さぁ僕と『契約』しよう
シュウマツさんは黙り込み、静かな光を発して僕の目の前に飛んできた。
「あれだけ契約を拒否していた君がどういう心境の変化かな? 危機的状況にあえて禁を破ると?」
「禁じていたつもりはないんだけれど……心境の変化といえばそうかな? ……うん。そうだね。まさしくそうだ。シュウマツさんはどう? 出会ったばかりの時とは何もかもが違うとは思わないかな?」
そんなシュウマツさんに僕は問い返す。
初対面の危機的状況とはまるで違う。少なくとも僕はそう考えている。
僕らはそれなりの時間を共有し、それなりにお互いのことを話してきたつもりだ。
だからこそ『契約』なんていう、シュウマツさんの提案に冷静に踏み込める。
ぼんやりと光っているシュウマツさんはあっけに取られているのが僕にはわかった。
「……」
「ねぇシュウマツさん。僕はね? もうこのコロニーをただの“異世界の代替品”だなんて思えなくなってしまったんだよ」
出来る事ならここで終わらせたくはないとそう思う。
もしその契約というのが危機的状況を脱する助けになるのなら、僕が実行するのにためらいはなかった。
「君は僕達を通してこちらの世界に触れたはずだ。そして僕らの事を知ったはずだよ。そうやって僕らはこの場所を作ってきたはずだ」
「うん……そうだね。ここはいい場所になった」
「僕もそう思うよ。もちろん理解が十分とは言わないさ。でも判断する材料があるのは幸運だ。今回のこれは期限が来たとそういうことだろうと思うよ。理想的な契約は双方快く同意があるべきだ」
「ああ、その通りだね」
「今の僕なら、君の言葉をきちんと理解できると思う。その時間は君がくれたものだ」
あの日、宇宙の果てで出会った時から、今までの時間。それはシュウマツさんが、彼の好意でくれたものだと今の僕はそう思っていた。
「……なるほど。確かに今の君ならば契約の意味もきちんと理解できるはずだ」
「うん。それに僕は君があの時提案したこの契約っていうのが、最後の最後に絶対切り札になるってそんな気がしているんだよね」
下心はもちろんある。考えるに、相応に差し出すものもあるのだろう。
ただためらわない理由ならもうあった。
それはきっと、僕自身の命の危機よりも誠実なものであると思う。
「だから今度は僕から言わせてもらうよ。シュウマツさん、僕と『契約』しよう。もう遅かったらごめんね」
そんな僕の覚悟のほどはシュウマツさんに届いたようで、シュウマツさんの体の光は熱をもって僕に伝わって来た。
「はっはっはっ! いや……君は私よりもよほど、世界樹の才能があるよ! 私もこの場所には愛着を感じているとも!」
シュウマツさんは笑う。
陽気な思念は僕にも間違いなく伝わっていた。
そこに一切の嘘はない。僕は嬉しくなって、そしてそれ以上に胸をなでおろしていた。
「よかったよ、煩わしがられていたらどうしようかと思った。ずいぶん無茶ぶりもしちゃったしさ」
「ああ、それは確かに。ずいぶん難解なことも頼まれたがね? 苦労した分可愛いというものだよ」
「うん。可愛いね。簡単に手放したくないくらいに」
「よし―――いいだろう。では異郷で出会った良き友人よ。まず説明するとしようか? 私と契約するということがどういうことなのか」
「うん。よろしく頼むよ」
シュウマツさんは『契約』について語る。
あの時は話を聞くこともなく拒否したが、僕にとってその内容はすでにさして驚くような事ではなかった。