星を紡ぐ
ご高覧いただきありがとうございます。
文章のおかしなところ、質問等ありましたらお申し付けください。
家の前に着いた椿は、車で送ってくれた全身黒服の男の人たちに頭を下げながら、家の扉を開ける。カチャッと気のいい音が鳴った後、ギイィィ…と重い扉を開け、靴を脱いだ後、とりあえず何かを腹に納めるべく、リビングのキッチンへと向かう。
もうすっかり日は暮れ、夜の十一時となっていた。朝の早い母親はもう寝ているかと思いきや、リビングの明かりはまだついていた。
(明かりがついてる…母さんまだリビングにいたんだ…母さん早起き苦手なのに…消し忘れかな)
不審に思ってリビングの扉を開けると、そこには母親の姿はなく、いたのは母親の体を借りて佇む暴霊の姿だった。
「つうあばぎきいぃいい」
「う、うわぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁ!!」
ただ、純粋な恐怖心が椿の体に襲い掛かる。
思いもしなかった。母が暴霊になっていることなど。
(僕の帰りが遅かったせいで母さんは…)
下を向きたくなる顔を無理やりに前を向かせ、状況を整理する。
母の顔は青白く、生きているかもわからない状況だ。母を操る暴霊は純白の白髪で、血が付いた真っ白な着物を着ていた。腰には刀を差しており、目は血のように真っ赤だった。暴霊は椿を見るなり、赤い目をもっと赤くして腰の刀を抜いて椿に向かって構える。
「ちょっ…」
椿は床に落ちていたフライパンを握って、怯えながら後退する。そして、片手にはスマートフォンを持ち、片手ですらすらと先ほどポケットに入れたメモの番号に電話を掛ける。呼び出し音が数回なったのちに、スピーカーにして床に滑らせる。
片手が自由になった椿は、片手に持っていたフライパンを両手で持って衝撃に備えた。暴霊は椿を一睨みした後、刀に手を滑らせて大きく跳躍。刀を突き出し、椿が持つフライパンを一刺しした。
「ぐぅっ…!」
椿は持っていたフライパンを早々に手放し、ソファーの影に隠れた。その時、さっきまで鳴り響いていた呼び出し音が鳴りやみ、もしもし?という声が聞こえる。
「もしもし瀬菜?!」
「椿?白崎先生が居なかったから私が代わりに出たんだけど…どうしたの?何かあった?」
椿の声色から緊急時だと悟ったのか、さっきの声とは打って変わって落ち着いた声色に変わる。椿は、家の中で暴霊の攻撃から逃れながらスマホに向かって話しかける。
「母さんがっ、ぼ、暴霊になっちゃって…。二度目になっちゃうけど、た、すけてほしい…」
「分かった。全速力でそちらに向かう。推定時間は三分。それまで耐えていてほしい。出来る?」
すっかり仕事の声になった瀬菜は、優しく椿に問いかける。
「頑張ってみる。分かんないけど…」
「了。通話は私の通信機につなぐから、何かあったら呼びかけて」
「分かった」
そう椿が返すと、瀬菜はバタバタとどこかに走っていったのちに、すぐに外の風の声が聞こえた。
(瀬菜が来るまでの我慢だ…)
椿はお玉を手に、避けきれずに受けた暴霊の刀の切り傷でボロボロになった体を懸命に動かす。椿が横に滑って暴霊の剣撃を避けたのち、勢い余って机に激突した。その机を暴霊はバラバラに切り刻み、椿の二の腕と胴を刀が掠る。
椿は自分の有り余るアニメの知識と、椿自身の人間の本能で暴霊の攻撃を避け続ける。だが、所詮ただの一般高校生。攻撃は完全に避けられず、ところどころに痛々しい刀傷が身体に残っていた。刀傷は赤い血が垂れるわけでもなく、禍々しいオーラと共に傷口が濃い紫色に染まっていた。息も上がり、持ちこたえれるのにも限界が近づいてきていた。
「瀬菜っ、あとどれくらいかかりそう?」
「あと…一分半ちょいかな…私が現場に行けるまで物陰に隠れたりとかして何とか暴霊との正面衝突だけは避けてて!暴霊は感覚で私たちのことを見つけてくるから、いろんなところに隠れてて。…ほんとに大丈夫?」
「うん、大丈夫だっ…よ…」
「全速力で行くからもうちょっと待ってて!」
「了解っ…!」
椿はそう強気で言いつつも、額にびっしりと冷や汗をかきながら解決策を練る。
