第3話 【女王様、アルシェリアへ帰る】
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、、その朝。
白くたゆたう霧の向こうから、一台の馬車がアルシェリアの地を駆けてきた。
広がる草原の中を、王都の象徴である蒼銀の王紋旗が風に揺れている。
「ん? あれって……」
見張り台で朝の風にあたっていたリリムが、小さな声を上げた。
「見て見て! 馬車が来てるよ! しかも、あの紋章……!」
リリムの声に反応して、バンザイがスコップを置いて顔を上げる。
「あれは……王都の紋章!? ってことは、、!!」
馬車が村の広場に到着し、扉が静かに開かれた。
中から降り立ったのは、、髪を陽光にきらめかせる、一人の女性。
「ふぅ……ただいま、レオル、みんな!」
微笑みながら降り立ったのは、今や王都の玉座を治める者、、エルフィナ王女、いや“女王”だった。
「エルフィナ!」
レオルが真っ先に駆け寄る。
「帰ってくるなら連絡くれよな。驚かせやがって!」
「ふふ、ごめんなさい。でもね、今日は……
“ただ、みんなに会いたくなった”の」
そう言って笑う彼女の瞳は、少しだけ疲れて見えた。
「おかえり〜、女王様♡」
ディアボラがヒラヒラと手を振りながらやってくる。
「ふふ、変わらないわね。あなたも」
「変わったのはそっちでしょ? 玉座に座るなんて、ちょっとかっこよすぎるじゃん?」
仲間たちが次々に現れ、歓迎の声をかける。
「ミル、セラ、ファル……みんな、元気そうね」
「もちろんだよ〜!元気元気!」とミルが胸を張る。
「今日はちょうど新しいお茶菓子も焼いたんだ。
ふわっとしたシナモンクッキー、王都じゃ食べられない味だよ〜☆」
「わ、嬉しい……後で絶対いただくわ」
リリムとポポも走ってくる。
「エルフィナ〜! ポポが絵描いたの、見て!」
(ポポは、お花あげる!)
その小さな手のひらには、色とりどりの野草のブーケと、色鉛筆で描いた“みんなの笑顔”の絵。
「……ありがとう」
エルフィナは膝をつき、二人の目線にしゃがむと、その絵と花をそっと胸に抱いた。
「王都では……こんな風に素直に“好き”って言ってくれる子、まだ少ないの」
「じゃあ、またすぐ来てね!」
「うん。また、来るね」
◇ ◇ ◇
その日のアルシェリアは、まるで祝祭日のようだった。
バンザイが料理を振るい、ミルとセラが菓子と茶を並べる。
「今日の目玉は、これだ!」
バンザイが鍋の蓋を開けると、芳醇な香りが立ち上がる。
「酒粕とクリームで煮込んだ、“女王様の極光鍋”!」
「なんでいちいち名前がファンタジーなのよ」
セラが呆れるも、そのスプーンは止まらない。
「うまっ……優しいけど芯がある味……まるでエルフィナみたい……!」
ファルは静かに見ていたが、、、
「ぐぅぅぅぅぅ……」
お腹が鳴る音が、焚き火の場に響いた。
「……えっ、今の誰?」
「僕。……いや、違うな」
「おぉいっ!誰がどう見てもお前だよ!」
バンザイが笑いながら皿を差し出す。
「はい、“拒絶不能スパイス煮込み”。おかわりもあるぞ」
「あ……これには、拒絶権はないようだね」
ファルが真顔で答え、皆が笑い出す。
その笑顔の輪の中で、エルフィナはふと空を見上げた。
王都の玉座からでは見えなかった、“自由な空”が、そこには広がっていた。
◇ ◇ ◇
夜。
レオルとエルフィナは焚き火の前に並んで座っていた。
「……久しぶりだな、こうして話すの」
「ええ。あの時以来ね。王都に残って、玉座に座ってから……ずっと走りっぱなしだった」
「重いか? 玉座ってさ」
「重いわね〜。笑いたくても笑えない日もあるわよ」
そう言って、エルフィナは火を見つめた。
「でもね。私があそこで生きてるのは、ここを守るためでもあるのよ。この場所で、誰かが幸せでいられるようにって」
「それが君の戦い方か」
レオルが、焚き火の火をつつきながら言った。
「……だったら、また帰ってこいよ。息抜きでも、逃避でも、なんでもいい。エルフィナが帰れる場所が、ここにある。何か困ったらいつでも俺を呼べよ!なんでも創造してやるから!」
「……ありがとう。出来るだけやってみるわ。困ったらお願いね…」
彼女はそっと目を瞑り、レオルの肩に身を預けた。
◇ ◇ ◇
そして翌朝。
再び王都に戻るため、エルフィナは馬車へと乗り込んだ。
「じゃあ、みんな、また来るわね。今度は……もう少し長く」
「待ってるよ!」
レオルが手を振り、ディアボラがにやにやしながら叫ぶ。
「次はスローライフ体験ツアーでもやろっかー! 女王様プランで♡」
「……それ、なんか罠がありそうね!考えとくわ☆」
笑いながら馬車が遠ざかっていく。
残された仲間たちの顔に、優しい光が射していた。
“玉座を捨てなくても帰ってこられる場所”が、ここにある。
そんなことを、誰もが思っていた。
続