暴霊ウイルス
初めての小説投稿です。
文章のおかしなところ、質問等あれば是非お申し付けください。
白い、光を見た。
真っ暗な視界に光り輝く一点の白い光。
その光は、水を得た魚のようにどんどん視界に広がってゆく。
嗚呼、行かないで。一人にしないで。
光にそう願う。
それでも光はどんどん広がってゆく。
そしてふと猛烈な寒気を感じ、はっと目が覚めた。
さっきまでベッドに横になっていた体は、いつの間にか今にも壊れそうなくらいボロボロな椅子に座っていた。体は金縛りがかかったように指一本動かせない。足元には直径三十センチほどの星空が広がる円があった。その円は恐ろしいくらい深い黒で、今にも飲み込まれてしまいそうだった。はるか向こうには霧で霞んだ青空が広がっていた。
(あぁ…またこの夢か…)
最近、この夢を何度も見る。月に一回ほどだったこの夢が、二週間に一回、一週間に一回と段々頻度が頻繁になってきていた。最近では毎日のようにこの夢を見る。夢の内容も、展開も、何一つ変わらない。そんな夢だ。
確か、目が覚めたのが引金となり、金色の色をした髪の幼い女の子が現れるはずだ。そう思ったとたん、霧の向こうからいつもの女の子が現れた。
足取りも、様子もやはりいつもと変わらない。
(ほら、やっぱり…)
変わることのない同じ夢に嫌悪感を抱く。そんな気持ちはつゆ知らず、少女はゆっくりとした足取りで近づいてくる。顔色も見えないため、余計に恐ろしい。少女は椅子の前まで歩いた後、目の前で止まり、口をパクパクと動かす。さっきの笑顔も消え、今度は何か焦っているような感じがした。
少女の様子から察するに、どうやら何かを言っているらしい。しかし、少女の声は靄がかかっているかのようで、うまく聞き取れない。頭に入らないような、そんな感じだ。
(あのー…なんかうまく聞き取れないんですけど…)
そう少女に言うと、なんだか悲しんだような様子を見せ、もう一度来た時のような笑顔に戻る。そして、金色の髪をサッと揺らし、小さな手を左右に振った。小さな口を懸命にパクパクと動かし、また霧がかった青空の下に歩みを進める。
(ま、た、ね、…?)
今度ははっきりと聞き取れた少女の声も頭に靄がかかっているようで思い出せない。少女を追いかけようにも体がうまく動かない。そうだ。金縛りにあってたんだった。
一ミリも動かない体に早々に諦め、ただひたすらに少女の背中を見守った。そして、少女の背中が見えなくなっった途端、突如、猛烈な眠気に襲われた。目を開けていられない眠気に抗えず、ゆっくりとその意識を手放した。
「…とう…佐東…佐東椿!!」
「うわあぁぁぁっ!はい!」
「授業中に熟睡するな!!そしてその汚いよだれを拭け!!」
「えっ!?あっ、えっと…すみません」
「授業中の昼寝は評価ー10点だからな」
「えっ、マジですか…」
こんなくだらない夢で評価こんなに下げられるのかよ…とがっくり肩を落とした椿に前の席の羽麻岡誠が揺り椅子をしながらニヤリと笑みを浮かべる。
「残念だったな~椿。あの鬼教師の鬼坂に目ぇつけられるとはな」
「別に誠が起こしてくれてもよかったのに…」
「いや、授業中に後ろなんか向かねぇよ。不真面目でも鬼坂に目つけられたら終わりだからなー。それにしても椿が居眠りなんて珍しいな。徹夜でもした?」
「いやー、何でだろうねー」
椿は、ようやく活性化してきた頭と視界を動かし、口から垂れていた不格好なよだれを服の袖で拭く。そして教科書を開け、一切写していない板書を写すべく、シャーペンを握った。しかし、椿が寝ている間に大量に写された板書にやる気をそがれ、もう一度シャーペンを置いた。そして、椿の隣に位置する窓に目を向ける。
入学シーズンの春。外は桜が満開で、風で花びらが舞っている。木々はゆらゆらと靡き、道を歩く人々が新しい服に身を包んでいた。
(きれーだな…でもなんだか寂しい気分…)
すっかり置いていかれた気分になった椿は窓から目をそらした。
今の日本は、暴霊ウイルスという正体不明の病が流行し、歴史上最大の危機に見舞われていた。
三年前、突如大流行した暴霊ウイルスは日本を拠点に感染者が広がっていた。
