第47話 【灼けた玉座】と【壊れた天秤】
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魔族の国は、すでに焼けていた。
かつてのディアボラが見下ろすその城砦は、もはや骨と瓦礫の残骸でしかなかった。
赤黒い炎が地平を裂き、空は常に煙で覆われ、誰も彼女に言葉をかける者はいなかった。
「ここが、“魔族の国”?」
その声に振り返ると、、かつてのディアボラがいた。
燃えるような真紅の髪と、露出度の高い衣装。
笑ってはいるが、目の奥は乾ききっていた。
「そうよ。私が統べていた場所。
力でねじ伏せて、血と怒号で保ってた国」
彼女の言葉に、仲間たちは無言で頷いた。
ノアが静かに記録紙をめくる。
「この時期のディアボラには、あらゆる記録が“割れて”存在しているの。“王”として、“孤独”として、“災厄”として」
「でも、どれも……“本当のディアボラ”じゃない気がするわ」
セラがポツリと呟く。
そのとき、記憶の炎が立ち昇り、ひとつの光景が浮かび上がった。
大広間の玉座で、ひとり、肉をむさぼるディアボラ。
彼女の周囲には家臣も、民もいない。
ただ金と武器と空っぽの栄光だけ。
「ねぇ、みんな?私のこと“楽しい爆乳魔王”だと思ってるでしょ♡?」
現在のディアボラが、自嘲するように言った。
「違うんだぁ〜、、、楽しかったんじゃない。
ただ、“笑ってないと誰にも相手にされないと思ってたのよ…」
「……」
「最初は、本当に“魔族の未来”を作りたかった。
だけど、気づけば私には“破壊”しか残ってなくて」
「私が玉座の上から見る世界って、いつも焦げてて。 あんまりにも、静かで」
「私ね、、こ〜んな!うるさいくらいの仲間たちに、憧れてたのよ♡」
ディアボラの拳が、ぐっと握られる。
そのとき、記録紙の空間が変化し、“あの日”の映像が再生された。
未開の村に、空から落ちるように遊びにやってきた魔王ディアボラ。
迎えたのは、警戒もせず鍋を持ったバンザイと、飛びかかってくるミルだった。
「は? なんで君たちそんな歓迎ムードなのよ♡」
「歓迎? あー、うちに爆乳魔王が来た記念で鍋やってんだけど?」
「ちなみに、そのおっぱい何カップあるの?」
「いいから早く食え!」
どこか破裂したように笑う彼女の“日々”
心から笑ったのは、数十年ぶりだった。
「私ね、あの日ようやく“居場所”ってやつを手に入れたような気がするんだよ…」
ディアボラがぽつりと呟く。
「力じゃなく、支配じゃなく、笑いながら蹴り合える“仲間”ってやつをさ♡♡」
レオルが一歩、彼女に近づく。
「お前は……俺たちの“魔王”だよ」
「ふふっ、いいセリフじゃ〜ん。
でも今はもう、“村の爆乳魔王”って肩書きでもオッケーよ♡」
その瞬間、記録の空が爆ぜ、灼けた城砦が崩れていく。
灰が舞うなか、ひとつの新しい魔法が生まれる。
《煉王術式・ファニースマイル=イクス》
「力のための破壊じゃない。
私はこれから、“守るための煉獄”を使うわよ」
ディアボラの背に、真紅の炎翼が現れる。
熱いのに、どこか優しい。
その火はもう、誰かを傷つけるためではなく、温めるために燃えていた。
「魔王、ディアボラ、、記録完了」
ノアがそっと筆を置いた。
◇ ◇ ◇
仲間たちが笑う。
かつての孤独を越え、ひとりではない現在を手にした彼女は、どんな魔族よりも、誇らしげに爆乳を張っていた。
◇ ◇ ◇
次に進んだ記憶階層の最深部にて。
ファルは一人、静かにその扉を開いた。
「ふぅ〜ん……ここが、僕の記憶?」
そこには、何もなかった。
正確に言えば、、、
“全てが記録されていない”真っ白な空間。
レオルたちがそっと後を追い、ファルの背に言葉をかけた。
「ファル……」
「……大丈夫。心配ないよ…
多分、僕の過去は“空白”だから」
そう言いながらも、ファルの声にはかすかな震えがあった。
だが、次の瞬間。
真白な床に、一枚の書が浮かび上がった。
それは“拒絶の書”、ファルの神核そのものだった。
「ようやく……来たか」
その書から生まれたのは、ファルの“影”だった。
少年の姿をしたもう一人のファル。
けれど、表情は冷たい。
『僕は“拒絶”した。観測者でありながら、創造を捨て、ただ記録することすらやめた。
だって……この世界は、“選ばれなかった者たち”で溢れていたから』
レオルが問う。
「それでも、なぜ俺たちに協力してくれる?」
ファルの影が言う。
『本来、ファル=アヴァロンは“創造者”となるべく設計された“神の器”だった。
けど、、彼は、その全てを“拒否”した。
神にも、世界にも、創造にも』
『“創造”が、選ばれた者の特権なら、、
“拒絶”は、選ばれなかった者の抵抗だ』
ファルはゆっくりと、その影に向かい合った。
「僕は、壊したかったわけじゃない。
ただ、“見ていられなかった”だけだよ。
誰かが捨てられていく姿をね……」
そのとき。
記録空間に、ひとつの“映像”が浮かび上がる。
◇ ◇ ◇
ある孤児院で、読み書きを教える少年。
彼は名もなき子供たちに、優しく本を読んでいた。
「これが……ファル?」
「はは、昔の、ほんの少しの“記録の残滓”。
僕が唯一、創造じゃなく“記録”を愛した時間」
その記録は、やがて炎に包まれる。
神の“創造計画”から外れた施設として、全員が処分された。
「君はそのとき、力を使えば救えた。
でも、拒否した……?」
「違うよ。僕は“観測者”だったから、ただ記録しなきゃいけなかった。
けど、その日、、僕は筆を折った。
“見たくない”と初めて思ったから」
『だから、君は“拒絶”したんだ』
影のファルが問う。
『……それで、今はどうなんだ? また“記録する”側に戻るのか?』
ファルは笑い、一歩前に出る。
「あはは、違う。今の僕は“創る側”にいる。
選ばれなかった人たちの居場所を、“書き加える側”にね」
その瞬間、彼の神核が輝き、拒絶の書が開かれた。
中に記された文字は、、《希望》というたったひとつの語。
「僕は、もう“拒絶”だけじゃ足りないんだよ…
だから今は、レオルたちと一緒に、“書き直したい”んだ…この世界をね☆」
影のファルがゆっくりとうなずき、光の中に還っていく。
《記録者コード・リヴライト=改式》
ファルの手に、新たな記録筆が浮かぶ。
それは、“拒絶”と“創造”の両方を受け入れた者にだけ宿る力。
「これで少しは前を向けたかな、、、
ようやく……“僕自身”になれた気がする」
レオルが言う。
「ようこそ、創造の書き手ファル」
仲間たちが微笑んだ。
◇ ◇ ◇
記録階層から戻る一行。
空にはまだ、数多の星はなかった。
だがその夜。ファルが初めて手に取った白紙の紙に、一つの詩が書き加えられた。
“もし、君が選ばれなかったとしても
君の名は、誰かの物語の中に残る”
新たな“記録”が始まる、、
それは、過去を越えて、未来へ続くもの。
続