第39話 【その手にふれた夜】
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──夜。
アルシェリアの空に、星のような魔素がきらきらと舞っていた。
新しく生まれたこの世界に、星の概念はまだ存在しない。だが、村の上空には、ミルたちが実験的に創った“光球”がやさしく輝いている。
焚き火のそばで、リリムはじっと手を見つめていた。
小さく震える指先。自分の中に渦巻く“答えの出ない感情”に、言葉をつけることができなかった。
(なんで……私、こんなところにいるんだろ)
母、イシュ=ヴァルト。
魔族の誇り高き女将であり、軍を率いる絶対者。
その背中を、ずっと追い続けてきた。
だけど、母は言った。
『リリム。お前にはお前の“答え”を見つけなさい。
魔族としてではなく、一人の命として、、何をするべきか?…ね』
その言葉を残して、母は軍へ戻った。
、、それが、正しいことなのかも分からない。
自分は魔族。けれど今いる場所は、魔族の常識とは真逆の世界。
“創造されたばかりの地”で、人間や獣人、妖精や記録者が笑いあって、料理を作って、戦いながら、夢を語っている。
(私……ここに、いていいのかな?)
「ん〜♡なーんか難しい顔してるじゃん?」
その時、リリムの隣に現れたのは、ディアボラだった。
大きなマントを羽織り、手にはスパイスの効いた焼き肉串を持っている。
「……別に」
「うそ〜ん♡顔に“私、孤独です”って書いてあるよ?」
ディアボラはリリムの肩をポン、と叩く。
「母親と離れて、不安になるのは当たり前でしょ。
私だって、魔王だった頃はずっと一人だったんだから」
「……ディア姉も、孤独だったの?」
「うん。でもね、今は違うんだ〜。
ここにはバンザイがいて、セラがいて、ルーナがいて、レオルがいる。
ミルなんて“親戚のちょっとうるさい子”って感じ♡」
そう言って笑うディアボラは、まるで太陽のように明るかった。
「リリム。あんたね、ちょっと前まで“魔族の娘”って感じだったけど……最近はなんか、“こっち側の顔”してるよ」
「……えっ?」
「うちらの価値観、ちょっとずつ伝染してるんだよ。嬉しい時は笑って、寂しい時は泣いて、飯がうまけりゃ“うまい!”って言う。それでいいの。どこの種族かなんて関係ない」
リリムは目を伏せた。
胸の奥で、何かが“こぽっ”と音を立てる。
「私……間違ってないかな」
「間違っててもいいんだよ。正しさなんて、あとで決めりゃいい。今は“どこにいたいか”でしょ」
「……私、ここにいたい。レオルたちと、みんなと一緒に」
「よ〜しっ!決まり♡!」
ディアボラはリリムの頭を、ぐしゃぐしゃと撫でた。
「ちょ、ちょっと! 子ども扱いしないでよ!」
「ふふん、大人の余裕ってやつ♡」
二人の笑い声が、焚き火の音に混ざって弾けた。
翌朝、、。
リリムは、初めて自分から“朝食づくり”に参加した。
バンザイが「料理に魔力を混ぜるコツ」を教え、ミルが隣で材料の知識を教える。
リリムは目を輝かせて頷き、失敗しながらも必死に手を動かしていた。
ディアボラはそれを遠くから見守っていた。
「……もう、大丈夫そうだね」
「ええ。心の居場所が、一つできたのですね」
そっと言ったのは、ノアだった。
その記録紙に、新たな項目が書き加えられていく。
「、、リリム、アルシェリアの一員として、感情の交流を記録っと」
ディアボラはふっと笑って、ノアに囁いた。
「ねぇ、次のページにはこう書いてよ。
“この子は、、私たちの家族になった”ってさ♡」
「……了解しました」
ノアのペンが、静かに紙の上を滑った。
この世界アルシェリアは、まだ生まれたばかり。
けれどその中で、ひとつずつ、、
新たな命が、自分の“居場所”を見つけ始めていた。
続