第11話 【拒絶者と時計仕掛けの日々】
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アルシェリアの空に、今日も変わらず穏やかな風が吹いていた。
村の塔のてっぺんで、ファルは静かに時の流れを見守っていた。
、、かつて《拒絶者》と呼ばれた少年は、誰にも触れられない観測の呪いを背負っていた。
世界を記録するために、生まれながらにして“傍観者”に選ばれた。
でも今、彼はこの村で、“生きる”を選んでいる。
「……よし、今日の定時観測は終了。
誤差なし…っと!」
パチリと懐中時計を閉じると、彼は小さく伸びをして立ち上がった。
足元では、ノアが作ってくれた観測式がゆっくりと回転している。
「観測対象•晴れ、風速0.9、気温22.7。
住人の幸福度、、上昇傾向」
観測紙に淡々と記しながらも、口元には自然と笑みが浮かぶ。
この村に来てから、ファルの世界は大きく変わった。
拒絶するばかりだった彼の心に、“他人と繋がる時間”が少しずつ増えていったのだ。
◇ ◇ ◇
その日、ファルは村の広場で開かれていた「機械式おもちゃ作り教室」に顔を出した。
講師は彼自身。子どもたちからの熱いリクエストによるものだった。
「ファルせんせー、またあの“ピョコピョコ跳ねるやつ”作りたい!」
「おれ、“音鳴る鳥さん”がいい!」
「ははは!順番にね。今日はまず、“時限バネ式うさぎ”から作ろうか☆」
ファルは丁寧に手を動かしながら、子どもたちに組み立て方を教えていく。
ファルの説明はいつも簡潔で、無駄がない。
でも、その合間にふと見せる“微笑み”に、子どもたちはとても安心するのだった。
、、《拒絶者》が誰かと繋がるなんて、かつてのファルには想像もつかなかった。
だが今では、村の誰もが彼の隣に自然と座る。
「ねぇ。ファルちゃん♡」
ふいに声をかけてきたのは、ディアボラだった。
「今夜、また“星読み会”しない? 今日の空、すっごくきれいよ?」
「……いいね。最近、空の座標が安定してきてるしね☆」
二人で並んで夜空を見上げるのは、何度目になるだろう。
観測と衝動。真逆の役割を持つ二人の時間は、不思議としっくり来ていた。
「ねえ、ファル、、」
ディアボラが少し真剣な声で言った。
「この村が出来てから、何か……変わった?」
ファルはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと答えた。
「んー?“観測値”としてなら、変化は顕著だったよ。
人間関係の接続数が増えたし、感情の振幅も増大した」
「ん〜、むずかしっ!……それってつまりどんな感情♡?」
「あははっ!……つまり、僕は……“生きてる”ってことだと思うよ」
ディアボラは満足そうに微笑んだ。
「うん♡ファルちゃん、今すごくいい顔してるよ♡」
◇ ◇ ◇
翌朝、ファルは早くから動き出していた。
手にしていたのは、新しく設計した“魔導時計”。
誰に頼まれたわけでもない。
ただ、村の人々がもっと快適に暮らせるように、、
そんな想いで作っていた。
「正確な時間があれば、朝市の準備も、畑仕事も、ずっとスムーズになる」
淡々と語りながら、村の広場の一角に小さな時計塔を設置していく。
その横で、リリムが手伝っていた。
「リリム、ネジはそっちの小さい方」
「うん……これであってる、かな?」
「うん、完璧☆」
無表情ながら彼の言葉には、どこか温かさがあった。
リリムはそれを敏感に察知して、微笑む。
「ファル、優しいね」
「えっ?いや、僕は……そういう“設計”じゃないけど…」
「ううん、ちゃんと伝わってるよ。心、あるよ」
ファルは目を見開き、そしてほんの少しだけ顔を伏せた。
「……ありがとう。そう言われたの、初めてかもしれない」
その夜、広場の時計塔が静かに時を刻み始めた。
村人たちは自然と集まり、歓声を上げる。
「おぉ~!すごいな、これ!」
「これで寝坊しなくて済む!」
「ファルくん、ありがとー!」
ファルは戸惑いながらも、少しだけ口元をほころばせた。
照れくさそうに、、でも、嬉しそうに。
「時間って……誰かと共有できるものだったんだな」
かつて、“孤独な記録者”だった少年。
今では、世界の“ぬくもり”を記録し、その中心に立っていた。
拒絶ではなく、受け入れる力。
それを知ったファルは、今、確かにこの世界の一部だった。
続