戦う者の名は
ご高覧いただきありがとうございます。
文章のおかしいところ、質問等あればお申し付けください。
「貴方は…」
「自己紹介は後!それよりそこの暴霊を何とかしなくちゃ…」
「何とかって…そんなことしたら君、死んじゃうよ…!」
「だいじょーぶだいじょーぶ。だって私はあいつと戦うのが仕事だから!」
そういう彼女の格好には見覚えがあった。清潔感のある白をベースとした隊服。茶色のマフラーのようなものを首に巻き、腰には見たこともないような剣が差してある。テレビで何度も見かけた、椿がずっとあこがれ続けた存在…。そう。彼女は「戦者」だった。
彼女は腰に差していた剣に手を置き、暴霊を睨みつけた。すうぅぅぅ…と深呼吸する息遣いが辺りに響く。そして、薄桃色のような色をした瞳が、瞬く間に緑へと変貌した。
そして、暴霊に向かって勢いよく突進。左右の高い壁を蹴って利用し、素早く暴霊に接近した。そして、腰に差している剣を抜き、暴霊の首に向かって一閃。血が出ることもなく、暴霊の首が地面へストンと落ちた。そして、首を落とされた暴霊は淡い光となって空へ消えていった。
椿はさっきまで痛かった腕も身体も忘れてただ、彼女の動きに見とれていた。
「よしっ!任務達成っと!」
「す、すごい…」
椿と年はさほど違わなさそうな彼女は、栗色の髪の毛をひらひらとさせながら嬉しそうに飛び跳ねている。さっき緑色に変わっていた瞳は元の薄桃色に変わっていた。
椿は汗と涙と鼻水でぐしょぐしょの顔を拭き、もう一度彼女を見た。彼女の格好は間違いなく戦者だ。そして、耳に掛けてあるマイクで誰かと連絡を取っているようである。巫女服のような隊服は改造が施されているようで、ニュースで見たものとは異なっていた。ひらひらと靡く彼女の栗色の髪は、桜のように綺麗で、椿は只々彼女を「美しいな。」
そう思った。
「…えぇ、そうです。では、よろしくお願いしますね。…よしっ!これで大丈夫だよ!君、名前は?」
「あ、えっと、さ、佐東椿です…」
「椿ね!よろしく!私は甘百合瀬菜!瀬菜でいいよ!」
「せ、瀬菜だね。よ、よろしく…」
おどおどする椿を横目に、瀬菜は右手の人差し指を立て、グイッと椿に指さした。
「丁度私がこの辺通ってたから良かったけど、椿も危ないことしたらだめだよ?」
「ご、ごめん…」
母親以外と喋ることに慣れていない椿は、不自然に瀬菜と目を逸らしてしまう。色々聞くのも失礼だと承知していたが、この無言の空気感に堪えられるほど、椿は図太い性格ではない。どうやって帰ろうかと思って辺りをキョロキョロしていたら、不意に意識が揺らいだ。立っていることもままならなくなり、地面へと倒れる。
「ちょっ…!椿!…ばき…!つ…き…」
意識を保ってられなくなった椿はゆっくりと目を閉じた。
椿はまた、夢を見た。だが、いつもの夢と違って椅子に座っていない。いつも足元にあった黒の円もなかった。そして、広い青空の下に椿は一人立っていた。霧も晴れた快晴の中、いつもの少女が歩いてきた。いつもの夢と違い、少女の顔がはっきりと見える。髪の色と同じ目をした少女は、ゆっくりと椿の元へ歩いてくる。
「君は…誰なんだ?」
いつもと違い声が出ることに気づいた椿は、そう少女に問いかける。少女は一瞬戸惑いを見せた後、優しく微笑んだ。
「…私はシエル。…して、私を…探して」
…分かる。彼女の声も、姿も、何もかも認知することが出来る。やっぱり、いつもとは違う何かが起こっている。そう椿は確信した。
「シエル…探してってどういう意味?」
「…そのままの意味。君がもし、真実を知りたかったのなら」
「真実?それってどういう…」
「…じゃあね。もうこの夢は二度度見ないから安心して」
「えっ…まっ…」
椿は急いで少女を追いかけようとしたが、地面がぬかるんでいて動けない。ぬかるんだ地面に飲まれた椿はそのまま地面の中へと消えていった。
「…ん…」
椿は、真っ白なベッドで目覚めた。椿はまだ活性化していない頭をフル回転させ、今日あった出来事を整理する。
「確か僕は、暴霊に襲われて…」
「その通りだよ、椿クン」
椿ははっと声のしたほうを見ると、白衣を着崩した猫目の子供が隣に座っていた。長い髪を顔の横で二つに束ねており、態度が無駄に偉そうだ。
