第59話 【蒼天の下で、またひとつ】
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青い空。柔らかな風。焼きたてのパンの香り。
それは、どこか“懐かしい日常”の一幕だった。
アルシェリアの中央、〈創星の丘〉
草の匂いに包まれた広場で、今日も村の仲間たちがゆるやかな時間を過ごしていた。
「ふふん♪このパン、“バンザイ式もちふわ焼き”だぞ!」
バンザイが胸を張ってテーブルに並べたのは、湯気の立ち昇る黄金色のパンたち。
焼き色は完璧、中には果実の蜜煮が入っていて、切るととろりと溶け出す。
「おぉ~! この香り……おいしぃぃぃ!!」
セラが目を輝かせて口いっぱいにほおばる。
「これ、外はカリッとしてるのに中はふわふわ……!しかも、お蜜トロ〜♡、、チートだわ…」
「ふむふむ、熱伝導と魔法火力のバランスが絶妙だね☆」
ミルがパンを分析しながら、ノアと一緒に味見している。
「バンザイの創造料理、もう文明レベルの遺産ですよ……」
「むふふ、そう褒められると照れるぞ。でも次は“空飛ぶ鍋カレー”作るからな!」
「いや、危険な響きしかしないんだけど……」
その隣では、リリムがディアボラと一緒にパンを手にしていた。
「ねえディア姉、これ……お母様がいたらなんて言うかな」
ふとそう呟いた彼女に、ディアボラはしばらく黙ってから、にっこり笑った。
「ん~、きっとね。“焼き加減が3秒遅い”とか言ってくるわよ?」
「うん、すごく言いそう……!」
二人は顔を見合わせて、くすりと笑う。
「でもねリリム。そういう言葉すら、懐かしくなる日が来るのよ」
「うん……もう少しだけ、この“幸せな世界”でいたいなって思える」
「じゃあ決まりだね。今日も元気に、幸せな世界守るぞー☆」
「おー☆」
一方その頃、、
丘の端では、レオルがファルと肩を並べ、空を眺めていた。
「ようやく……少し、落ち着いたな」
「うん。時の逆行者まで倒して、未来も戻ってきた」
「未来か……あの軍服はまた来そうだけどな…」
レオルは大きく息を吸い、笑った。
「あははっ!なんかさ〜“終わり”って感覚がないんだよな」
「うん。創造って、始まりの連続だからね。
君が止まらない限り、未来はずっと、未完成だ」
ファルの言葉に、レオルは頷く。
「だったら、もっと、もーっと先を見に行くか。
俺たちの未来、まだまだ描けるんだろ?」
そのとき。
空に、白銀の羽がひらりと舞った。
それは、どこか神聖で、そして……“異質”だった。
「今の、見たか?」
「ああ。あれは……」
ノアが慌てて走ってくる。
「レオル、ファル! 観測に異常波形!
今の羽、、“神性変異体”の残響と一致した!」
「神性変異体……?」
「うん、“かつて神に選ばれかけた存在”の名残。
つまり、“神になれなかった者の意思”が、この世界に残ってるってこと!」
レオルが即座に顔を引き締める。
「まさか……また“旧神絡み”か?」
「わからない。でも、これは明らかに別の位相からの干渉だよ。もっとこう……“試練”じゃなく、“問い”のようなもの」
ファルが呟く。
「問い……」
そのとき、セラが走ってきて声を張った。
「レオル! 村の北の空に、“星のような影”が現れたって!」
「星……? この世界に、俺たちの知らない星はまだ、、、」
レオルが空を見上げた瞬間、、
そこには確かに、“輝く何か”が浮かんでいた。
動かず、瞬かず、ただ見つめるように空に存在する星。
だが、観測式には何も映らない。
魔力反応もなく、記録すらされない“無のような存在”。
「これは……《観測できない星》……」
ファルが呟く。
「もしかして、“この世界の未来”そのものが……
俺たちを“見ている”のかもな」
仲間たちが一人、また一人と、星を見るために丘に集まってきた。
ディアボラ、ルーナ、ミル、エルフィナ、ノア、セラ、リリム、バンザイ、ファル、そしてレオル。
誰からともなく、静かに笑いが零れる。
「……この星に名前、つけようか?」
セラが言う。
「“意味”があるほうが、なんとなく安心するし」
「そうだな!」
レオルはうなずき、空に手をかざした。
「なら、“ココロの星”ってのはどうだ?」
皆がそれを聞いて、くすっと笑い、、
「いいね!」「ロマンチック☆」「あたしの胸のほうがデカいけど♡」「比べるな!」
みんなのにぎやかな声が、空へと広がった。
◇ ◇ ◇
それは、確かに「穏やかな日常」だった。
けれど、その中心には、“未知”という火種が確かにあった。
“未来”がこちらを見ている。
だとすれば、それは“試される”ことと、同義だ。
けれど、レオルたちはもう知っている。
創造者とは、恐れず進む者たちのことを言うのだと。
だからこそ、今日も彼らは歩き出す。
この空の下、またひとつ。
続
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