月の使者
長旅を終え、月の旗艦では二人の人物が異様なスペースコロニーを見つめていた。
青みがかった髪に、あまりにも整った容姿の彼女達は、一人は17歳ほど。もう一人は25歳ほどの外見を与えられている。
17歳の見た目の女性、F2は不可解そうな表情でもう一人に訊ねた。
「よいのですかF1? 一週間も猶予を与えてしまって」
「わからないかF2? 時間が必要なのは私達の方だ。なんだあのふざけたコロニーは? なんだあの巨大な輪っかは? あの星形に見える小惑星は何だ? 一つでも理解が及ぶなら説明してほしいものだが?」
しかし逆に問い返されて、一つも返答できなかったF2は上位の個体であるもう一人、F1に謝罪した。
「……申し訳ありません。わかりません」
「そうだ、わからない。だがだからこそわざわざこんな場所に来た意味があったというものだ。相手は探査機もまともに稼働していないような場所に生身で住んでいるイカレたやつらだ。最低限の警戒は必要だ」
彼女達がここに来た一番の目的は、未知の技術の収集にある。
一部では確実に自分達を超える科学技術を持つ何者かが、今から向かうスペースコロニーにいるのは間違いないと、そう確信させる光景は目の前に広がっていた。
しかし、一方で遭遇した兵器の一つが自分達の使っているモノの鹵獲品であることも確かであった。
「確認できている戦力はF3のみです……機体のスペックで後れを取るようなことはないと思いますが?」
F2は以前このコロニーに鹵獲されていたF3シリーズに遭遇した個体だった。
彼女が目にしたF3のアウターは、大きく仕様変更されていたが、腕と足しかついておらず細部の特徴は変わっていない改造機。
未知の部分は多いが、あの時のデータを基にきっちりと対策をしていれば、そんなものに負けるようなことはないという目算だったが、F1は苛立たし気に眉を顰め、ぼんやりと髪を輝かせていた。
「勝って当然だ。そのために大げさなほどの戦力で探索などしている。鹵獲したF3を使いまわしている様なら人出は足りていないようだが……こんなところで成立していられるだけでも不可解だ。それなりに戦力もあるだろう」
「そうですね。コロニーの形式は我々の知るものと似ているようですが……一つお伺いしても構いませんか?」
「なんだ?」
「何で木が生えているんでしょうか?」
「知るか! ……だが未知の宇宙生物だろうが何だろうが、現状で手綱を握れるのなら良し。不可能であれば本国に少しでも情報を送らねばならん。そのためなら命を惜しむべきではない。我々はそのために作られている」
「相手が友好的であってもでしょうか?」
「ああそうだ。我々はあれを掌中に収めるためにここにいる。地球や、コロニーの連中を出し抜くためにだ」
F1に言われ、些細な疑問は意味のないことだと割り切ったF2は、自ら考えることを放棄した。
頭脳は二つあれば混乱の元になる。
我々に求められている役割は手足だと、それは生まれた時から決められていた。
「はい……すべては女王様のために」
「その通りだ。ともあれ久しぶりの戦闘だ、楽しむとしよう。まぁもっとも……ただの蹂躙かもしれんがね」
F1は立ち上がる。
そして付き従うF2は端末を操作して、コードを打ち込んだ。
「さて……解凍処理が終わり次第準備開始だ」
「は!」
コールドスリープが解凍され、同時に無数のカプセルから目を覚ますフェアリーシリーズ達は、命令を忠実に実行するために速やかに行動を開始する。