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戦う者の名にかけて  作者: 葉桜セツ
椿、入隊編
4/4

イノセント

ご高覧いただきありがとうございます。

文章のおかしいところ、質問等あればお申し付けください。

「ん…」


朝のまぶしい光で目が覚めた椿は、見覚えのある天井を見つめながらゆっくりと体を起こした。隣にはハカセと鈴花の姿があった。二人は椿が起きたのを見て安堵したのか、厳しい表情だったものが優しい笑顔に変わっている。…もっともハカセだけはにやにやしていたが。


「起きたか。椿クン」


「ハカセさん…母は…」


「…司法解剖の結果、やはり感染時に患ったとされる暴霊の毒素に蝕まれて命を落としていた。椿クン。君は最期に母上と話をしたと言っていたね?」


「はい…そうですが…」


「暴霊ウイルスに感染して最期に意識があったのは椿クンの母上一人だけだ。他は、かかった瞬間から命を落としていると思われている。おそらく、椿クンと暴霊が戦っているときも意識があったとワシらは考えておる」


「やはり、あなた方の家系には何かがあるのかもしれませんね…不思議です」


たった一人の母を亡くした椿に気を使っているのだろうか。しばらくの間沈黙が流れた。その沈黙を破って鈴花は椿に問いかけた。


「それで椿さん。貴方にボスから直々に勧誘をするらしいんです。お手数ではありますが、こちらの部屋へ来てもらってもよろしいでしょうか?」


「はい…分かりました…」


椿は鈴花に案内されて、黒服のガタイがいい男が何人も扉の前にいる部屋へと連れられた。扉を開けたその先にいたのは…いや、誰もいなかった。


ボス。お連れいたしました」


「え…」


「あぁ、ありがとう。…すまないね、椿君」


加工が施された声のするほうを見ると、大きなダブルベッドがあり、そこに少し小柄な人影があった。声色から男か女かは分からず、この様子だといつもこんな感じなんだなと直感で思った。


「あなたは…戦者のボスですか?」


「あぁ、そうだよ。こんなところからごめんね。どうしても君と話がしたかったんだ」


不思議なことに、こんな怪しさ満点のところに連れられても不快感を覚えない。ボスの話し方が優しいからか、決して自分の正体をこちらに明らかにしなくても、怪しいとは思わなかった。


「あなたは、僕を勧誘するつもりだと鈴花さんから聞いたのですが、それは本当でしょうか?」


「あぁ、そうだよ。君のような逸材は世界中を探しても見つからないと思ったからね。それに、遠目に君を見ていたら、なんだか寂しそうだとも思ったんだよ」


「寂しい…ですか?」


「人は、無意識に自分の感情を体で表している。それはどんなに心が壊れていようとも変わらない。君は稀な貴重な逸材だ。しかし、私は大切な母をも失った君を一人にしてやりたくなかったんだよ」


「そう…ですか…」


椿は無意識に涙があふれてくる。母のように、また父のように。優しい言葉を浴びせられ、心が軽くなった。椿は、涙を腕で雑に拭き、一つの決心をした。もう、決めていたことだ。しかし、今の言葉、みんなの人情に触れ、前とは比べられない強い瞳を宿した椿は、力強く答える。


「鈴花さん…ボス。こんな弱い僕でも、戦者…みんなを守る戦う者のひとりになれますか?」


二人は顔を見合わせた(ように見えた)後、優しい笑みを浮かべ、鈴花は言った。


「勿論です椿さん。戦者は勇気ある者たちをいつでも歓迎しております」


ボスは言った。


「椿君。君は弱くない。是非とも戦者に勧誘するよ」


「ありがとうございます…」


椿がそう二人にお礼を言った瞬間、扉が豪快に開かれ、いてっと言って部屋に倒れこんできた人物がいた。椿の命の恩人、瀬菜だった。瀬菜は椿を目視したとたん、目を光らせてこっちに走ってきたかと思うと、椿を力強く抱きしめた。


「椿~!!おめでとう~!ようこそイノセントへ!」


「せ、瀬菜…く、苦し…」


「あ、ごめん!ついつい…」


「一応彼怪我人ですからね?扱いには気を付けてくださいよ?瀬菜さん」


「はぁ~い」


瀬菜は抱きしめていた椿を離し、顔を膨らませる。顔を真っ赤にした椿は無意識に瀬菜に背を向けた。


「じゃあ、椿クンの入団も決まったところで、イノセントについて説明するからこっちにくるんじゃ」


いつの間にかいたハカセにこっちじゃと手を振られ、瀬菜とともにボスに一礼してから部屋を後にする。さっきから部屋移動ばっかりじゃない?と文句を垂れる椿にまーまー!と笑顔で瀬菜は告げる。ハカセはそんな二人を笑いながら、堂々と先陣を切って移動している。そんな三人の後姿を見ながら鈴花とボスは二人残されていた。


