第6話 【影の花咲く、静寂の午後】
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アルシェリアの昼下がり。
陽光に包まれた村の片隅、静かな影が揺れていた。
その影の中心で、ルーナは淡く微笑んでいた。
彼女の周囲には、まるで空間ごと柔らかく染め上げるように、黒い花が咲いていた。
「ふふっ……ようやく、咲いた」
ルーナの指先に絡みつく影は、魔力によって形作られた“影の花”。
それは彼女がこの世界で初めて、、
自分の力で“誰かのために育てた”ものだった。
、、きっかけは、一週間前。
「おいルーナ、影の魔力って植物にも使えたりするのか?」
「んっ?何言ってんだ?このパンダ野郎!」
「いや、ほら!その花」
きっかけをくれたのは、バンザイだった。
畑仕事の手伝いに来ていたルーナが、日陰に蔓延る草花を何気なく撫でたとき、その花が光と影の両方を吸収して、咲いたのだ。
「へぇ、面白いな。影って、育てる側にも回れるんだな」
その時バンザイが笑って言ったのが、不思議と心に残った。
影はいつも、何かを覆い隠すものだと思っていた。
けれど、、影が…誰かを守る“傘”になれるなら。
それなら、自分のこの力は“贈り物”にもなるのかもしれない。
◇ ◇ ◇
それからの一週間、ルーナは畑から少し離れた森の縁に、小さな自分だけの「影の庭」を作り始めた。
目立たず、誰にも見つからず、けれど誰かが疲れたときにふと足を運べる場所。
黒い花たちは、光を必要とせず、静けさの中で息をしていた。
「ふぅ……こんなに静かだと、なんだか昔をおもいだしちゃうねぇ……」
ルーナは、かつての自分を思い出す。
影の中に生き、名前を与えられず、ただ任務だけをこなしていた日々。
孤独は痛みではなかった。ただ、何も感じないことに慣れていた。
それが“日常”だった。
でも、、今は違う。
名前がある。仲間がいる。微笑む理由がある。
「あっ、ルーナお姉ちゃん☆ここにいたんだ!」
影の花に水を与えていると、リリムの声が聞こえてきた。
魔族の少女は、すっかりルーナにも馴染んでいた。
「うわぁ☆また咲いたの? すごい! 前よりたくさん!」
「うん。リリムのおかげだよ」
「えっ、あたしの?」
ルーナは微笑みながら、小さなスコップを渡した。
「“お水をあげるとき、ありがとうって言うといいよ”って、教えてくれたでしょ」
「あっ……うん、それ、セラお姉ちゃんの真似っ子だったんだけど……えへへ」
リリムが照れたように笑う。
この村には、そういう“ぬくもり”がある。
それは影の中に生きてきたルーナにとって、ずっと夢のようだった。
◇ ◇ ◇
その夜、ルーナは珍しく村の広場に出ていた。
「珍しいな〜、お前さんが夜に広場に出てくるなんて」
バンザイが驚いた顔で声をかける。
「パンダうるさっ!たまには少し、喋りたくて…
いいでしょ!」
「んっ?どうした?なんかあったか?」
ルーナは、夜空を見上げながら答える。
「私は、これまで“命令”でしか動けなかった。
けれど、今は違う。“何をするか”を、選べるようになった。でも、、それが、少し……怖くてさ」
「あははっ!選ぶってのはな、怖いもんだよ。
けど、それ以上に面白いぞ?いいから鍋食え!」
「面白い、か……」
バンザイが鍋の蓋を開ける。
そこには、湯気の立つ野菜スープ。
「ルーナが育てた黒いニンジン、入れてみたんだ。
食ってみろよ☆」
「……黒い、ニンジン?私植えたか?」
「えっ?植えてないの?でも影の庭から収穫したんだよ。これが意外と甘くてな。ルーナ、すげぇもん作ったぜ」
ルーナは、一口すくって口に運んだ。
、、やさしい、味だった。
自分の力が、誰かの“明日”に役立った。
それが、ただうれしかった。
夜風が吹く。
影は長く伸び、空には静かな星がまたたく。
その中心で、ルーナは小さく微笑んだ。
「ふふ、明日は……“何を創ろう”かしら?」
その言葉は、まるで“祈り”のように夜に溶けていった。
続