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09-リナリアの困惑

 あの斗真だって言うの? 前世で私を裏切った。


 まさか第三王子に斗真が転生したなんて誰が信じようか?


 でも何故? 私を捜してたってどういうこと? 斗真は私を裏切ったじゃない! 転生してまで捜すのなんておかしいわ。


「君は誤解している。俺は君を裏切っていない。彼女は俺の幼馴染みで付き合ってはいない」

「へぇー、斗真は幼馴染みの女を自分の部屋に簡単に入れるんだ。それに、斗真はあの時まだ帰ってきてなかったから。あの娘は斗真のマンションのカードキーを持っていたってことよね。それはどう説明するの?」


「あれは俺の母親が勝手にあいつに渡したんだ」

「ふーん、あいつって随分親しそうに言うんだ。そうやって人のせいにすれば私が納得するとでも思ったの? 生憎、私はもう貴方に騙されないわ!」


 私はタダの嫉妬心と知りつつ、斗真の言葉に憤りを感じた。私があのとき、どんなに絶望したのか、斗真には絶対にわからない。


 震える声が斗真を糾弾する。


「違う! 本当に騙してなんかいない! 愛しているんだ今でも。君だけなんだ。君を見つけたとき俺がどんなに歓喜に震えたか分かるか? どんなに君を捜したか……」

「勝手なことを言わないで! 私はもう貴方を忘れたんだから。もう貴方に絆されないんだから!」

「じゃあ、どうして君は涙を流しているんだ?」


 私は斗真の言葉にハッとして手で頬を触れた。そうしてやっと斗真を糾弾しながらも自分が泣いていたことに気付いた。


 どうしてこんなに哀しいの? あれはもう既に封印した前世の記憶なのに。それでも、私の瞳からはあとからあとから涙がこぼれてきた。


 ポタポタと床に落ちる涙は私の哀しみを洗い流すばかりか、忘れ去った記憶を連れてくるように止まることはなかった。


「泣くな、リナ。あれは勝手に俺の母親がカードキーを渡したんだ。あの女と俺に既成事実を作るために」


 いつの間にか私はすっぽりと斗真の腕の中に包まれていた。泣きじゃくる私の頭を優しく撫でる掌の温かさにやっと心が落ち着き、斗真の言った言葉が頭の中に浸透してきた。


 既成事実を作る為に……? どういうこと?


 どうして斗真の母親が、そこまでして私を排除しようとするの?


「俺の祖父はグループ病院の創設者の一人で理事長だった。そして、父親は総合病院の院長、母親は医薬会社の令嬢だった。母親は選民意識が強く、それは俺の結婚相手にまでこだわっていたんだ。婚約者は生まれたときからもう既に決められていたんだ」


 私は顔を上げ斗真の瞳を見つめた。


 どこかの病院の息子だったことは人づてに聞いていたけどまさかグループ病院の血筋だったなんて知らなかった。それにしても生まれたときから婚約者がいたなんて一般庶民だった私とはまるで違う世界の人間だとしか思えなかった。


 今世でだって生まれたときから婚約者が決められていることなんて稀なのにどこの時代錯誤の世界よ!


 やっぱり私は斗真の言うことを真っ正直に信じることはできなかった。


「俺の幼馴染みの婚約者は母の従姉妹の娘だった。俺が生まれて直ぐにもし従姉妹の子供が女だったら俺と婚約させると言う事になったらしい。だから、幼い頃からしょっちゅう家を行き来して交流させられていたんだ」

 斗真は眉間に皺を寄せながら苦しそうな表情でそう述べた。


「最初はずっと母親同士が仲が良いために交流していたと思っていたんだ。でも、ある時からなぜか俺たちを二人きりにしたり、一緒に出かけるように促されたりしたんだ。おかしいと思って問いただしたら、俺達を結婚させる魂胆だったことが分かった。俺は結婚相手は自分で決めると言ったんだが中々分かっては貰えなかった」


 言葉を続ける斗真に私は何て言い返したらいいのか分からなかった。


「だから、俺は技術習得を理由に、しばらく留学することにしたんだ。それで諦めてくれるかと思っていたのにまさかあんな強硬手段に出られるとは……」


 斗真は唇を噛みしめながら悔しそうな表情をした。


「リナ、今世では絶対に幸せにする。だから俺の婚約者になって。」


 斗真はそう言って強く抱きしめてきたが、私は混乱のあまり、人形のように微動だにできなかった。斗真はゆっくりと腕の力を緩め、私の瞳を見つめるのだった。私の返事を期待するかのように……


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