第40話 【黒炎の影、再び】
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──アルシェリアの朝は、静けさの中に“生命の兆し”を含んでいた。
レオルたちの創造により、地面からは新芽が顔を出し、空にはまだ名のない鳥型の生命が群れをなして飛んでいる。
その風景の中で、リリムはディアボラと一緒に新たな作物畑の整備をしていた。
「リリム、そっちは“燃えやすい根”だから注意して植えてね〜!」
「う、うん……ディア姉は、、
なんでそんなに毎日明るいの……?」
「えっ? そりゃ、世界が始まったばっかりだからよ!
“祝福”みたいなもんじゃない♡」
ディアボラの豪快な笑顔に、リリムはつられて少しだけ笑みを浮かべた。
(あの夜、私は決めた。ここで生きるって)
まだ心は揺れている。でも、居場所がある。
それが、たしかな一歩だった。
その時だった。
村の北東、高台の見張り台に立つノアの記録紙が、突如として激しく震えた。
「来る……強力な魔族反応。一体、いや……二体!」
警報の鐘が鳴らされる。
全員が武装を整え、即座に集まった。
「座標、空間断層からの転送痕あり。
予想される到達まであと、、30秒!」
「あと30秒か、、りょーかい……!」
レオルは地面を[創造]で強化し、戦闘準備を整える。
仲間たちがそれぞれに布陣する中、ディアボラは不意に動きを止めた。
「この魔力……まさか……あいつが……!」
空間が裂けた。
真紅の炎とともに、二つの人影が現れる。
一人は、以前襲来した魔将、、
《イシュ=ヴァルト》
だが、もう一人。
それは、見る者すべてに圧をかけるような存在感を放っていた。
黒曜石のような艶を持つ魔甲冑に身を包み、背には巨大な双剣を背負う女魔族。
その眼は、猛獣のように獰猛で、笑みはまるで獲物を屠る直前のそれだった。
「ふふ……いたいた。初めまして、、あんたが噂のディアボラ?」
「あぁん!あんた誰だよ?!勝手に人の噂すんなっ!」
ディアボラの顔から、いつもの明るさが消えた。
「ずいぶんと楽しそうね?裏切り魔王さん?」
“厄災の魔王”《グロリア・ヴェル=ジル》
かつて魔界の反対で“爆焔姫”の異名で恐れられ、ディアボラと肩を並べていた存在。
しかしその名は、後に“裏切りの制裁者”へと変わり封印される。ディアボラと交わる事なく、、
魔王ディアボラが魔族の理を捨て、レオルの側についたとき、、
最初にディアボラを「粛清対象」と宣言したのがグロリアだった。
「今日は、魔族の裏切り者にお仕置きしに来てあげたわよ。ディアボラァ♪」
「……ふざけんなって。あんたに負けるほど、あたしは弱くないよ。それに私はもう魔王じゃない。
でも、“仲間を守る者”としては、、負けるつもりないから!来いよ♡」
二人の間に、無音の火花が散る。
その場に緊張が走る中、、
イシュ=ヴァルトが歩み出た。
「今回は宣戦布告ではないわ。
あくまでこれは、“所有権の確認”よ。
正式に、アルシェリアの管理権を魔族が持つか、人間側が持つか。その前哨線に過ぎない」
「所有権? それを決めるのは、ここの命たちだろ……!」
レオルが静かに告げた。
「誰かが勝手に創って、勝手に支配していい世界じゃない」
「理想論だな。だからこそ“力”で決めるんだよっ!!」
そう言ったグロリアが、突如ディアボラの前に瞬間移動する。
「さあ、“元魔王”! 一発かまし合おうじゃない!」
「あはははっ!!上等♡」
地響きと共に、二人の爆焔がぶつかる。
炎と炎が衝突し、空を真っ赤に染める。
その激しさは、その場にいる誰もが息を呑むほどだった。
「すげぇぇ……これが、最強魔王同士のぶつかり合い……!」
バンザイが串を握ったまま叫び、ミルが魔法障壁を展開して飛び火を防ぐ。
「リリム、下がってて! この二人は、次元が違う……!」
「……違う。私も見る。見なきゃいけない。
母の側で、何も知らなかった私だから……
今、この世界で、ちゃんと“選ばなきゃ”いけない」
リリムの瞳が、まっすぐに炎を見据えた。
炎の中。
ディアボラの拳と、グロリアの双剣が激突する。
「ったく、アンタの拳、、けっこう重いのね!」
「“愛”と“爆乳”と“理不尽”ってのは、だいたい重たいもんなのよ♡!!」
二人の技が交錯する。
「《紅蓮獄鎚》!」
「《爆裂双断刃》!」
爆音と閃光。
だが、、、そこには殺意だけではない、
“ぶつかり合う信念”があった。
ふと、グロリアの目がわずかに細まった。
「……へぇ、ほんとに魔族やめちゃったみたいね、、アンタ」
「そりゃもう、色々と惚れちゃったもんで♡」
「はぁっ!バッカみたい」
二人が同時に笑った瞬間、戦気がふっと緩む。
「次は正式に、“所有権を賭けた決闘”を申し込むわ。覚悟しておきなさい」
「あははっ上等! 今度はみんなで返り討ちだよ!」
そう告げ、グロリアとイシュは空の亀裂へと戻っていった。
静寂が戻った村の中で。
ディアボラは大きく伸びをして、仲間たちの方を向いた。
「さーて、筋肉ほぐれたし、お腹ぺこぺこ♡
バンザイ☆晩ご飯にしよっか♡」
「まったく、、ディアボラの戦った相手ほんとに魔王だったんだよね……?」
セラが呆れながらも、笑みを浮かべた。
「、、でも、やっぱり強いな。
私、ディア姉に……ついていきたいって、思っちゃった」
リリムは胸に手を当てながら、ぽつりと呟いた。
その声は、小さな決意の種となり、アルシェリアの風に溶けていった。
続