え食えぇぇい! 猪とトリュフのローストに、海の幸盛り合わせだぁぁぁ!!
残したら…次の食材は“己”だと思ぇぇぇぇい!!」
バンザイが誇らしげに腕を振るい、次々と絶品料理が並べられていく。
「おい、パンダ!甘いお菓子は?」
「またなのルーナ!?あっちにあったよ☆」
セラがツッコミを入れつつ、デザートを指差し、シャンパングラスをちびちび飲む。
ルーナはすでにケーキに手を伸ばし、影に沈んで行った。
「こういうのも、記録しとかなきゃね……」
ノアも珍しく杯をあけ、頬を少しだけ赤く染めていた。
ファルは壁の陰に隠れながらも、スモークチーズをむしゃむしゃ食べている。
「こ、これは“監視”であってな、本当は僕は拒絶したいんだけど…たまたまその……くっ……うまい……ッ!!」
宴は大盛況で夜も更けた頃。
王都から馬を走らせて、ある女性が現れた。
「みんな〜〜!遅れてごめんね〜!」
「あっ!エルフィナだ〜☆!」
セラとミルが同時に立ち上がる。
赤いドレスに身を包んだエルフィナが、満面の笑みで皆を見渡した。
「呼んでくれてありがと☆なんだか危なかったんですって??私?私の方は王都の再建、順調よ。でも、やっぱり私の心は、ここにあるの」
みんながエルフィナを囲み、賑やかに話しをする。
レオルがそっと杯を差し出す。
「おかえり!我が家へ!」
「ありがとう、レオル!」
そしてエルフィナは杯を高く掲げた。
「この平和に、そして、、この素晴らしい“家族”に、感謝を!!」
わっと歓声が上がる。乾杯の声が夜空へと昇っていく。
◇ ◇ ◇
そして、宴のあとは恒例の温泉へ。
レオルの創造した、星を見上げる絶景の露天風呂。
湯けむりが立ちのぼり、皆が肩を並べていた。
「レオルぅ~! 温泉最高ぅ~♡!」
ディアボラがぐでんぐでんになりながら、レオルを抱き寄せ胸に沈め、リリムの頭をなでなで。
「頼む…ディアボラ…息だけさせて…くれ……」
「あははっ!……ディア姉、レオ兄死んじゃうよ!
んー!温泉あったかい……」
リリムがぽつりと言う。
隣に座ったイシュも、笑いながら肩をほぐしていた。
「まさか……こんな日がまた来るとはな。
魔族も、人も、共に湯に浸かり幸せを分かち合うとは…」
「“共に笑う”未来を望んで、俺は創ったからな」
レオルがディアボラの胸から逃げ出し、夜空を見上げながら、湯に身体を沈める。
「ねぇ、レオル。これからも、こんな風に生きていこうね」
ミルがそう言って、隣に寄り添う。
セラも、ルーナも、ノアも、ファルも、バンザイも、そしてエルフィナも。
皆が、ここにいる。
皆が、笑っている。
レオルは満天の星を見上げながら、ふと意地悪そうに呟いた。
「……さてさて。それじゃ、そろそろ次の冒険に向かうか?みんな?」
それを聞くと驚いた顔をして、みんな声を揃えて、、、
「「「まだまだ温泉にいたーーーーい!!」」」
と笑顔で大笑いして言った。
仲間たちの笑顔と、焚き火の灯り。
温泉の湯気と、祝福のような星空が、、
その夜を、そっと包み込んでいた。
続