18-エピローグ
振り返ると穏やかな笑みを湛えるトーマの顔が目に入った。その瞳の奥には静かな怒りが宿っている様で私は固唾を呑んでトーマの次の言葉を待った。
「俺は君の婚約者になった覚えはないよね?」
トーマの言葉にキャロライン様は息を呑んで青ざめた。
「トーマス殿下……あっ、あの私……」
「そういう勝手な噂を流されると困るんだよね。俺の婚約者はリナリアだけだし、今後リナリア以外を愛することはないからね。分かっていると想うけどもしリナリアを虐めたり貶めたりすればどうなるか分かっているだろうね」
一見すると笑みを浮かべているのにトーマは容赦のない言葉を浴びせた。
「「「もっ、申し訳ございませんでした」」」
キャロライン達三人は瞳に涙を浮かべ震えながら謝罪の言葉を述べ、腰が折れるかと思うほどに頭を下げた。
「はぁ、もういいよ。今度は許さないから覚えておいて。もう言って良いよ」
トーマが溜息を吐くと呆れたように言って彼女達を追い払った。
なんだかキャロライン様達が少し可哀想に思ってしまった。
「ごめんね、リナ。もう、あんな嫌な思いも誤解も絶対させない。だから、許して欲しい」
「え? だって、今のはトーマのせいじゃないでしょ? そんなに誤らなくても大丈夫だよ」
私は思い切り頭を下げるトーマに向かってあたふたしてしまった。
だって今は王族であるトーマが私に頭を下げるなんて何だかいたたまれない。
「それでもだよ。俺はもう君に誤解されたくないんだ。だから、リナも何かあったら絶対に俺に言って欲しい。俺は絶対にリナを裏切らないから。君だけを愛しているんだ」
「トーマ……私もトーマだけ……よ」
私がそう答える間もなく私は気がついたらトーマの腕の中に包まれていた。トーマの気持ちが私に注がれ、前世での過ちを二度と繰り返さないという決意が窺えた。
その気持ちが嬉しくて私はトーマへの信頼が益々募った。
トーマは私を腕の中から解き放すと徐に跪いた。
「リナ、俺は前世でリナとの結婚を考えていた。でも、それは叶わなかった。俺が面倒な事から逃げていたせいでリナに誤解させてしまった。俺の責任だ。今世では絶対リナを幸せにする。だから一生俺の傍にいた欲しい。今更だけどちゃんとプロポーズしてなかったと思って……」
トーマは眉尻を下げ苦笑しながら私の左手を取り、ブルーサファイアの指輪を差し出した。
「トーマ……ええ、もちろん。私もトーマとずっと一緒に……」
左手の薬指に嵌めてくれたトーマの瞳と同じ色の指輪を見つめる私の瞳から大粒の雫が零れた。
私達は前世で叶わなかった愛をこの世界で紡いでいく。