「よろしかったのですか?ご自身が説明しなくて」


「…そうだね。でも、あの子が無事に成長するまではまだボスの仮面を取らないでおくよ」


「…そう、ですね…」


「まぁ、今日はめでたい日となった。どうだ?一杯やるかい?」


「私は酒に弱いのでこれにて失礼します」


「つれないなぁ…」


残念そうにするボスを後に、鈴花は一礼して部屋を出た。ボスはそばにいるメイドに指示を出し、見るからに高そうなワインをグラスに注ぐ。


「椿君の独立に…乾杯」


ボスはグラスをワイン瓶に当て、一人で乾杯をする。朝の光が朝から酒を飲んでいるボスを非難するように、ぎらぎらと部屋を照らしていた。






椿は、ハカセに案内された一室のベッドに倒れこんでいた。ハカセが用意してくれていた椿の一人部屋らしい。机と椅子、大きな窓にタンス。それからふかふかなベッドとキッチンや洗面所にトイレや風呂までついていた。人間の生活で必要なものがここにすべてそろっていた。しかも、清潔感があり、柔らかな朝日が窓から照らしている。椿はベッドに、瀬菜とハカセは椅子に座っていた。


「それで、椿クン。君にはイノセントという組織の仕組みや暴霊のあれこれを知ってもらわなければならない。このタブレットの説明を見てくれ」


ハカセが示したタブレットの内容はこうだ。

まず、「イノセント」は戦者の組織名で、民間人などから連絡があり次第、任務として戦いに行く。それだけでなく、日々のパトロールも当番制で行っているらしい。イノセントの戦者は全部で百人ほど。それらがすべて第一部隊、第二部隊、第三部隊、第四部隊、第五部隊と強さ順に隊があり、隊は二十人ほどで構成されている。他にも、鈴花のような医師や解呪師、裁縫師など、専門の「師」がいるそうだ。見習いの戦者もいるらしく、一年に一回ほど試験を受けて、鍛錬を積んで認められた者のみが隊に所属することが出来る。見習いも、隊の人たちと実践訓練として任務に参加することもあるらしい。つまり椿は、今見習いの戦者ということになる。


そして、暴霊はニュースで取り上げられていることはほんの一部らしく、椿が知らないことがまだまだあった。情報を明かさないのは、世間の混乱を防ぐためでもあるらしい。

暴霊はLV1~LV9まであり、出現率はLVが小さいほど多くなる。暴霊に触れるたり、攻撃を受けたりすると呪いという名の毒を受け、専門の人に解呪してもらわないと死に至る。その制限時間は一時間程度と言われている。体内にある浄力が多いほど制限時間は伸びていくそうだ。暴霊は、浄力などを使って呪いを浄化していき、浄化すれば討伐成功となる。それは、暴霊の根源は呪いだと考えられているからだそうだ。


これらがハカセが示したタブレット内の内容である。

詳しい倒し方や力の使い方などは、鍛錬を積むときに基本的な知識として教えられるそうだ。

因みに、鍛錬が始まるのは、椿の体の休養も兼ねて一週間後らしい。そこで、新たな仲間メンバーと初の面会が行われるそうだ。


「なるほど…。それ送ってもらってもいいですか?ちゃんと確かめておきたいし」


「おう。分かった。ほれ、スマホ貸せスマホ」


ハカセにボロボロのスマホを渡すと、ゲッと顔をしかめた。瀬菜も同様である。割れた画面、バキバキのカバー、バッテリーは本体に入り切っておらず、機種もかなり前のものだった。


「椿クン…それ、ボロボロ…」


「仕方ないじゃないですか。僕のおばさんのお古なんですから」


椿が仕方なさそうにそう言うと、ハカセはうーん、と顔をしかめた後、いいこと考えた!と言って椿のスマホを手に取り、ポケットに入れた。


「椿クン。ワシが君の入団祝いにスマホを買ってやろう。これのデータを移すから預かるな!いいじゃろ?」


「で、でも高いものですし…」


「なあに、本体だけじゃ。大したことはない。利用料金は自分で払うのじゃぞ?んじゃ!」


ハカセはそれだけ告げた後、じゃあなぁ~とのんきに告げ、風のような速さで椿の部屋を去っていった。瀬菜もハカセの発言を聞いて、少し興奮気味で椿に食い掛った。


「私も椿にお祝いのプレゼントわたそっと!そうと決まったら!じゃあね椿!今日はゆっくり休んで!」


「えぇ…」


瀬菜も風のようにしてハカセの後を追い、椿は部屋にポツンと一人残された。椿はしばらく固まっていたが、再びベッドに体を鎮める。


「疲れたし、今日はもう寝るか…」


椿はカーテンを閉め、ゆっくりと意識を手放した。

新たな仲間、イノセントの鍛錬、全く新しい人生が始まる予感がした。

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