その数、およそ五百万人以上。赤子も老人も若者も、老若男女関係なしにだ。
外国で発症する日本人もいるらしく、外国人の感染者はいまだゼロ。そのお陰で今や日本は世界に見放された国だともいえる。
感染源はいまだ不明だが、「ストレスを抱え込みすぎたものがかかりやすい傾向にある」という説が濃厚らしい。しかし、暴霊ウイルスの全貌はまだ明らかになっていない。
しかし、暴霊ウイルスに感染した人間…暴霊と命を懸けて戦う非政府組織がある。その者たちを見た者たちは敬意をこめてこう呼んだ。
「戦者」と。
命がけで暴霊と戦うその姿を見て椿はいつの間にかああいう風になりたいと思うようになっていた。
「今日の授業はここまで!復習を忘れずにな!じゃあ、号令!」
「しせーい、れーい」
『ありがとうございましたー』
日直のやる気のない号令と共に授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。その音を聞いてクラスメイト達は次々に帰りの支度を始める。
「おーい。椿ー。帰ろうぜー」
「うん。帰ろ」
昼寝をしてすっきりした椿とは正反対に、あくびを噛み殺しながら歩く誠に笑いながら、その背中を思い切りひっぱたいた。
佐東椿。十七歳。恋人はいない。唯一友達と呼べるのは羽麻岡誠くらいという何とも微妙な人生を送っている。部活動にも所属していないし、学年トップレベルに頭がいいわけでもない。運動もそこそこ出来るくらいだし、光り輝くくらいのアニメの王子様設定のような外見でもない。どこにでもいるただの一般人だ。
しかし、さらりと伸びた手足、清潔感のある黒曜石のようなさらさらとした髪、澄んだ青い瞳など、見た目はよーく見たらそこそこにいいということは本人は知る由もないだろう。
誠と帰路につくこと二十分。
住宅街に入った二人は、いつもの曲がり角で別れを告げ、今時珍しい赤い屋根の家に向かう。そこが椿の家だ。
「ただいまー」
いつもの返事の帰ってこない家に着いた椿は一階の和室へと向かう。そして、父の写真が飾られた仏壇に手を合わせる。
椿の父親は椿が五歳のころに亡くなったという。出張中に事故に巻き込まれて亡くなったそうだ。当時五歳の椿はそんなことを覚えている訳もなく、ただただ、毎日帰った後に父の仏壇にこうして手を合わせている。
「ただいま~」
「おかえり~」
玄関から母の声が聞こえる。今日が金曜日だからか、いつもより二時間程度早い帰宅だ。
「あら、椿。帰ってたのね」
母はリビングの机に仕事用の鞄を置きながら、椿のいる和室へと向かう。
「母さんこそ早かったね」
「金曜日だからね。で、さっそく悪いんだけど…」
そう言って母は片手に持っているマイバッグを椿に手渡す。
「買い出しよろしく!」
「えー、またか…」
「まあ、いいじゃない。男でも家事は手伝うものよ?力仕事は椿に任せた!」
「分かったよ…」
椿は渋々マイバックと財布とメモを母から預かり、家に近いスーパーへと急いだ。
「風が気持ちいいなー」
春特有の暖かな風がほんのりと心地よい。桜並木の道に差し掛かると、花びらが風に乗って舞い上がり、椿にもたくさんの花びらが舞いおりてきた。近所に住んでいると思われる家族連れは散歩中なのか写真を撮ったり子供は花びらを懸命に集めていた。
「さーて。急がねぇと母さんに遅いって言われるからなー。ちょっと急ぐか」
椿は少し足早でスーパーに向かった。
さっきまで青かった空は、どんよりと曇り、やがて雨がぽつぽつと降ってきた。椿は母からはんば無理やり持たれた傘を開いて目の前にあるスーパーへ急ぐ。
「あっぶねー。急いできてよかったー」
家の近くのスーパーはタイムセール商品目当てであろう仕事終わりの人たちでいっぱいだった。椿は頼まれたものを素早く次々とかごに入れていき、人混みをうまく避けながら買い物を手早く済ます。日々、母親に買い物に行かされていた椿は、人混みをうまく避ける術を身に着けていた。買い物に時間をかけていたら母親にどんな小言を言われるか、たまったもんじゃない。
椿は会計を済ませた商品をマイバッグに詰め込み、傘を片手に家へと急ぐ。
「ん…?」
