埼玉県で伝説の髪型リーゼントを探す物語
『ケンちゃん、髪がのびたね。』
塾のクラスメイトのタクミくんが教えてくれた。ケンヂはそういえばずいぶんと長く、髪を切っていないなと思った。いつもはママが切ってくれるのだけれど、ママは最近はとてもいそがしいから、僕の髪を切ることを忘れているのだろう。
『よく見ると女の子とおなじくらいながいね。』
タクミくんは僕のとなりの席のリカちゃんの髪の毛のながさとくらべた。
『ちょっとだけリカちゃん髪の方ががながいね。』
僕もおどろいた。女の子と間違われるかもしれない。
『わたしのカチューシャ付けてみる?』
リカちゃんはもう一つカチューシャがカバンの中にあるのよと言った。えっへんと胸をはっている。
リカちゃんが僕のうしろにまわってから、カチューシャを僕の頭につけてくれた。
『女の子みたいだね。』
『女の子みたいだね。』
リカちゃんもタクミくんも同じことを言った。
『僕は男の子だから、女の子みたいな髪がたはイヤだな。男の子だからボウズにしようかな。』
僕は自分の髪を手で掬ってみた。やっぱりとても長い。
『タクミくんの髪がたはなんていうの?』
リカちゃんがタクミくんに聞いた。
『おかっぱ頭だよ。』
タクミくんがカッコいいだろう?とじまんした。
『う〜ん。』
『ふ〜ん。』
僕もリカちゃんも何も言えなかった。あまりにあっているとは思えないからだ。ハッキリ言ってカッコわるいと思っているけど、僕もリカちゃんも8才になったので、なにもいわなかった。いつまでもこどもじゃないのだから。
『タクミくんの髪はどこで切っているの?』
リカちゃんがタクミくんが気分をわるくしないように聞いた。タクミくんはよくぞきいてくれたと答えた。
『僕にはさいたま県におじちゃんがいるんだ。』
そのおじちゃんは髪を切るお仕事をしているとタクミくんが言う。
『おじちゃんはすごいんだ。どんなかみがたでもできるんだ。』
タクミくんはとても良いえがおで教えてくれた。じまんのおじさんなのだ。
『う〜ん。』
『ふ〜ん。』
その髪、似合っていないよと思った。リカちゃんも同じだと思う。
『さいたま県ってどこにあるの?』
『さいたま県ってどこにあるの?』
僕とリカちゃんは同じしつもんを同時に言った。
タクミくんはおどろいた。さいたま県を知らないなんて!!
『さいたま県ってすごいんだ!!東京よりももっともっとすごいんだ!めちゃめちゃすごいんだ!!』
タクミくんはとてもこうふんしている。僕とリカちゃんは何がすごいのか教えてとせがんだ。
『とてもおおきな音をだして走るオートバイがさいたまにはいるんだ。それもいっぱいいる。みんなで走るんだ。まるでパレードなんだ。』
へぇ、と僕はおもわず口に出した。おおきな音を出すオートバイなんて港区ではみたことがなかったからだ。リカちゃんも目がキラキラしている。その先の話が聞きたいらしい。
『さいたまにはアフリカ人じゃないのに、顔を黒く日焼けさして、おけしょうをいっぱいしている”ガングロ”と呼ばれる人たちもいる。』
『ガングロ?』
アフリカ人じゃないのに、まっ黒にするの?日本人が?とリカちゃんが聞いた。信じられないと言った。
『きっとその人たちのご両親のどちらかがアフリカの方なのよ、きっと。』
リカちゃんは信じない。
『あとさいたまの車はこうそく道路じゃないのに、じそく100kmもだすんだ。ものすごいスピードで走るんだ。』
タクミくんは力強くせつめいする。そのほかに現在はたまごっちが流行っていると教えてくれた。
『さいたま県には最高で、最強の髪がたがあるんだぜ。』
タクミくんはニヤッと笑って言った。
ちょうどケンヂくんの髪のはなしになったから言うね、と続けた。
『東京都港区のここでは見たことのない髪がたがさいたま県にはある。その名は”リーゼント”。』
”リーゼント!!”
僕とリカちゃんは大きく目を開けて見つめあった。
『僕、さいたま県に行く!』
『わたしも行く!」
『きっと大きな音のするオートバイにのって、リーゼントの頭をした人たちにあえるよ。』
僕はなんかいも見てると、タクミくんがじまんする。
『僕の髪の毛をリーゼントにすると決めた。タクミくんのおじちゃんに会いに行くんだ。』
『わたしもリーゼントにする!』
『いっしょに行こうね、リカちゃん。』
『いっしょに行こうね、ケンヂくん。』
僕とリカちゃんはたびに出る。ふたりが行ったことのない、不思議な街、さいたま県に行く。