第12話 【陽だまりの午後、魔族の少女】
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日が差し込むアルシェリアの村。
新芽の匂いが風に運ばれ、鳥たちが小さな囁きを交わす。
「んん~……ふぁぁぁあ……」
その音に包まれながら、リリムは寝ぼけ眼でディアボラの胸の上から起き上がった。
リリムは、昼寝をしていたのだ。胸枕で。ごく自然に。
「おはよう、リリム。寝ぼけ顔も可愛いわよ~♡」
「うぅ……ディア姉、また勝手に胸に……」
「えっ〜?リリムの方から乗ってきたんだけど♡?」
「……うぅ、そうだったかも……」
ぷいと顔を逸らすリリムだったが、耳の先がほんのり赤くなっていた。
かつて“魔族の女将軍イシュ=ヴァルト”の娘として、戦いの中で育った少女。
だが、今の彼女はその肩書きを脱ぎ捨て、ただの“リリム”として、アルシェリアの村で暮らしていた。
そして、よくディアボラに甘えていた。
◇ ◇ ◇
午後、、、
村の広場では、子どもたちと一緒にリリムが鬼ごっこをしていた。
「リリム姉ちゃーん!こっちこっち!」
「ふふっ、待ってなさい!すぐ捕まえちゃうんだからっ☆“[魔族式]•《影跳びステップ》”、、えいっ!」
リリムはかつての戦闘術を、今では“遊び”に使っていた。
影の気配を使ってひょいっと木の後ろに現れ、子どもたちを驚かせる。
「ずるーい!ワープ使ったー!」
「あははっ!これは魔法じゃないよ。技術なのです!」
「うわーん!ズル姉!もう鬼やめるー!」
「あはは!よーしよし、じゃあ次はみんなで“影かくれんぼ”しようか?」
子どもたちの笑い声が、青空に溶けていく。
かつては冷たい瞳で戦場を見ていたリリムが、今では一番多く“笑顔”を見せていた。
◇ ◇ ◇
夕方。
リリムはディアボラと一緒に、キッチンの隅で夕食の準備をしていた。
「ほら、この薬草、刻むときはこう。小指を曲げて……って、もう全部粉々にしてるじゃないの!」
「だって、火力で飛ばすほうが早いもん……」
「ほらリリム、それじゃ味が台無しになるの。
はい、もう一回。優しく、刻むの♡」
「……ディア姉、こういうの得意だよね」
「まぁね~。料理と恋愛と、お色気と~♡
でも、あたしもまだまだ失敗ばっかりしちやうけどね」
「ちょ、お色気はいらないから!ディア姉もまだまだ失敗しちゃうことあるんだね〜」
「あははっ!バンザイに怒られてばっかりよ」
二人のやり取りは、どこか母娘のようでもあり、姉妹のようでもあった。
「ねえ、ディア姉」
「ん?」
「私……ここで、ちゃんと“生きてる”気がするんだ」
ディアボラが、ふっと表情を和らげた。
「うん、リリムはね、、もう十分、“ここにいる”。
あたしたちの仲間だよ♡」
「うんっ!」
リリムは、満面の笑みで素直にうなずいた。
そう、この平穏が、何よりも大切な“証”だった。
◇ ◇ ◇
夜、、、
星の下、焚き火を囲んで仲間たちが集まる。
「おーい!リリム?この前の影かくれんぼ、リリムのせいで子どもたち全員泣いたらしいな~!あははっ!」
「う……バンザイ、、ちゃん反省してるよ……」
「あははっ!でもさ!“戦闘訓練”としては、かなり効果的だったらしいじゃないか」
レオルが笑ってフォローを入れる。
「……うん、そうやって、みんなが笑ってくれるなら、私……もっと頑張る」
「ん〜☆リリムちゃん、なにを頑張るつもりなのかなぁ☆?」
ミルが尋ねると、リリムはちょっとだけ照れて言った。
「“戦わないでいられる技”とか、“誰かを安心させる方法”とか……そういうの」
「リリム、変わったよね☆」
「……ううん、私、本当は……こうなりたかっただけなのかも」
夜風が吹く中、リリムは焚き火の明かりを見つめていた。
かつては母の命令でしか動かなかった彼女が、今では自分の“意思”で笑い、怒り、泣き、喜ぶ。
ディアボラが、彼女の頭を軽くなでた。
「うんうん♡よく頑張ったね、リリム」
「うん」
その手のぬくもりが、リリムの頬を伝って、胸の奥まで染み込んでいった。
かつての“魔族の娘”は、今ではアルシェリアの“心のひとつ”になっていた。
続