(もう家具がほとんど残ってないし…武器もない…部屋を移すしか…でも、あの位置のスマホをどうやって取れば…)
瀬菜との唯一の連絡手段。連絡が取れないともしものことがあったら困るだろう。そう思い、窓の近くまで飛ばされてしまったスマホを見る。しかし、椿は早々にスマホをあきらめ、後方に移動し、暴霊に向かって走った。暴霊は椿の行動に困惑しつつも、刀を椿に向かって振り下ろす。椿はその暴霊の股下を滑って駆け抜け、ドアを思い切り開けた。
向かう先は和室。椿のお父さんの仏壇があるところだ。決して広くないこの部屋にほかの部屋の壁を突き破って、瞬く間に暴霊がやってくる。媒体である母は暴霊に引きずられるようにして扉の前にやってきて、やがて止まった。椿は、仏壇の隣にあるタンスを思い切り引っ張り、それを引きずりながら暴霊に向かって突進する。
「うりあぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!」
椿は、暴霊に向かって吠えながらタンスを暴霊に叩きつける。はぁ、はぁ、と荒い息をしながら、念のため暴霊から距離をとる。
「やったか…?」
問題のタンスは一瞬制止したが、やがてバラバラに引き裂かれて暴霊が現れた。そして椿をも裂こうと刀を振り下ろす。さっきのが最終手段だった椿は、地に手を付けながら母親と瀬菜に謝る。
「ごめん…母さん…瀬菜…母さんのこと守るって約束したのに…」
あれ?いつ母さんとそんな約束したんだっけ…。そう思った瞬間、窓ガラスが粉々に割れ散って、外からある人物が転がり込んできた。
「…瀬菜?」
「もう大丈夫だよ、椿。あとは任せて」
瀬菜はこれまでに見たこともない顔で暴霊に向かって吐き捨てる。
「もう二度と、私のいる戦場で戦死者は出さない!!覚悟して!」
暴霊はそんな瀬菜に一瞬躊躇ったが、すぐに刀を瀬菜に突き出してきた。そんな暴霊に躊躇いもせず、瀬菜は腰の刀に手をかけて息を吐く。
「浄力術一等式 白鳳」
静かに、そして冷徹に、その言葉を吐いた瀬菜は、剣に白い光を纏わせ、暴霊に向かって突進する。華麗に暴霊の剣撃を避け、暴霊の懐に重く鮮やかな剣撃を叩き込む。
「はあぁぁぁぁあぁぁぁぁっっ!!」
白い聖なる鳳が暴霊を包み込む。覇気を込めた瀬菜の剣撃が暴霊の体を真っ二つに裂き、暴霊は少しだけうめき声をあげた後、淡い光となって消えた。瀬菜は剣を鞘にしまい、怪我だらけの椿に駆け寄る。
「椿、大丈夫?」
「…さん…おかあ…さん…」
椿は虚ろな目で母親を見つめながら体を引きづって少しづつ母親の元へ駆け寄る。瀬菜はそんな椿を優しい目で見守った。遅れて到着した隊員たちにも合図を出し、家の外で待機させる。
「…椿…?」
「お母さん…」
「椿…ごめんね…い、っぱい怪我、させちゃ、って…」
「ううん…大丈夫だよ…お母さんも生きて帰れるよね…?」
母は少し黙った後、椿の手を握ってこう言った。
「椿。貴方は…真実を知る覚悟がある?」
「…え?」
「椿…お母さんはこっちで検査に掛ける必要がある…もう…行かないと…」
母との最期の話が終わり、息絶えた母を見て瀬菜が悲しそうにそう椿に言う。椿は、涙を袖で拭い、無理やり笑顔を作って瀬菜に笑いかけた。
「うん。ありがとう。瀬菜。それと…二度も助けてくれてありがとう」
「ううん。いいの。私は暴霊を倒すことが出来ても宿主を助けることは出来ないから…」
「それでも瀬菜は僕の命の恩人だよ。ほんとにありがとう」
そう言うと瀬菜は頬を赤らめて、恥ずかしそうに、そして嬉しそうにほほ笑んだ。
椿はもう一度溢れてきた涙を堪えながら星空を見上げる。星は、こんなことがあったのにもかかわらず、いつもの輝かしい光を見せていた。
(お母さん…この涙でお母さんの死を悲しむのは最後にする…必ず戦者になって母さんのような人を救って見せる…!)
椿は瀬菜に背を借りながら、戦者の救護班が事前に用意した車に乗り込む。気力を使い果たした椿は車の中で意識を手放した。
最近更新が遅くなってしまい、申し訳ございません。
少しづつですが、話を書き進めているので更新をお待ちください。
追記 話を少し変更しました。




