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嘘つきな旅人と森の少女

作者: 宵待 黒

 昔々、とある森に一人の少女が住んでいました。

 彼女は幼い頃は村で家族と過ごしていたが、村が悪者に襲われて、唯一生き残り一人で森に隠れながら暮らしていました。

 そんな彼女の過ごす森に、一人の男が訪れました。

 男の服はボロボロで、彼自身もところどころケガをしていました。

 彼は元々街で暮らしていましたが、とある理由で街の人々から迫害され逃げるようにして森へ辿り着いたのでした。

 森に迷い込んだ男は、少し休むために大きな木の下でうたた寝をしていました。

 そこに、森の中の薬草を取りに来た少女が通りかかりました。

 少女はボロボロな姿の男を見て、心配から声を掛けました。

「もしもし?大丈夫ですか?」

 声をかけられた男は目を開き、目の前の少女を見つめました。

「心配してくれてありがとう。僕は旅人なんだけど、少し疲れたからここで休んでいたんだ。僕の名前はライ。君は誰だい?」

 ライがそう尋ねると、少女は答えました。

「私はリリアン。お母さんが純粋な子に育って欲しいってつけてくれた名前なの。」

 リリアンは花のような笑顔を浮かべながら自己紹介をした。

「リリアンはこんな森の中で何をしてるんだい?」

「私はこの森に住んでて、今は薬草を摘みに来たの、」

「そうなんだ。もしよかったら何か手伝おうか?」

 そうライが聞くと、リリアンは

「ありがとう、助かるわ。もしよかったらその後お礼に家で少し休んでいって」

 と答えました。

 

 それから彼らは森の奥の薬草を摘み、リリアンの住む家に向かいました。

 リリアンの家は森の奥深くにあり、昔誰かが住んでいたように使い込まれたものでした。

 家に入るとリリアンは水を用意しました。

「疲れたでしょう?もしよければ飲んでね」

「ありがたく飲ませていただくよ。」

 そうして彼らは他愛のない話をしました。

 しばらく話すと、

「とても楽しいお話だったわ。ライはいろんなことを知ってるのね。」

 そう告げるリリアンに、ライは少しバツの悪そうな表情を浮かべました。


 少し間を空けてリリアンはライに尋ねました。

「もしかしてだけれど、ライは行くところがないの?もしそうならしばらくここで暮らさない?」

 ライは目をぱちくりとしながら

「本当にいいのかい?」

 と、尋ねました。

「もちろんよ!それじゃあ、これからよろしくね、ライ!」

 

 それからというもの、リリアンとライは二人で仲良く森の中で暮らしていました。

 森の中で暮らすに当たってのシーン

 彼らはよく、森に出かけ、木の実を取ったり、魚を釣ったりと楽しく暮らしていました。

 

 とある夜、嵐が来ました。雨音は絶えず鳴り、雷鳴が響きリリアンは眠ることができなくなりました。

その様子を見かねたライが話しかけました。

「ねぇ、眠れないの?もし良ければ楽しいお話があるんだけど聞いてくれないかい?」

 リリアンが怯えながらも頷くので、ライは語り聞かせました。

「これは、僕が旅をしていた頃の話なんだ。

「その日は街から街の移動で歩いていたところで、急な嵐に襲われたんだ。

「そう。ちょうど今みたいなすごい雨だったんだ。

「これはまずいなってことで、近くに見えた洞窟に入って行ったんだ。

「するとね、その洞窟の中には、なんと、クマがいたんだ!

「それも、僕の身の丈よりとーっても大きいクマでね。

「慌てて、僕もクマに向かい合って戦う姿勢を見せたんだ。

「すると、クマの方もびっくりして威嚇してきたんだ。

「それから、しばらく睨み合いをしてたんだけど、ふと気がついたんだ。

「このクマも外の嵐から身を休める為にこの洞窟に来たんだって。

「それから、僕は戦う姿勢をやめて、持っていた食べ物を地面に置いてみたんだ。

「すると、クマの方も何か分かったのか、洞窟の奥の方に進んでいったんだよ。

「しばらく待つと、奥の方からクマが魚を咥えて来たんだ。

「もう、こうなっちゃったら、仲良くなるしかないよね。

「一人と一匹で仲良く食事をしていると、気がついたら雨が止んでたんだ。

「それから、僕らは一緒に外に出たんだ、そこで空を見上げてみるとね、なんと、虹がかかってたんだ。

「僕とクマはお互いに見合って、なんだか幸せな気分になって笑顔で別れたんだ。」

 リリアンはライの話を楽しそうに聞き、そのお話について色々と語り合いました。

 気がつくとリリアンは眠りに落ち、いつのまにか、雨は止んでいました。

 

 それからというものリリアンは、寝る前にライの話を聞くことが日々の楽しみになりました。

 砂漠の国の話や、とても強い敵との激しい戦いの話、異国で食べたとっても美味しいものの話など色々な世界の話を男は語り聞かせました。

 

 それからしばらくしたある日、ライとリリアンが森で手分けして食料を取りに行っていた時、別の男が森に狩りに訪れました。

 その男は狩人で、近くの森から狩場を変えるために訪れたのでした。

 二手に分かれていたリリアンに気づいた狩人はリリアンに話しかけました。

 狩人は森の中で少女が一人で暮らしていることを心配しましたが、リリアンがライと住んでいることを告げると安心したような表情を浮かべました。

 それから、狩人はリリアンと話をしながら、森を案内してもらいました。

 そんな中、狩人は一つの噂話をリリアンに語り聞かせました。

 その噂話とは、このあたりの地域で、嘘を吐きまくる男が街から追い出されたというものでした。

 嘘つきな男は、街から出たこともなく今は生きているのかさえ分からないようです。

 その嘘つきな男の名前はライという名前でした。

 狩人と少女はそれから別れ、お互いの帰るべき場所に戻りました。

 

 リリアンは家でライといつものように過ごしていましたが、どうもライの様子がおかしいことに気が付きました。

 なんと、ライは森の中で狩人とリリアンが話していたのを聞いてしまっていたのです。

 その夜、いつものようにリリアンはライの話を聞き眠りにつきました。

 しかし、夜更けにふと目が覚めた少女は隣にライがいないことに気が付きました。


 ライはまた人から疎まれるのが怖く、また、何よりリリアンから嫌われるのが怖くなり、逃げ出してしまっていたのです。

 

 それからリリアンは家を飛び出し、暗い森の中でライを探しました。

 探し疲れた頃、リリアンはライと出会った木の下にたどり着きました。

 

 リリアンは、ライと初めて出会った場所で、また彼を見つけました。

 

 リリアンに気が付いたライは、逃げ出そうとしましたがリリアンがライの腕を掴み、引き止めます。


 そしてリリアンは話し出しました。

 「ライ。あなたの話が嘘でも、本当でも、どちらでも私は構わないの。」

 そしてリリアンは笑顔を浮かべました。

 「だって、あなたのお話で楽しい気持ちになれたのは変えようがない事実だもの。それは嘘なんかじゃないわ」

 そしてリリアンはこの場所で再度尋ねました。

 「ねえ、ライ。もしよかったら私と一緒に暮らして、また面白い話を聞かせてくれない?」

 ライの頬には涙が流れていました。


 

 このあたりの地域にはある噂話が流れました。

 森には仲のいい老夫婦が、いつまでも楽しそうに話しているという噂が。

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