第52話 【棺の少女と、封じられた神代記憶】
アルシェリア、創造の中心部にて。
「レオル、ちょっと来て!」
ミルが息を切らしながら研究棟から飛び出してきた。
「んっ?どうした?」
「地層の底で……“棺”が見つかったの。しかも中には、生きてる人が……!」
驚く仲間たちと共に、レオルは急ぎその場所へと向かう。
創造の初期段階で築いた“記録の地層”、、
そこは、ノアとミルが神代遺構の欠片を探していた地下層だった。
岩盤が自然に剥がれ、光を放つ構造体が現れている。
中央に浮かぶのは、一つの棺、、、
透明な結晶でできた、重厚かつ神秘的な棺。
その中には、金色の髪と黒い衣を纏った少女が、静かに眠っていた。
「……生きてるの?」
セラがそっと手を伸ばすと、棺の表面に淡く紋章が浮かぶ。
《記憶封印式、、認証者•創造者、観測者、拒絶者》
「もしかして…わたしたちの名前が、鍵になってる?」
ノアが首をかしげる。
「つまり、この少女は……神代に“創造者たちの先祖”によって封印された存在だということだ」
ファルが、棺の情報層を拒絶式で解析し始める。
「わかったよ。彼女の名前は、、アウレリア」
「“記憶編集者”という、旧神に匹敵する役職を持つ存在だ」
「メモリ……? まさか、“世界の記憶”そのものを操る存在ってことか?」
レオルの問いに、ファルは頷いた。
「彼女はかつて、神々の争いに巻き込まれ、“世界の記憶を再構築する兵器”として造られた……
けど、自我を持った時点で脅威とみなされ、封印されたらしい」
「記憶を……再構築……?」
ノアがわずかに震えた声でつぶやく。
「それって……“世界の過去を都合よく書き換える”ってこと……だよね」
「けど、今は違う。レオルの創った世界には、強制された記録じゃなく、“選ばれた記憶”がある」
ファルが棺に手をかざす。
「今の私たちなら、彼女を……“過去の兵器”じゃなく、“未来の仲間”として迎えられるかもしれない」
そして、、、
レオル、ノア、ファルの三人が、それぞれの“神性”で手を重ねた。
棺の封印が、ゆっくりと解かれていく。
、、、カンッ。
音もなく、棺の蓋が開き、光が満ちる。
「……ぁ……」
少女の瞳が、ゆっくりと開かれる。
目は、記憶の欠片を映すような輝きを持っていた。
「……私は……アウレリア。記録を壊し、記憶を修復する者……」
その声は、どこか機械的で、けれど悲しみを孕んでいた。
「……君を、どうしたいのかは、俺たちが決める。 過去じゃなく、この未来で」
レオルが、まっすぐにそう告げると、、
アウレリアの瞳に、一筋の涙が流れた。
「、、では、私は……ここで、“生きて”いいの?」
レオルは、迷わず答えた。
「もちろん!いいさ。アルシェリアは、、
誰にだって“もう一度始められる場所”だからな」
◇ ◇ ◇
その夜。
レオルはノアと並び、湖のほとりで静かに語り合っていた。
「……記憶って、ほんとに厄介なもんだな」
「えぇ、でも、大切でもあるよ」
ノアが優しく笑う。
「だって、“記憶”があるから、誰かを想える。
“記録”に残るから、未来に繋がる」
「そして、レオルと出会ったから、、
私は、“記憶されたい”って初めて思った」
「ノア……」
「でも、アウレリアは……その全部を壊せる存在。
きっと、試されるよ。私たちが築いてきた意味が、ね」
「でも、俺たちは負けないさ!」
レオルは拳を握る。
「もう“壊される世界”は見たくない。
“選ばれる記憶”で世界を創るって決めたんだ」
「俺たちの世界は、記憶が積み重なることで強くなる」
その言葉は、出来たばかりの星空に溶けていった。
◇ ◇ ◇
翌朝。
アウレリアはまだ戸惑いながらも、仲間たちと朝食の席に座っていた。
ミルが笑いながらカップを渡し、セラがブランケットをかけ、ルーナが不器用にクッキーを差し出す。
「……これは、歓迎……というやつ、ですか……?」
「違うよー。これは“家族”の挨拶だよー♪
気楽にどうぞ〜☆」
バンザイが豪快に笑いながら、自分の鍋からスープを注ぐ。
「あははっ!うちは“味”で仲間になるルールなんだぜ!」
アウレリアは、おそるおそるスプーンを口に運ぶ。
、、、その瞬間。
瞳が、わずかに潤んだ。
「……あたたかい」
「それが、アウレリア、君の“はじまり”だ」
レオルが静かに言う。
「ようこそ、アウレリア。アルシェリアへ」
続