第5話 【鍋と笑顔と、平和の証】
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朝日が昇ると同時に、村の中央広場から立ち上るのは、豪快な鉄鍋の湯気。
「よっしゃぁぁぁ!今日も良い湯気だな!」
腕まくりをしたバンザイが、巨大な木製しゃもじを器用に操りながら、ぐつぐつ煮立つ鍋をかき混ぜる。
その姿は、すっかり“村の料理番長”として板についていた。
彼が作る料理は、戦士の栄養でもあり、村の“元気の源”でもある。
「おはよ♪バンザイ、今朝のスープはなに?」
セラがにこにこと顔を出す。
「おう、今日は“マグマ根菜と月鶏の煮込みスープ”だ! 体の芯から温まるぜぇぇぇ!」
「名前からしてすごい……けど、絶対おいしいやつだね☆」
「ふふん、当然だろ。こちとら“元野良パンダ”で鍋職人だからな!」
バンザイは誇らしげに胸を張った、、
もっとも、その胸板はもはや熊に近く、鍋を担ぐ姿も完全に“猛獣”である。
◇ ◇ ◇
昼下がり。
村の裏手にある畑で、バンザイがエプロン姿で野菜の手入れをしていた。
「んー、こっちはそろそろ収穫か……お、ミルの好きなスパイス豆も実がついてきたな」
片手にメモ帳、もう片手に土付きのにんじん。
レオルの創造で生まれたこの畑は、気候も品種も自由自在、、だが、手を抜けばすぐに品質が落ちる。
バンザイはそれをよく理解していた。なぜなら彼自身、“手をかけられることの尊さ”を、かつての戦場で痛感していたから。
「昔は、腹を満たすのに“何でも食えりゃいい”って思ってた。でも、今は違う。
誰かのために作る飯ってのは……心を育てるんだよな〜」
そう呟きながら、彼は丁寧に作業を続けた。
料理は、ただの技術じゃない。
料理は、“気持ちを届ける手段”だ。
そのとき。
「バンザイーっ!」
遠くから元気な声が聞こえた。走ってきたのは、リリム。
「これ、届けにきたのっ! セラお姉ちゃんに教えてもらって……その、乾燥ハーブ!」
「おっ、これは助かる! お前、すっかり村の“台所組”だなぁ」
「えへへ……褒められた☆」
リリムは嬉しそうに笑ったあと、少しだけバンザイを見上げて尋ねた。
「ねぇ、バンザイって、どうしてお料理好きなの?」
「ん?」
彼はしばし考えてから、帽子を外して頭をかいた。
「んー?そうだな……最初はな、“誰かに褒められた”からかもな」
「……褒められた?」
「昔、まだ俺が戦ってばっかの時にな。たまたま手に入れた食材で久しぶりに子供たちに鍋を作ってやったんだ。そしたらさぁ、子供たちが涙流して食ってさ!」
バンザイは懐かしそうに空を見上げた。
「それ見て、“ああ、こんなに嬉しそうな顔させられるんだ”って思った。戦うより、ずっと、心があったかくなった」
「それで……?」
「そっからだよ。本当は鍋のほうが向いてるって気づいたのは」
リリムは、なんとなく納得した顔でうなずいた。
「じゃあ、バンザイって、“平和の料理人”なんだね!」
「おう、いいこと言うな! その肩書き、今日から名乗るわ!」
二人の笑い声が、畑の上に響いた。
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
中央広場では、再びバンザイが鍋をふるっていた。
「今夜は“収穫祭り”だぜぇぇぇ!!
野菜も肉も、全部てんこ盛りで行くぞ!」
周囲には、セラやミル、ディアボラ、ファル、ノア、ルーナ、そしてレオルも集まりはじめていた。
「ねえ、バンザイ。あの新作スープ、もう一杯もらえる?」
「うっしゃ! 鍋は愛を込めて盛るのが流儀だ!」
「よしっ!こっちはパン焼き立てー!」
「カボチャのグラタン、いい匂い〜!」
まるでどこかの大家族の食卓のように、笑いと湯気が村を包んでいた。
バンザイは鍋を見つめながら、ふと思った。
かつては料理を諦め、戦うことしか知らなかった自分が、、、
今こうして、食材を育て、料理を作り、誰かの笑顔を引き出している。
そのことが、何よりも“自分らしさ”になっていた。
「レオル!お前が“創ってくれた世界”はさ、、」
バンザイは、誰にでもない空に向けて言葉を投げる。
「こうやってさ、“戦わなくていい理由”を思い出させてくれるんだ」
それは、まさしく“鍋の魔法”。
争いを忘れさせ、腹を満たし、心を温める“最強の平和魔法”だった。
今宵もまた、彼の鍋が、アルシェリアの夜を彩る。
湯気の向こうで、また誰かの笑顔がこぼれる限り、、
バンザイのスローライフは、終わらない。
続