表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/196

第39話 【その手にふれた夜】

見て頂きありがとうございます。作る励みになりますので、良かったらブックマークと評価よろしくお願いします。


 ──夜。


 アルシェリアの空に、星のような魔素がきらきらと舞っていた。

 

 新しく生まれたこの世界に、星の概念はまだ存在しない。だが、村の上空には、ミルたちが実験的に創った“光球”がやさしく輝いている。


 焚き火のそばで、リリムはじっと手を見つめていた。

 小さく震える指先。自分の中に渦巻く“答えの出ない感情”に、言葉をつけることができなかった。


(なんで……私、こんなところにいるんだろ)


 母、イシュ=ヴァルト。

 魔族の誇り高き女将であり、軍を率いる絶対者。

 その背中を、ずっと追い続けてきた。

 だけど、母は言った。


『リリム。お前にはお前の“答え”を見つけなさい。

 魔族としてではなく、一人の命として、、何をするべきか?…ね』


 その言葉を残して、母は軍へ戻った。


 、、それが、正しいことなのかも分からない。


 自分は魔族。けれど今いる場所は、魔族の常識とは真逆の世界。

 “創造されたばかりの地”で、人間や獣人、妖精や記録者が笑いあって、料理を作って、戦いながら、夢を語っている。


 (私……ここに、いていいのかな?)


「ん〜♡なーんか難しい顔してるじゃん?」


 その時、リリムの隣に現れたのは、ディアボラだった。

 大きなマントを羽織り、手にはスパイスの効いた焼き肉串を持っている。


「……別に」


「うそ〜ん♡顔に“私、孤独です”って書いてあるよ?」


 ディアボラはリリムの肩をポン、と叩く。


「母親と離れて、不安になるのは当たり前でしょ。

 私だって、魔王だった頃はずっと一人だったんだから」


「……ディア姉も、孤独だったの?」


「うん。でもね、今は違うんだ〜。

 ここにはバンザイがいて、セラがいて、ルーナがいて、レオルがいる。

 ミルなんて“親戚のちょっとうるさい子”って感じ♡」


 そう言って笑うディアボラは、まるで太陽のように明るかった。


「リリム。あんたね、ちょっと前まで“魔族の娘”って感じだったけど……最近はなんか、“こっち側の顔”してるよ」


「……えっ?」


「うちらの価値観、ちょっとずつ伝染してるんだよ。嬉しい時は笑って、寂しい時は泣いて、飯がうまけりゃ“うまい!”って言う。それでいいの。どこの種族かなんて関係ない」


 リリムは目を伏せた。

 胸の奥で、何かが“こぽっ”と音を立てる。


「私……間違ってないかな」


「間違っててもいいんだよ。正しさなんて、あとで決めりゃいい。今は“どこにいたいか”でしょ」


「……私、ここにいたい。レオルたちと、みんなと一緒に」


「よ〜しっ!決まり♡!」


 ディアボラはリリムの頭を、ぐしゃぐしゃと撫でた。


「ちょ、ちょっと! 子ども扱いしないでよ!」


「ふふん、大人の余裕ってやつ♡」


 二人の笑い声が、焚き火の音に混ざって弾けた。



 翌朝、、。


 リリムは、初めて自分から“朝食づくり”に参加した。


 バンザイが「料理に魔力を混ぜるコツ」を教え、ミルが隣で材料の知識を教える。

 リリムは目を輝かせて頷き、失敗しながらも必死に手を動かしていた。


 ディアボラはそれを遠くから見守っていた。


「……もう、大丈夫そうだね」


「ええ。心の居場所が、一つできたのですね」

 そっと言ったのは、ノアだった。

 

 その記録紙に、新たな項目が書き加えられていく。


「、、リリム、アルシェリアの一員として、感情の交流を記録っと」


 ディアボラはふっと笑って、ノアに囁いた。


「ねぇ、次のページにはこう書いてよ。

 “この子は、、私たちの家族になった”ってさ♡」


「……了解しました」


 ノアのペンが、静かに紙の上を滑った。



 この世界アルシェリアは、まだ生まれたばかり。

 けれどその中で、ひとつずつ、、

 新たな命が、自分の“居場所”を見つけ始めていた。



           続

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