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13-王子の回想④

「莉奈は……莉奈はどうしたんだ? ここに来なかったのか?」

「クスッ、あの貧乏くさい娘のこと? 斗真、私は心が広いから多少のお遊びは多めに見るわ。でも、もうそろそろ私達結婚した方がいいと思うわよ。お互いにいい年ですし」


「君は何を言ってるんだ? いつお前と俺が結婚することになっているんだ?」

「叔母様には、貴方が帰ってくるまで待つようにと言われていたんだけど。そしたら私達の結婚をすすめるって」

 本人が知らないのに何でコイツ等は勝手に決めるんだ? 昔からどこかずれていると思っていたがここまでとは……


「そんなの俺は聞いてないが? 俺達はただの幼馴染みだ! それ以上の関係ではないだろ? 兎に角莉奈と会ったのか? 莉奈に何て言ったんだ?」

「そんなに怒らないでよ。本当のことを言っただけよ。私と斗真は婚約者どうしだからそろそろ斗真を返して貰えないかって」

 何て言うことだ! まさか莉奈はこの女の言うことを信じたのではないだろうな。俺の中に嫌な考えが過ぎった。


「……帰れよ!」

 腹の底から沸き上がる不安と怒りを引き連れて押し出された低い声が目の前の女に向かって放たれた。


「え?」

「何勝手に人のマンションに入ってんだよ! 婚約者なんてお前等が勝手に言っているだけだろ! さっさと帰れよ!」

 今までに感じたことがない怒りが後から後から沸き上がってきた。目の前の女を殺したくなるほどに。


 俺は強制的に百合亜を追い出すと電話を取って直ぐに莉奈にかけた。


 プツン……


 着信音も鳴らず切断された。着信拒否しているのか……?


 メールアプリも既読にさえならない。……まずい……どうしたら……?


 俺はいても立ってもいられなくなり、直ぐに莉奈のアパートに向かった。外から莉奈の部屋を見ると灯りは消えていた。もう眠ってしまったのか?


 翌日は莉奈は遅番で俺は休みだ。忘れ物を取りに行く振りでもして病院に行ってみようか……そう思ったのに中々莉奈と話す機会が無かった。


 それでも時々小さな用事を見つけてナースステーションに立ち寄ってみた。そんな時、莉奈が同僚の看護師と話をしている声が聞こえた。


「えーと、引継ぎはこれくらいです」

「ありがとう倉橋さん。もし分からないことが有ったら電話しても大丈夫かしら?」

「ええ、もちろん。もし電話に出ないようでしたらメールでも下さいね」


 引継ぎ? まさか、莉奈はこの病院を退職しようとしているのか? 


 そんな考えが頭に浮かび焦りが俺の心に広がった。何としてでも今日中に莉奈と話をしなくては。


 俺はその日莉奈の勤務が終わるまで待つことにした。


 まるでストーカーの様だなと頭の中に過ぎるのを無視しながら、病院から出て来た莉奈の後を追った。


 脇目もふらず駅に向かう莉奈に焦るあまり先に身体が動き、莉奈の腕を掴んだ。


「斗真……なぜ……」

「莉奈……誤解だ! 誤解なんだよ!」

「話して! 言い訳は聞きたくない! どうぞ婚約者とお幸せに!」

「婚約者? 何のことだ?」

「貴方のマンションにいた女よ!」

「違う! あれはっ……」


「危ない! 避けろッ!」

 その時、近くで叫び声が聞こえた。


 目の前に迫り来るヘッドライトの光。危険を察知した俺は咄嗟に莉奈を庇うように抱きしめた。衝撃が身体全体に響き痛みが身体に到達する前に意識が途切れた。


 ああ、莉奈……俺は君を守れただろうか……?


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