第2話:狙われた力
「ようこそ、スカベンジャーの街へ。」
街の門をくぐると、そこには鉄と蒸気にまみれた雑多な光景が広がっていた。石造りの建物と金属の廃材が混ざり合い、空には蒸気機関の煙が立ちこめている。道端では職人たちが武器や機械の修理をし、露店では古びた電子部品や弾薬が売られていた。
「ずいぶん賑やかだな……」
俺は街を見渡しながら、スカベンジャーのリーダー、グレッグの後をついて歩いた。
「まあな。この世界の技術はとうの昔に崩壊しちまったんだよ。俺たちは遺跡から機械を掘り出して、それを修理して生きてるってわけさ。」
「なるほど……」
「それより、お前のその力、よく分かってるのか?」
グレッグが俺の右腕を指差す。今は普通の腕に戻っているが、さっきの戦いではアサルトライフルに変形した。
「いや、俺にもさっぱりだ。勝手に身体が動いて……。」
「なら、一度診てもらったほうがいいな。」
グレッグは路地裏にある小さな工房の扉を叩いた。
「おい、ジーナ。面白い奴を連れてきたぞ。」
扉の向こうから現れたのは、白衣を着た女性だった。灰色のゴーグルを頭にのせ、金属製の義手を持つ彼女は、俺を一瞥して口笛を吹いた。
「へえ、こいつは珍しい。生身と機械が完全に融合してるのね。」
「ジーナはこの街で一番の技術屋だ。お前の体の仕組み、こいつなら解析できるかもな。」
ジーナは俺を椅子に座らせると、腕に小さな装置をかざした。ピピッという電子音とともに、彼女の目が驚きに見開かれる。
「……これはすごいわ。あんたの身体、《コード:エグゼキューター》の適用者だったのね。」
「なんだ、それ?」
「機械神の遺産の中でも、特別な存在よ。普通の人間が扱えるものじゃない。でも、あんたはそれと完全に適合してる……。」
ジーナはさらに調べ続けた。
「つまり、俺は……?」
「私じゃ詳しくはわからないわ。ただ、一言で言えば、"兵器"ね。」
その言葉が胸に重くのしかかった。確かに戦いでは直感的に動けたし、武器も扱えた。でも、それが"兵器"として設計されていたものだとしたら……?
「俺は……この力をどうすればいい?」
「さあね。あんた次第よ。」
その時、外から爆発音が響いた。
「何だ!?」
グレッグが窓から外を見ると、街の入り口で煙が上がっていた。銃声が響き、人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。
「くそっ、あいつらか!」
「誰だ?」
「王国軍の奴らだ!」
王国軍――この世界を支配する貴族の軍勢。彼らは遺跡の技術を独占し、反抗する者を弾圧している。
「何故、ココに……?」
「たぶん。遺跡の側での戦いで、お前の力を見られた可能性がある。」
グレッグが銃を構え、ジーナは工具を手に取った。
「お前、人と戦えるか?」
俺は自分の右手を見つめ、ゆっくりと握りしめる。
「……試してみる。」
俺たちは外へ飛び出した。
街の入り口では、王国軍の兵士たちが鎧にスチームパンク風の補助装置をつけ、ライフルを乱射していた。スカベンジャーたちも応戦しているが、戦力差は歴然だった。
「おい、見ろ! あそこにいるのが機械神の使徒だ!」
兵士の一人が俺を指差す。すぐに銃口が向けられた。
「やばいな。」
俺は瞬時に身体を前傾させると、足元からブースターのような推進力が働き、一気に間合いを詰めた。
「えっ!?」
「なっ……!?」
兵士が驚く間もなく、右腕を展開して弾丸を発射。敵の武器を撃ち抜き、ひるんだ隙にブレードを振るう。
「くそっ、なんだこいつは!?」
王国軍は隊列を立て直し、俺に向けて一斉射撃を開始した。しかし、俺の視界には敵の弾道がスローモーションのように見えている。
――回避ルート解析完了。
直感的に身体を傾け、銃弾を紙一重で避けながら敵陣へ突っ込む。
「このまま……一気にやる!」
ブレードを振り下ろし、敵の補助装置を破壊。続けざまにエネルギー弾を撃ち込むと、王国軍の部隊は半壊し、撤退を始めた。
「お、おぼえていろ……!」
兵士たちは敗走し、街に静寂が戻った。
戦闘が終わると、スカベンジャーたちが歓声を上げた。
「やったな、玲司!」
グレッグが肩を叩く。だが、俺は複雑な気持ちだった。
「……俺の力は強すぎる。」
王国軍が俺を狙うなら、街の人たちも巻き込まれる。
「お前、どうする?」
俺は空を見上げ、拳を握る。
「……決めた。俺は機械神の遺跡を巡る。自分が何者なのか、そしてこの力をどう使うべきかを知るために。」
ジーナは苦笑しながら工具を投げて寄越した。
「なら、これ持っていきな。最新式の修理キットと、説明書よ。」
「ありがとう。」
こうして俺は、新たな旅に出る決意を固めた。機械神の遺産を巡る戦争が、今まさに始まろうとしていた――。