椿は裏路地の方で気になる人影を見つけた。二人組に連れていかれている細身のサラリーマンの男。喧嘩だろうか。この平和な世の中でたまったもんじゃない。こういうのは関わらないのが一番だ。そう思った。しかし、椿のちょっとした正義感がそれを許してくれなかった。
「あのー…」
突然現れた椿に二人組が明らかに動揺を見せる。その奥にいる細身の男は青白い顔でじっと鞄を握りしめている。
二人組は若く、恐らく大学生か高校生だろう。急いで警察に…と思い顔をよく見ると二人組の一人は椿の唯一の友達、羽麻岡誠だった。隣には、学校一の不良で有名な瀬田悠大がいた。
「誠…?誠だよな…?なぁ、どういうことだよ!」
誠は一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐにニヤリと先ほどサラリーマンに向けていた嫌な笑みを椿に向けた。
「まさか気づかれるとは思わなかったよ。椿。こっちの誠で会うのは初めてだな」
「ねぇ、何でこんなことしてんの…?確かに誠はちょっとお調子者だったけどこんなことする人じゃないだろ…?」
「分かってねぇのかお前。つまりはな、お前は騙されたんだよ」
「え…」
誠の隣にいる悠大がにやにやしながらこちらを見てくる。誠も同じ顔だった。
(騙されていた…?誠が僕に噓をついていたってことなのか…?」
動揺する椿に笑いこけながら二人は順に説明する。
「俺たちはカモを探してただけなんだよw」
「そうそう。お前みたいに弱っちい奴から金を巻き上げるためになw」
「このひょろひょろのサラリーマンもお前と同じだw」
(そっか。僕は騙されていたんだ…バカバカしい…)
溢れてくる涙を下を向いて堪える。しかし、悔しさのあまり溢れてくる涙が止まらない。持っていたマイバッグが手からするりと落ちる。そして、落ちたマイバッグを何者かが切り裂いた。
『はっ?』
三人はさっきまでのことも忘れ、後ろを振り向く。
そのとたん、椿は無意識で地面へと転がった。すると、さっきまで椿が居た地面が大きく削れ、さっきまで青白い顔をしていた細身のサラリーマンの男の背には、血の涙を流す天使が男の体を操っていた。
さっきまで生き生きしていた二人も、さっきのサラリーマンのように青い顔をしている。
「ちょっ…これって暴霊とかいうやつじゃ…」
「初めて見た…」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!逃げるぞ!」
椿はさんざん悪口を吐かれた二人組を庇うように前に立ち、持っていた傘を武器にした。しかし、誠と悠大のさっきの威勢はどこへやら、二人そろって腰を抜かして怯えていた。
椿と暴霊はお互い睨みあった。そして、椿は地面を蹴って大きく突進。暴霊に傘を思い切り突き立てた。しかし、傘は暴霊の体に触れたとたんドロドロと溶けていった。
「ちょっ…!」
椿は溶けていく傘を手放してすぐに後退しようとした。しかし、傘を突き立てられた暴霊がただで返してくれるほど甘くはなかった。天使が持っていた針が椿の腕を掠り、椿は地面に思い切り転がった。
「ぐうっ…!」
腕が焼けるように熱い。体が転がった衝撃でジンジンと痛む。額には冷や汗が滲み、意識はもうろうとしてくる。無理をした分の椿の活動限界が近づいてきていた。
暴霊の天使はそんな椿を見て、ニヤリと笑みを浮かべる。そして、男を動かし、椿にとどめを刺そうとゆっくり近づいてきた。
(あぁ、こんなことなら陸上部でもバスケ部でも入っておくべきだった…死にたくない…こんな暗いところで…彼女だって作れてないのに…!)
やりきれなかった人生に悔恨の念を抱く。刻々と迫る来る暴霊に警報音が頭の中で鳴り続ける。朦朧とする意識の中、頭には一人残してきてしまった母のことを思い浮かべた。
「ごめん…母さん」
痛みを覚悟でぎゅっと目をつぶる。しかし、いつまで経っても痛みが襲ってこない。汗と涙と鼻水でベタベタになった顔を恐る恐る上げると、一人の少女が椿を庇うように立っていた。
「ねぇ、君。大丈夫?」
次回作はいつになるか分かりません。
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追記 話を少しばかり変更しました。