「えっと…どちら様でしょうか…」
「なんと!ワシのことを知らないとは!勉強不足だよ、椿クン」
「え、えっと…」
「ハカセの言っていることをあまり真に受けないほうがいいと思うよ椿」
そう言って現れたのは椿を助けてくれた命の恩人瀬菜だった。両手には花を抱えており、どうやら椿の隣にある花瓶の花を変えに来たらしい。
「えっと、ここは…?」
「あぁ、ここは私たちのアジトの病室。気分はどう?」
「気分は…大丈夫だよ」
そう言って椿はベッドから起き上がった。暴霊の攻撃を受けて痛かったはずの腕は綺麗に包帯が巻かれており、痛みもない。動かしても平気だ。
「さて、椿クン。病み上がりで悪いんだが、君に話がある。ついてきてくれないか?」
「わ、わかりました…」
椿はハカセとやらが案内した場所へと移動した。移動先は会議室で、中に入った椿は手前の椅子に座った。椿の前にハカセと瀬菜がゆっくりと腰掛ける。
「それで、ハカセさん。話とは一体…」
「まあまあ椿クン。詳しいことは彼女から話を聞こうじゃないか」
そういうと、会議室の扉が開き、白衣を着て、藍色の髪を後ろで団子にした女性が現れた。そして、細くしなやかな指を重ねて一礼。そのあとにハカセの隣に腰掛けた。
「椿さん、はじめまして。私は白崎鈴花。戦者たちの医師を担当させてもらっています。今回、貴方を呼ばせてもらったのは、貴方の稀な体質について説明させてもらいたかったからです」
「僕の…体質?」
「えぇ。人間は本来、核というものを必ず持っています。そこには善霊が二体宿っており、暴霊ウイルスの感染源にあたるところです。核は魂が宿っているため、人間の本質的なものに当たります。しかし、貴方に核が有されていないことが判明しました」
「え…つまり、僕は暴霊ウイルスに感染しないと?」
「その通りです。私はこれまで何人もの患者を診てきましたが、核のない人は初めてです。ハカセでさえもこの現象の原因は分からないと」
「つまり、椿クンは日本…いや、世界から見てもかなり稀な存在だ。今回、君が暴霊ウイルスに襲われたのにも何か関係があるのではないかとワシは踏んでいる」
「さらに、誠に勝手ながら貴方が気絶している間に貴方の体に対する検査や個人情報等も調べさせてもらいました」
「えっ…」
「大丈夫じゃ。悪用はせぬ。続けろ、白崎クン」
「はい。貴方の体内には溢れるくらい大きな浄力が眠っています。この量は数値化すれば普通の数十倍にもなることでしょう。家族構成でも不審なところは無し…。この事実からも貴方が稀な存在であることを証明しています」
「はぁ…」
「つきましては椿さん。ハカセと瀬菜さんとで話し合った結果、貴方を戦者に勧誘させてもらいたく思っています」
「え…」
どういうことだ?いたって普通だと思っていた僕が稀な存在?そして戦者に勧誘したいと…。だめだ、頭が混乱してきた。
「お返事はすぐでなくても構いません。貴方の母上と相談の上、この番号にお知らせいただければ」
椿は鈴花から、連絡先が書かれたメモを受け取る。しっかりとメモを受け取った椿は制服のズボンに丁寧に入れた。
「じゃあ、今日は帰っても大丈夫だから、うちの者に言って家まで送っていってあげるよ!」
瀬菜はニコッと元気に笑い、椿の手を引いて玄関へと向かっていく。
…僕だって戦者に憧れていたし、憧れないわけがない。今だって入団させてください!と勢いよく言おうとする口を懸命に抑えているところだ。
安全志向の母親が、危険といつだって隣り合わせな戦者にそう易々といいよ!と返事してくれるわけがない。家族会議を開き、入念な話し合いが必要になるだろう。
そうこう考えている間に、あっという間に玄関にたどり着いた。玄関には明らかに強そうなガタイのいい黒スーツの男が二人、玄関の警備にあたっていた。
「じゃ!いい返事を待ってるよ」
「ありがとう…」
椿は高級そうな車へと乗りこむ。椿はしばらく考えた後、車の窓を開けて手をメガホンの形にして言った。
「助けてくれてありがとう!!」
椿が大声でそういうと、瀬菜は目を大きく見開いた後、優しく微笑み、大きく手を振って言った。
「どういたしまして~!!」
すっかり暗くなった星が瞬く空に二人の声がいつまでも響いていた。
追記 内容を少し変更しました。




