第7話 【風の矢、王都より来たる】
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王都での執政を終え、久しぶりにアルシェリアの地を踏んだエルフィナは、胸いっぱいに澄んだ空気を吸い込んだ。
、、ここには、嘘がない。
、、ここには、戦いも命令もない。
ただ、穏やかな時間が流れている。
「はぁ〜、やっぱりここの風、好きだな……」
風精の加護を受けたエルフィナの髪が、そよそよと踊る。
彼女は小さな荷車を馬で引いて村の中央広場へと向かっていた。
「おー、エルフィナ嬢! 王都の女王様が、えらい庶民的に登場してくれたなぁ!」
「やかましいわね、バンザイ。こっちは王都でひたすら執務だったのよ。よ〜ぉぉぉやくの休暇なの」
「あはは、忙しそうだな! そんなら今日は“女王様の命令”で宴だな!鍋作るからゆっくりしてけよ☆」
「うぅー☆久々のバンザイ鍋!!
えぇ!お言葉に甘えてゆっくりさせてもらいます☆」
そんな会話をしていると、村の仲間たちが集まり、エルフィナの再訪を歓迎する。
彼女の荷車には、王都から持ち帰った贈り物が詰まっていた。
手作りの風鈴、香り高いお茶葉、そして、、、
「これ、子どもたちにあげたくて」
そう言ってエルフィナが取り出したのは、彼女が自ら作った“風の矢”を模した木製のおもちゃ。
リリムや村の子どもたちが目を輝かせる。
「すごい! 本当に矢みたい!」
「当たっても痛くないし、魔力を通すと風が鳴るのよ。音で遊べるおもちゃなの」
「エルフィナお姉ちゃん、すごい!」
彼女はかつて戦場で数多の矢を放った。
だが、今は「傷つけない矢」を、誰かのために放っている。
それだけで、心が温かくなった。
◇ ◇ ◇
そのあと、、
村では小さな“風祭り”が開かれた。
エルフィナが王都で導入した風の技術を、村でも試せるように設計した日でもあった。
祭りといっても派手なものではない。
風車がくるくる回り、風鈴が鳴り、木造の小屋に灯る明かりの揺れが、どこか懐かしさを誘う。
「エルフィナ、王都の暮らし……大変?」
焚き火のそばでセラが尋ねた。
「うん、色んなことを決めなきゃいけなくってね。
税制、道路整備、魔法障壁の改修、議会との調整……」
「うわぁ〜……想像するだけで頭痛くなりそう。
昔の戦いの方が暴れてるだけだからまだ楽ね〜」
「でしょ〜。でも、ね。みんなと過ごした時間が、私の“判断基準”になってるの」
「え?」
「レオルの“まっすぐさ”、ミルの“知識と想い”、セラの“やさしさ”……それを思い出すだけで、王都の騒がしさの中でも、私は迷わずにすむんだ」
その言葉に、セラが微笑む。
「……それ、伝えてあげてよ。レオルにも」
「ふふ、あとでこっそりね」
「おーい!お嬢さん方!鍋出来たからみんなで食べるぞー!」
「「はーい」」
村のみんなでのエルフィナ歓迎の宴が始まった。
◇ ◇ ◇
そして、夜も更けてきた頃、、、
村の風見塔の上で、エルフィナは一人、星を見上げていた。
そっと構えた弓に、矢はつがえられていない。
だが、彼女は目を閉じ、風に語りかけるように呟く。
「私は、もう“奪うための矢”は放たない。
これからは、“願いを届ける矢”を放つの」
その時、階段を上がってきたレオルがそっと声をかけた。
「おっ!ここにいたんだな。
エルフィナ、、風、読めてる?」
「えぇ、読めてるわよ。村の風は、穏やかで、あたたかい」
「あはは……それが、エルフィナ自身の風だからだろうな」
エルフィナは少し頬を赤らめて、微笑む。
「ねぇ、レオル。この村で暮らしていると、、
ほんとに“幸せ”ってやつがあるんだって、わかるの」
「あぁ!そうだな、、俺も最近よく思うよ。
何も起きない一日って、すっごく贅沢なんだな〜って」
「……王都にも、そんな日が増えるといいな!
みんなエルフィナのこと待ってるからな!」
「うん!」
どこからか優しい風が吹く。
エルフィナの長い髪がそよぎ、彼女の微笑みが、星空に溶けていった。
静かで、あたたかい時間。
矢を手放した戦姫は、今ようやく“風の行き先”を見つけたのだった。
続