第60話 【未来は奪わせない】
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アルシェリアの朝は、どこまでも静かだった。
まだ陽が昇る前、地平線の彼方が紫色に染まり始めた頃。
「ふわぁぁぁ〜……ん、いい匂い……!」
リリムが眠たげな目をこすりながら起き上がると、すでに焚き火のそばではバンザイが朝食の支度をしていた。
「おっ、起きたかリリム。今朝はカボチャ入り蒸しパンと、創造出汁でとったスープだぞ」
「わあっ……!」
リリムの目が輝く。隣ではディアボラがでろ〜んと寝転がり、眠そうな顔をして火のそばで干し肉を炙っていた。
「あぁ、、もうちょい……もうちょいだけ寝かせて♡……朝は乳にくるしい……」
「こらっ!朝から変なこと言わない!」
セラが慌ててディアボラの頬をつねる。
ミルはその様子を見てクスクスと笑いながら、植物の苗を世話していた。
「ふふ、今日も平和だね。あ、見て、ミルの実の第二世代が芽を出したよ!」
「すごいな。ちゃんとこの世界でも“命の連鎖”が生まれてるんだな……」
レオルは土の匂いを吸い込みながら、ゆっくりと空を見上げた。
雲一つない空。その中に、何かが“黒く”滲んでいくのが見えた。
、、、不吉な気配。
「はーい!みんなスローライフおしまい☆
何か来るよっ!」
ファルが即座に呟いた。
空の一点が、まるで時間ごと破れるように“穴”を開けた。
「……時の裂け目?」
ノアが顔をしかめる。
そこから、仮面をつけた人物が現れた。
全身を“記録されていない衣”で覆い、手にはタロットカードを一枚、光の中で浮かべている。
「また……お前か?未来泥棒!」
レオルが構える。
、、、未来泥棒。
時間の狭間に生まれた、“奪われた未来”の残滓。
「どうしてまた現れたの? あなたは前に、敗れたはず……」
エルフィナが弓を構える。
未来泥棒は答えない。
ただ、手の中のタロットカード、、
《The Tower(崩壊)》を、ゆっくりと裏返した。
《未来投影、、コード•“崩壊の可能性”》
すると、空が割れた。
アルシェリアの空間の一角が、まるで未来の“最悪の結末”であるかのように、一瞬で灰に染まった。
「これは……“未来の焼却”!? 起きていない未来を現実に流し込んで……!」
ノアが記録紙を展開するが、予測不能な干渉に乱れる。
「このままじゃ、世界そのものが“未来の絶望”に侵食される……!」
だが、レオルは一歩、前に出た。
「“俺たちの未来”は、お前の物じゃないね!」
レオルの[創造]の回路が光り、周囲に展開される。
「みんな、ここは俺がいくよ。
これは“俺たちが歩いてきた道”への侮辱だからな!」
「うん。私たちは、レオルを信じる」
ミルが優しく微笑む。セラも頷き、弓を構えたエルフィナ、バンザイ、ディアボラもそれぞれ支援の姿勢に入った。
「リリム、怖かったら後ろにいな♡」
「ディア姉……行くよ、私も」
リリムは小さく言った。
「ここで逃げたら、また“母様”の背中を追いかけてしまうから」
ディアボラがふっと目を細め、彼女の頭を軽く撫でた。
「いい子ね。じゃあ、ほら、背中は私に任せなさい♡」
レオルは拳を握りしめ、未来泥棒に向かって歩き出す。
「そのカード、ずいぶんと便利そうだな、、?
でも、こっちにもあるんだぜ?」
レオルの右手に、一冊の“創造ノート”が現れる。
《創造書式・未来対抗構築》
「これの名前は……
《希望の記録•(ラストページ・プロミス)》」
それは、「まだ書かれていない未来」を“可能性”として具現化し、現実に選び取る[創造]。
「未来は“描く”もんだ。奪われるもんじゃねぇ!」
未来泥棒が再びカードを切る。
《The Hanged Man(犠牲)》
選ばれなかった未来の“破滅の写し”が出現。
だが、レオルはその瞬間に手をかざし、対抗創造を起動した。
[原初神創造]《展開》
《“明日へ続く道”の記録、起動!》
彼の足元に、“確かな希望”の光の道が伸びた。
タロットの“未来破壊”と、創造された“未来選択”が空中でぶつかる。
激しい衝撃。
時間と空間がせめぎ合い、未来泥棒の仮面に亀裂が走る。
《破壊、、、中断》
《創造、、、優位》
レオルのノートが勝った。
「……っ、俺たちは、どんな未来が来ても、“一歩”ずつ進んできたんだ!!」
「その積み重ねがある限り、、
お前たちには奪わせない!」
そして放つ、レオルの一撃。
《未来創壊拳•パラドクス・クラッシャー》!!
それは、“因果の外から干渉する未来”そのものをぶん殴る、因果破壊の創造拳。
未来泥棒の仮面が砕け、中から“まだ誰でもなかった顔”が見えた。
何の感情もなく、ただ“失われた可能性”として漂っていたものが、光に還る。
「こないだのやつらかと思ったら、、違うんだね…」
ファルが呟く。
「そうだな…どうせまた来るんだろ…未来泥棒」
◇ ◇ ◇
戦いが終わると、朝の光がようやくアルシェリアの空を照らし始めていた。
「……お、おなかすいた……」
バンザイがその場にへたり込み、リリムが横で笑う。
ミルとセラが朝食を整え直し、皆が輪になって座る。
「世界はまだ不安定だけど……」
ファルが静かに言う。
「でも、未来は……もう、誰にも盗ませない」
「あぁ!そうだな」
レオルが頷く。
「さぁ、次は“今”を守る戦いだ。王都が、動き出し始めてる」
ディアボラの目が鋭くなる。
「もー!さっさと片付けて、のんびりできる世界、創りましょ♡一日中温泉入ってスローライフしたいっ♡」
王都との決戦が、いよいよ始まる。
続
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