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真夜中の散歩

作者: 真黒

 私は夜中に散歩するのが趣味なんですよ。

真夜中の澄んだ空気の中、誰もいない町を歩くのって最高じゃ無いですか。

だから歩く事自体が目的で、でもウォーキングとは少し違う……夜の街を歩くのが好きなんです。

ただただ歩いて、行き過ぎる家々にもそれぞれ生活があるんだな……とか、たまに明かりが点いている家があると、学生が勉強してるのかなとか

そんな事を考えながら、家から歩いて30分程の公園まで歩く訳ですよ。


 行きは良いんですよ、意気揚々と歩いて、公園で缶コーヒーを飲んで、飲み終わったら家へ逆戻り……


 ただ、行きに比べて、帰りのなんと心細い事か……

それに、帰りは得も言われぬ不安に苛まれるんです。

わかりますかね?

楽しい時間が終わる……

明日がやって来る……

そんな当たり前の不安とは違うんですよ……何なんでしょうね?

後をつけられている様な、追い詰められている様な……

いつも夜中の散歩から自宅へ帰る時、何かに追われている……そんな気がしてしまうんですよ。

無意味に後ろを振り返ってみたりしてね、

何も居る訳がないのに……


 ある時、いつも通り公園まで歩き、自販機で缶コーヒーを飲んで居ると、ふと子供の笑い声がした気がしたんですよ。

もちろん気の所為と思おうとしたんですけど、余りにも生々しい声で、耳から離れなくなったんです。

ゾッとしてその日は急いで家に帰りました。


 それでも次の日には、恐怖も薄れて来て、また夜中の公園へ散歩に出掛けました。

すると、また聞こえるんですよ、子供の声が、次の日も、また次の日も……

聞こえるか聞こえないかの微かな声で、何を言っているかは良く分からないんですが……

特に実害は無いので放っておきましたが、気にはなっていたんです。


 ある日、いつも通り缶コーヒーを飲んでいると、子供の声が数字を数えている事に気が付きました。


……2……5……8……もういいかい?


 日付も変わろうかといった深夜の事です、子供が遊んでいる訳がありません。

しかし、その声は紛れもなく子供の声でした。

これは行ってはまずい、急いで帰ろう……そう思いながらも、私の足は公園の中に向かっていました。


……もういいかい?


 いつもよりハッキリと声が聞こえます。

ただ、公園の何処から聞こえて来るのか全く分からないのです。


……もういいかい?


 また声が聞こえました。

ダメだダメだと思いつつも、私はつい好奇心に負けてしまい、返事を返してしまいました。


「もういいよ!」


 その途端、キャッキャっと、子供のはしゃぐ声が聞こえ、公園中の木々かザワザワと揺れ始めました。

私はハッと正気に帰り、公園を飛び出しました。


 得体の知れない声に返事をするなど、何て不用意な事をしたんだろうと後悔しながら、家路へと走りました。

10分も走った頃でしょうか、息が切れながらも公園からかなり距離が離れ、少し気持ちが落ち着いて来て「きっとあれは何かの勘違いだろう」そう思おうとしていました。

しかし、ふと何か違和感を感じました。

足音が多いのです。

私の歩く足音のパタパタの他にパタパタパタと歩幅の狭い、まるで子供が頑張って走って大人について来る様な……

私は背中に氷水をかけられた様な寒気を覚え、再び走り出しました。

子供の足音も付いて来ます。

私は必死に走りました、そして再びある事に、気づいてしまったのです。

……足音が増えている……

パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ

時々、キャッキャっと、子供がはしゃぐ声も聞こえて来ました。

私は正直、もうダメだと思い、半ば諦めていました。

無我夢中で走り、家まで後少しと言う所まで来た所で、足音が聞こえない事に気がつきました。

助かった……そう思った時、左の肩に気配を感じ、顔を向けると、真っ白な子供の顔がありました。

目は真っ暗で、まるで底無しの穴が空いているようでした。

歪んだ形に笑ったその口から、確かに子供の声で……


……みーつけた……


 私はそこから記憶がありません。

気がつくと、自分の部屋のベッドで寝ていました。

……なんだ、全部夢か……そう思って起き上がろうとした時、両足に激痛が走ったのです。

足を見てみると、両足のスネに子供くらいの手で掴まれた後がビッシリ……

そして明らかに部屋の中からキャッキャっと、子供のはしゃぐ様な声が聞こえて来ました。

どうやら私は何かを連れて来てしまった様です……


 それが一月前の話なんですが……今でも部屋で子供の声はするし、洗面台の鏡に子供の手形が付いていたり、窓ガラスの内側に手形がつく事があります。

……散歩ですか?

今でも行きますよ、夜中に。

その時は沢山の子供の足音も付いて来ています、逆にもう怖いものなんてありませんね。

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